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せいろが結んだ母とわたしの思い


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:外園佳代(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
うちの調理器具の中で何がいちばん好きかと聞かれたら、わたしは迷いなく
「せいろ!」
と答えるでしょう。
 
と言っても、別に高級品ではなく、通販で買った1000円ちょっとの竹製のせいろです。
 
手持ちの鍋にお湯をわかして、その上に食材を入れたせいろをちょこんと載せ、しばらく蒸します。
 
このせいろで蒸すだけで、なんでもおいしくなります。
じゃがいも、さつまいも、えのき、とうもろこし、にんじん、などなど。
 
キャベツをざくざくと切って、塩をちょっとまぶして、さっとせいろで蒸すだけで、甘い蒸しキャベツができあがります。
 
里芋は、皮のまわりに包丁でぐるりと一周、切れ目を入れた後、やわらかくなるまで蒸すと、つるんと皮がむけます。
田楽風にお味噌をつけて食べるのが最高です。
 
高1の娘はブロッコリーが好きなので、ブロッコリーもよく蒸します。
ブロッコリーの房も軸もざくざく切って、塩をまぶして、さっと蒸すだけ。
緑鮮やかに蒸し上がったブロッコリーをおかずのわきに入れると、お弁当がぱぁっと華やぎます。
 
キャベツや白菜を下にしいて、上に豚肉や鶏肉をのせて蒸すのもお気に入りです。
野菜が蒸し布の代わりになる上、野菜にお肉のうまみがしみこんで、お肉も野菜もおいしく食べられます。
 
そして、蒸すという調理法は、ゆでるのとちがって、うまみが食材から逃げません。
さらに、炒め料理のようにずっと手を動かしている必要がありません。
そのうえ、焦げないし、油を使わないのでヘルシー。
 
ここまでせいろについて熱く語ってしまいましたが、せいろを売りたいわけではありません。
わたしがこんなに蒸し料理が好きなのは、実家に大きな蒸し器があったためだと思います。
 
それは、アルミで出来た、三段重ねの仰々しいものでした。
 
母は、その蒸し器で、よく茶碗蒸しを作ってくれました。
蒸し器のいちばん下の鍋にたっぷりお湯をわかし、上の二段で茶碗蒸しを蒸すのです。
その際、ふたの下には手ぬぐいをはさんで、蒸気が食材に落ちないようにします。
 
ようやく蒸し上がって、蒸し器の蓋を取ると、ふわぁーっとゆげが食卓に広がりました。
つるんと蒸し上がった茶碗蒸しは、本当においしかった。
 
母はそのほか、プリンや蒸しパンといったおやつも作ってくれました。
はふはふと息をはきだしながら食べたことをなつかしく思い出します。
 
しかしわたしは結婚後、蒸し器を買うことはためらいました。
社宅のせまいキッチンには、三段重ねのアルミ製蒸し器は、あまりにもサイズが大きかったからです。
 
「今は、電子レンジという便利なものがあるのだから、それでいいや」
と思おうとしました。
 
しかし、肉まんやしゅうまいを電子レンジで蒸しても、なんとなくしっとり感が足りません。冷めると固くなってしまいます。
 
やはり、蒸したい。
でも、蒸し器はじゃまになる。
 
いろいろ模索していたところ、「蒸し皿」なるものに出会いました。
蒸し皿とは、穴が空いた金属製または陶器製の脚付きのお皿です。
 
深めの鍋に少量のお湯をわかして、その上に、食材をのせた蒸し皿をのせて蒸すと、手軽に蒸し料理ができます。
 
「これは便利だな」
と、わたしは蒸し皿を使うようになりました。
金属製や陶器製、サイズが変わるものなど、さまざまな蒸し皿を買ってみたりもしました。
 
しかし、しばらくすると、わたしは蒸し皿を使った蒸し料理をしなくなってしまいました。
 
なんとなく、「楽しくない」のです。
 
そのときは理由がわかりませんでしたが、今ならわかります。
 
蒸し器で蒸し料理を作っているときのような、
「いかにも蒸してる」
という、その演出感がわたしはほしかったのです。
 
しかし、やっぱり、金属製蒸し器はデカイ。
 
そのジレンマに悩んでいたときに出会ったのが「せいろ」です。
 
何で読んだのかは忘れましたが、「せいろは、適度に蒸気がぬけるので、金属製の蒸し器ほど温度が上がらず、食材がおいしく仕上がる」という旨のことが書かれていました。
 
それを読んだらせいろがとてもほしくなり、ネットでせいろを探してみました。
 
すると、値段もサイズも手頃なものがいくつか見つかったのです。
せいろ用の蒸し鍋も売られていましたが、鍋をこれ以上増やすのはイヤだったので、手持ちの鍋に合うサイズのものを買うことにしました。
 
そうして届いたせいろで初めて蒸し料理をした日。
 
忘れられません、と書ければかっこいいのですが、何を作ったかは忘れてしまいました。
でも、
「せいろで蒸す料理ってこんなにおいしいんだ!」
と、わたしはいたく感動しました。
 
金属製の蒸し器で蒸すよりもなんだか味がやさしいのです。
さらに、蒸気が落ちないので、ふたの下に手ぬぐいをはさむ必要もありません。
 
また、サイズが小さいので、蒸すためのお湯を大量にわかす必要もなく、
「ちょっと蒸そうかな」
と、気軽に蒸し料理ができます。
 
そして、何よりすばらしいのは、せいろで蒸しているときの外観です。
 
いかにも
「せいろで蒸してます!」
というビジュアルが楽しい。
 
せいろのまま食卓に出しても、点心料理のようでかっこいい。
 
そして、せいろのふたを開けると、蒸された蒸気と食材のいい匂いがぱぁーっと広がって、なんとも幸せな気持ちになります。
 
こうして、せいろがわが家にやって来て依頼、蒸し料理がひんぱんに食卓に登場するようになりました。
 
そして、蒸し料理を食べていると、やはり思い出すのは母のことです。
 
あの大きな金属製の蒸し器で蒸し料理を作るのは、けっこうめんどくさかったことでしょう。
でも母は、家族のために、いろんな蒸し料理を作ってくれました。
母の手料理というと、やはりあの茶碗蒸しがまっさきに浮かびます。
 
わたしが今、幸せな気持ちで自分の家族に蒸し料理を作ってあげられるのは、きっと、母の蒸し料理の思い出のおかげです。
 
そんなことを考えていたら、「蒸す」という音は、「結ぶ(むすぶ)」と同じだと気づきました。
調理器具は変わったけれど、「蒸す」ことが、見えないエネルギーを通じて、
「おいしいものを食べてほしい」
という母の思いとわたしの思いを「結」んでくれたのだなぁ、と思います。
 
 
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2019-01-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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