メディアグランプリ

メイクは自分へのエール


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:村山千尋(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
朝、鏡の前で。
「よし、大丈夫」
自分からの合格が出ないと私はなかなか家から出ることが出来ない。
私は、朝の準備の中で一番メイクに時間をかけている。
 
毎朝、ベッドの上で起きあがって伸びをする。横にあるカーテンを開けて台所に行く。
独立洗面台がないので、顔はいつも台所で洗う。
ハンドタオルで顔を拭いた後、私の朝の一番の楽しみが始まる。
 
私はメイクをするのが好きだ。
比較的低血圧の私の、いかにも眠そうで血色の悪い顔が鏡の中でみるみると変わっていくのが大好きだ。
 
まず薄いピンク色の下地をぬる。肌の凸凹が無くなってつるんとした感触になり、肌がワントーン明るくなる。その後、リキッドファンデーションを適量手の甲にとって薄くのばす。
肌の色ムラが無くなり、均一でつやのある肌になる。
 
眉毛は目立たないように見えるがかなり顔のパーツの中でも重要だ。
普段から眉毛の形を整えておいて、パウダーとペンシルで自眉毛を活かしてこげ茶色のふさふさ眉毛に仕上げる。そうすると、ナチュラルな印象の眉毛に仕上がる。
 
眉毛の色を明るくしたいときや太眉にしたいときは、明るめの茶色の眉マスカラを使って自眉毛の色を変える。そうするとより垢抜けた印象に仕上がる。
 
アイシャドウも気分によって変える。最近はまっているのは紫のアイシャドウだ。
赤みが強く、暖かな紫でまぶたを彩る。目の下も紫のアイシャドウをぼかしながらちりばめる。そうすることでまぶただけに塗るよりも華やかな印象になり、秋冬の暗くなりがちなファッションとよく合うようになる。
 
口紅は最近買った、秋の新作だ。こっくりとしたブラウンレッドと程よいツヤが上品な唇に仕上げてくれる。最近は口紅とアイシャドウの色が比較的華やかなのでチークは仕上げに血色が悪く見えないくらいに少しだけ、頬に色をのせる。
 
この時間、ずっとベッドの脇にある全身鏡の前の床に座り込み、夢中になってメイクをする。
自分はすっぴんが綺麗なタイプではない。色も黒めだし、目もそこまで大きいわけでは無い。髪の毛もまっくろだし眉毛も太くて、すっぴんだと田舎にいる貧しい少女のようないでたちだ。
 
だけど、メイクをすることで人は変われる。下地やファンデーションで肌のトーンは明るくなるし、眉毛を整えてきちんとパウダーやペンシルなどを使えばきりっとした印象になる。
そこまで目立たない目も、つけまつげやカラコンなどは使わずともアイシャドウとマスカラである程度大きくなる。
 
朝はもともと、あまり好きでは無かった。高校に通っていたころは朝みんなが話している中教室に入るのが嫌だったし、今でも朝は、今日という日をいい一日にできるかどうか不安になる。
 
だけどメイクをしてから外出をすると、自分に自信をもって前を向いて歩くことができる。
友達とあっても下を向かず、笑顔で手を振ることができる。明るく前向きに話すことができる。
 
実は私は、大学に入って引きこもりになりかけたことがあった。
高学年になり、授業やバイトなど、時間の決まった予定が少なくなり、卒論やサークルのことなどやることはたくさんあるのに家から出ることが出来ない。現実逃避のためテレビをつけっぱなしにして何も考えずに真顔で見続け、時間が過ぎるのを待っていたことがあった。
 
何もしていない自分が情けなくて、でもどうしたらいいのか分からなくて、誰かに話を聞いてほしかったけど誰にも言えなかった。
 
そんなある日、既に夕方になってしまった後鏡の中の自分がひどい顔をしているのに気づき、コンビニにご飯を買いに行くついでにメイクをした。
部屋から一歩も外に出ていない、髪の毛も顔もひどかった自分から、メイクを一通り終えて少しまともになった自分に生まれ変わった時、心が前を向いた。
その日はご飯を買いに行った後、家でテレビを消してやることを終わらせることが出来た。
 
意外に思われる方もいるかもしれないが、私は化粧直しをほとんどしない。
そもそも、口紅以外の化粧品を、でかけるときに全く持ち歩かない。
 
化粧直しをしないので、出先から帰ってくると必ず朝よりも綺麗じゃなくなっている自分が鏡の前にいる。だけど一日頑張った自分を、朝よりももっと、認めることが出来ている。
一日、必死になってバイトや勉強を頑張ってきた、自分の顔。少し化粧がよれていても、疲れた顔をしていても、それも勲章のように見えた。
 
毎晩私は、
「頑張ったね」と心の中で言って化粧を落とす。
 
そして翌朝、
「頑張ってね」といってまた、私はメイクを始めるのだろう。
今日という一日の不安と期待に胸をいっぱいにしながら。
これから頑張る私を認めて送り出してあげるために。

 
 
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2018-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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