メディアグランプリ

これは恋なのか? メールを打つ手が止まる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高木幸久(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
いつ頃からだろうか? Facebookで友達になったのは……
ふとmessengerをたどって見たら、2016年1月10日なんと私の誕生日に初めてメールを交わしていた。それが今ではお互いのFacebook投稿が気になり、毎日チェックをしては「いいね」をしたり、messengerで二人の会話を楽しむようになっている。これは恋なのか?
 
2015年の秋、彼女は私の店で開催される「売れるチラシの作り方教えます」と言うセミナーのチラシを手に入ってきて、
「このEmailアドレスに参加を希望しますと送ればいいですか」
と尋ねてきた。
「はいメールを送って頂ければ、私から返信メールを送ります。それで申し込みは完了です。参加費は当日お支払いいただければ結構です」
「分かりました。では後ほどメールを送りますので、よろしくお願い致します」
小柄で愛くるしい目が若いころの妻に似ていた。
やがて彼女から参加申し込みがあった。
あっ、また1か月後に会えるんだ。
 
店ではアイドルタイムを使い、交流会やセミナー会場としてフロアを無料貸出している。お陰で今は月に20件ほど開催するようになっている。無料と言っても種も仕掛けもある話ではあるが、講師の皆さんは喜んで使ってくれている。
貸出しを始めたばかりのころは自分でチラシを作り参加者を募っていたが、今はFacebookを使うことが多く、チラシ作りと並行してイベントページを活用している。
参加当日、彼女に
「Facebookはやっていますか?」
と聞いてみた。
「はい、やっていますよ」
「友達申請してもいいですか」
「大丈夫ですよ。よろしくお願いします」
 
彼女はその後も、いくつかのセミナーやワークショップに参加するようになりmessengerでの会話が頻繁になるのは、二人にとって自然な流れだった。
会話の内容はどこにでもある話である。彼女からは4歳児の子育ての悩みや、仕事の悩みを相談されることが多く、ときにはスタッフとのコミュニケーションが上手くいかないと嘆くこともあるが、概ね良好にマネージメントしているようだった。私はレストラン経営の傍ら心理カウンセラーもしているから、お悩み相談の相手に丁度良かったのかもしれない。ところがメールの会話に慣れてくると、いつの間にか友達感覚で書かれることもあった。30歳も年下の女性からプライベートな話をされるのは、うれしくもありくすぐったい気もしていた。ある時、彼女からのメールで、「今度あなたの店の近くに引っ越すから、ボルボV70が入る駐車場を探してほしいの、料金はいくらでもいいからお願いします」とあった。若い女性から頼まれたらホイホイと軽いノリで動く自分を笑ってしまう。何人かの不動産屋の友人に当たってはみたが、4cmほどサイズオーバーのためことごとく断られてしまい、最後は私がネットを使ってなんとか見つけることができた。
彼女に伝えると大いに感謝され、「今度一度ゆっくりお話がしたいんですが、お時間はいただけますか」とメールが来た。もちろん断る理由はない。すぐに時間と場所を決め、一週間後、近くのコーヒーショップで待ち合わせた。午前10時の店内は人も少なくゆっくり会話をするのには最適だった。家族の話をしたり、好きな音楽や映画の話をしたり、どんな仕事をしているとか、たわいもない話で終始していた。そして1時間ほど会話を楽しんだところで、私から
「店のランチタイムが始まるから、これで失礼するね。じゃぁまた」
と店を後にしようとしたとき、
「これこの間、駐車場を探してくれたお礼です」
と小さな紙袋を渡された。
「恥ずかしいから、帰ってから開けてね」
「ああいいよ。ありがとう。またメールするね」
年甲斐もなく体が熱くなり、どこか足取りがぎこちなく感じた。ガラスの自動ドアが開くのも待ちきれない自分がいた。少し歩いてふと振り返ると、彼女はコーヒーショップの前に立ち小さく手を振っていた。私は軽く頭を下げて、足早に歩きもう振り返りはしなかった。
 
店に帰るといつものようにランチタイムの忙しさが始まった。バッグの中にしまったあの紙袋の中身が気になりはしたが、午後の休憩時間にゆっくり開けようと、何もなかったかのように緊張感を保ちながら仕事を続けていく。いつもにも増してランチタイムは忙しかった。お陰で時間は思ったよりも早く感じ午後2時になり、あと片づけも済みスタッフと一緒の食事もそこそこに「お疲れ様でした」と休憩を取り始める。
「今日はお客様と打ち合わせがあるので、僕が店にいますから、出かける人は出かけて大丈夫ですよ」とスタッフに外出を促すと、皆思い思いに出かけて行った。
一人になりほっと一息つき、バッグにしまってあった紙袋を取り出しそっと開けてみた。中にはきれいなブルーの封筒と共にもう一つ小さな袋が出てきた。待ちきれなかったがはさみで丁寧に封筒を開けると手紙には、「先日はボルボの駐車場探しで大変お世話になりました。お陰で近くに屋根付きの良い駐車場が見つかりました。ありがとうございます。ところで、以前いただいたメールの中で、通っている歯医者さんが有名な方なんだけれど、言葉使いがきつく上から目線が嫌になったと仰っていましたので、よろしかったら私のところで検診なさいませんか。一度ご来院頂けましたら幸いです。同封の電動歯ブラシは私の一番好きなものです。ぜひお使いください」
と書かれていた。
 
あれから3年、娘の同級生とのmessengerは続いている。
「この次の検診はいつにします? お父さんは歯ぎしりが強いから奥歯のブリッジが痛みやすいので、5か月後でいいですよね」
「はいお願いします。老いては子に従えですかね」
「実の父にはもっときつく言っていますよ」
思わずメールを打つ手が止まる。

 
 
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2018-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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