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メディアグランプリ

片付けられない私を変えたのは、ずっと変わらないあの生き物だった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田島奈緒(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「お部屋のお片付けをしなさい」
ああ、また言われちゃった。嫌だなぁ。
 
子供の頃、言われて一番イヤだったセリフ。
 
片付けられない子でした。いわゆる汚部屋だとか足の踏み場もないとか、そういうのではないのです。ただなんとなくゴチャッとした部屋だったとは思います。勉強机の実質面積は本来の面積の1/3程度。引き出しは満杯。本棚は前後二列。床にカバンがいくつか、たまに洋服も転がっているような。そんな部屋。
 
今にして思えば、我ながらツッコミどころは満載です。まず圧倒的に物が多かった。「物を大切にしなさい」と言われて育ち、全てのモノと私の間に思い出がありました。かわいい物も珍しいものも、みんな大切。
その上、完璧主義者でした。引き出しのものを全部床に出して丁寧に作業している途中で時間切れになって、結果的に作業前よりさらに散らかるというパターンも懲りずに繰り返しました。
だいたい、「片付ける」がどういうことなのか、わかっていなかったと思います。断捨離でもトキメキでも何でもいいのですが、とにかくそういうノウハウを教わる機会はありませんでしたし、考えたこともありませんでした。
もっと言えば、どこに何があるかほぼ把握できていたので、私自身は困っていなかったのだと思います。つまり片付ける理由は「やれと言われたから」という、実に子供らしいもの。その場しのぎで見た目をスッキリさせるためにどこかにしまい込んで、かえって失くしてしまうこともありました。
右のものを左に動かして、上の段のものを下の段に入れ直しているようなものですから劇的にきれいになるはずはありませんが、頑張ったわりにダメ出しをされることに、毎回苦しい思いをしていました。
 
絶望的な片付け下手。いつも頭の片隅から離れない「部屋を片付けなくちゃ」という漠然とした目標と、その一方で片付けに対する強烈な苦手意識。それらを解消することができないまま、私は大人になったのです。
 
ある日の深夜一時くらいのことでした。寝る支度をしながら、自室にポンと置いてあるカゴに目が留まりました。
あれ? なんだか急にホコリっぽくなったな。明日お掃除しよう。でもホコリってだいたい上に積もるものだと思うけど、このカゴは、どちらかというと下の方がフワッと……。えっ。まさかカビ!? 
そう。近づいて見てみれば、青とも緑とも灰色とも表現できる微妙な色の粉っぽいもの。これはきっとカビに違いありません。動揺しました。眠気も吹き飛ぶとはこのこと。意味もなく部屋の中をウロウロと歩き回ります。
だってカゴです。通気性がいいのが取り柄でしょう。しかもクローゼットの中などではなく、そこに出ているのです。私たちの家は森の中にあって、確かに湿度は高めです。でも、それはわかった上で大型の除湿機だって回しているのに! 
いや今は「どうして?」じゃなくて、「どうするか?」を考えなくては。深夜一時を過ぎたといえど、とてもこのままでは眠れません。
 
その条件下でカビが生えたことで、もう何も信じられなくなりました。件のカゴは気分的にクシャミが止まらないので処分することにしました。次はクローゼットの中。引き出しの中。一つずつ様子を見ていきます。絶対にアウトだと思った床置きの段ボール箱を恐る恐る開けると、これが意外と無事。ますますわけがわからなくなります。でも相手はカビですから、見えないからといって油断できません。エタノールと大量の衣類用乾燥剤を動員して、この日の応急処置は終了。翌日から私の戦いが始まりました。
 
お気に入りのジャケットにポツポツとした白いシミを見つけ、ああこれはもうダメだと諦めたとき、私の中に新しい、物に対して冷徹な私が生まれました。このジャケットを手放せるなら、他のものも処分できる。
すると、これまで苦手を克服したくて読んできた本やブログで見た話が、次々と浮かんできたのです。「あったら便利はなくても平気」とか「必要なものに“もったいない”なんて思わない。それはもう必要のないもの」とか。管理できる洋服の枚数は100~150枚、なんていう説も、実際に数えてみると納得感がありました。
結局私は、収納はできるけれど整理、つまり物を減らすことができないタイプの片付け下手だったのです。長年の漠然とした「片付けなくちゃ」は「数を減らさなくちゃ」に変わりました。やるべきことが具体的になると気持ちが軽くなるものです。このまま片付けコンプレックスまで“整理”できてしまうのではないかという淡い期待を抱けるほどに。
 
先日、久しぶりに両親が家に遊びに来ました。「おうち、きれいにしてるのね」と言う母。「そう? 見えるところだけよ」と応えながら、私は自分の中に子供の頃の私を探します。
お待たせ。これを聞きたかったのは、あなたなのよね。
 
***

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2018-10-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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