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メディアグランプリ

今を生き抜くためのドラマ、「東京女子図鑑」という劇薬。


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記事:noma(ライティング・ゼミ土曜日コース)
 
東京女子図鑑、というドラマがある。
私はこのドラマを、いまでもことあるごとに、見返している。
 
監督はタナダユキ。百万円と苦虫女、ふがいない僕は空を見た、という、じんわりと、ヒリヒリした映画を撮る人で、大好きな映画監督だ。そんな彼女がドラマを撮る、しかも「東京女子図鑑」。これは、面白そうだと直感的に持った。
東京カレンダーという媒体で連載されていたものが原作で、私はそれもちらほらと読んでいた。アヤという女性が住む街を点々としながらその街の男を語るという、上品で、でもちょっと下世話で面白いエンタメ連載だったから、これをベースにタナダユキがどんな料理をするのか、わくわくしてしまった。
 
作品は連続11話のドラマで、アヤという主人公が上京してから、秋田に帰り、東京に戻るまでの約20年間を描いている。最初は三軒茶屋からはじまって、恵比寿、銀座、豊洲、代々木上原……と住む場所と付き合う男を変えていく。こうやって描いていると、男にすがりよるというか、自分では何もできない系女子という感じに思えるかもしれないが、彼女は、相当のバリキャリ女である。
新卒でアパレルメーカーに入り、29歳で外資ブランドに転職、30代のときの年収は700〜800万円。ブランドマネージャー、プロジェクトリーダー。なんともすごい経歴だ。ステータスだけみれば、なんでもできちゃう女で、視聴者としては感情の接点が持ちづらい主人公の設定なのだけど、彼女が苛まれる状況はすごく、痛々しい。というか自分にもガシガシと矢が刺さって、苦しいくらいに共感できる。
 
アヤは東京で「いい女」になるべく努力していくが、その「いい女」の定義がどんどんとアヤの年齢とコミュニティによって変わっていく。素敵な年上の男性と付き合えるかどうか、高級レストランにデートで誘われるかどうか、条件の良い人と結婚ができるかどうか、愛情を注げる子供がいるかどうか、かわいい男の子を養えるかどうか。彼女は常にそれに追われていて、あれではない、これではないと自分自身を変えていく。変えても、変えても、そこには自分より幸せ(そう)な女がいて、打ちのめされていく。どうしようもない、終わりのない戦いだ。
 
26歳の私の身の回りにはこういうことが幸せです、という、それぞれの女の定義が溢れている。大好きな彼と結婚しました、息子がとてもかわいいです、年下の男の子と遊んでます、仕事でMVP表彰されました、一人飲みしちゃいました、旦那と旅行してます、仲間と幸せなシェアハウスに住んでます。SNSは、そういう定義同士の、異種格闘技戦だ。もちろんその戦いの中に、私自身も参戦していて、写真をアップする。「今日もおいしいものを食べました」、と。
 
基本的にはこの「自分なりの定義」の発信に、いくつの「いいね」をもらえるかの勝負なのだけれど、実は猛烈に他人が羨ましく、妬ましくなる瞬間がある。この子のこれが欲しい。そういう感情が渦巻く瞬間がある。それをあえて大胆に、ひらりひらりと自分の感情に従って、果敢に取りにいく、そして取りに行けてしまうほど利発な女、それが主人公のアヤなのだ。
だから、ドラマの中で、アヤが別の女に打ちのめされるたびにドキッとする。「他人を羨む感情が招く悲劇」のようなものを全11話で、繰り返し、手を変え、品を変え、ループで見せつけられているような気持ちになる。「あなた、自分がなくなるとこうやってダメになりますよ」と、言われているような、ヒリヒリとした教訓のようなものがこの作品の中には練りこまれている。
 
私が無意識にこのドラマを見返すときには共通項がある。
それは、自分の生き方に自信がなくなって、弱った時だ。
 
私はどちらかというと、まあまあ仕事が好きな方で、たぶん、恋愛や結婚にはあまり興味がない方だ。
友人や家族や大切にしたいものはたくさんあるけれど、いつでも彼氏が必要とか、いますぐ結婚とか、そういう感情は素直に湧いてこない。もっと仕事をバリバリしたいし、挑戦してみたいこともたくさんある。でも、時折無性に他人のものが欲しくなって、羨ましくなる時がある。たいていは、自分の決めたことがうまくいかなくて、仕事で失敗したときに訪れる。自分の感情とは別の「みんなが持っているあれを欲しい」と思ってしまうような感情が、悪魔みたいにやってきて、自分の定義をぶち壊そうとする。その感情にどうしようもなく襲われた時に、私は薬がわりに、このドラマを見るようにしている。他人のものが欲しくなる自分をアヤの中に投影して、「それは本当にわたしが本当に欲しいものなのか」と自分に問うている。前述の通り、ドキッとしてしまうくらいの効果なので、それはだいぶつらい所業なのだが、パチンと頰を叩かれてしゃんとしろ! といわれている気持ちになるのだ。
 
誰が幸せで、誰が幸せじゃないかなんて、結局のところ、わからない。結婚とか出産とか、そういうライフステージの圧力も、女性管理職とか、女性の起業とか、新しいキャリアに対する圧力も、ぐちゃぐちゃに混ざった現代社会で、誰もが羨む一番幸せな女なんて、いるわけがない。全員の尺度が違うのだから、それを決めるのは、無理な話なのだ。
 
だから私たちは、定義をしていく。「わたしはわたしのこういう幸せを生きていきます!」と。もちろん、自分の定義はどんどん変えていい。変えていいのだが、他人にそれを任せたり、委ねたりしてはいけない。他人に流されば流されるほど、不細工な女になっていく。だから自分で幸せを、定義していくべきなのだ。そういう激励のようなメッセージを、私はこの作品に感じているし、私自身も、きっとそうだと信じている。
 
あなたがもしも自分の生き方や、自分の幸せに疑問を持った時があったら、ぜひこの東京女子図鑑を見て欲しい。あなたを優しく認めてくれるどころか、胃がキリキリしたり、のたうち回ったりすることの方が多いかもしれないが、不思議と自分を見つめ直せる劇薬になるはずだ。

 

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2019-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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