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メディアグランプリ

絵画モデルになって6時間じっとしながら感じたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:江口雅枝(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
イスに座っているだけで時給2,000円。食事代は別途支給。
 
いい条件だなぁと、安易に引き受けてしまった絵画モデルのアルバイト。またやりたいですか? と聞かれたら、やります! と即答できる自信はない。
 
なにもせず、じっとしていることが、想像をはるかに超えて大変なことだった。
 
午前中に3時間、お昼休憩をはさんで午後また3時間。
正確には、20分ポースを取って10分休憩。それを何度も繰り返す。一度ポーズを決めたら、目線でさえも動かさず、ひたすらじっとしているのが仕事だ。
 
 
美大進学のための予備校時代から、モデルを前にしたデッサンを数多く経験していたこともあって、一度は「描かれる側」を経験してみようという、純粋な気持ちもあった。絵画モデルといっても様々で、プロとして美術モデル協会のような団体に所属している人から、学生アルバイトまで幅広い。
 
著名な画家ともなれば、ご指名のモデルを雇って描くこともあるだろうし、恋人や家族など、被写体として描きたい大切な人をモデルにする作家もいる。
 
 
生まれて初めてヌードモデルを描いたのは高校生のとき。通っていた美術の予備校の講習会だった。冬ということもあって、裸になるモデルさんが寒くないようにストーブを何台か用意して部屋を温めて、ドアの窓ガラスには外から見えないように黒い幕が貼られた。
いつもは遅刻したりサボったりしている男子生徒たちが、この日ばかりは全員きちっと時間前に到着していて、まったくもう……と少々あきれた気持ちになった。
ヌードデッサンの授業がはじまると、モデルさんが身にまとっていた薄手のワンピースをさらりと脱ぎ、文字通り一糸まとわぬ姿になった。女性の裸なんて、それこそ家族とのお風呂や、温泉でも、見る機会はたくさんあったはずなのに、環境が異なるだけで、同じ女性が見てもドキドキする瞬間だった。
 
数十名の高校生と浪人生が混ざったクラスで、ふたりの女性がモデルを務めてくれていた。ひとりは20代後半くらいの、グラマラスなハリのあるバストがまぶしいキュートな女性。もうひとりは40代女性。横顔が特に美しく、アップにしたヘアスタイルが首筋を色っぽく見せていて、年齢を感じさせないしなやかな体つきが印象的な女性。
どちらのモデルを描くかは、生徒それぞれにゆだねられていて、見事なまでに男子生徒全員が、20代のモデルの方を向いていたことを、よく覚えている。
一方で、女子生徒たちは、成熟した大人の女性の色っぽさを感じる40代女性のモデルの方を選び、高校生ながらに、美しさに対する男女の価値観を考えさせられるシーンだった。
 
 
そんな高校時代から20年近くたって受けた絵画モデルの仕事。私の場合は、さすがにヌードをお披露目できるような被写体としての自信がないので、着衣モデルとして依頼を受けた。とはいっても、描く側を経験していたので、骨格を把握しやすいように、やわらかい素材のワンピースを選んだり、髪型も耳や首など描くポイントが見えやすいようにアップにして臨んだ。
 
3人の絵画モデルが、広い会場内のそれぞれのポジションにつき、先生や受講生の要望も受けながらポーズを決める。足の位置には床にテープを貼って目印にしたり、目線を決めたら、壁のあのシミを見続ける! と決めてずらさないようにした。
 
ポーズを取っている最中に寝てしまう人や、休憩をはさむたびに体勢がズレてしまう人、だるそうな顔で目力もなくただ座っている人。そういうモデルさんも見てきていたから「座っているだけ」という意識ではダメだと思い、できるだけ姿勢も目線も、凛とした空気感を出せるように心がけた。
 
トータル6時間、同じポーズで「じっとしているだけ」の仕事。
最初の頃は、頭の中で考え事をしてみたり、じっとしているだけのこの時間を、どうやったら有効活用できるかと考えていた。しかし、手も足も、目線さえも、一切動かせない状態だと、何かを思考し始めても、それを深めていくことができない。
そうだ! というひらめきや、どうかなぁ? という疑問、何かを強く思考しようとすると、体のどこかしらは、動きを伴おうとするのだ。腕組みしたり、天を仰いだり、眉間にシワを寄せたり、「考える」ことと「身体」の関係性が、無意識のうちに連動しているのだ。
ポーズを取っている最中に、頭の中の思考が活性化してしまうと、目線や姿勢がわずかでも動いてしまう。そのことに気づいてから、方向性を変えた。
 
こうなったら、徹底して、絵画モデルとして、被写体としての存在感を出すことだけに意識を向けよう。そう思い直して、後半からは何かを考えようとせず、ただひたすらに自分を見つめて描いてくれている人たちのために、モデルでいることに徹した。
 
休憩時間に、自分をモデルに選んで描いてくれている生徒さんの作品を見てみると、首を片方に傾けるクセのある私の姿勢が、ありのまま描かれていたりした。できるだけ動かさず、まばたきも減らして目線を一定させている目元を、真剣に描きこんでくれている人もいた。
 
 
時給2,000円かあぁ、悪くないなぁ。なんて、打算的に引き受けた自分を恥じた。描いている方は、真剣だ。だからこそ、描かれる側も、精一杯応えたい。描きがいのある被写体として、存在したい。
 
 
じっとしているだけの6時間、考えることをやめて、自分を見て描いてくれている人たちの思いを感じることだけに徹した。
 
デッサンの講習会が終わり、講師や受講生から「おつかれさま」とねぎらいの言葉をいただいた。身体はガチガチに固まっていたけれど、心はすごく満たされた。
 
 
心と身体のバランスが不思議な感覚になる6時間。
またいつか、経験してみるのも、悪くない。

 
 
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2018-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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