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メディアグランプリ

太陽が彗星を照らすとき、僕は決意する


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高木英明(ライティングゼミ・平日コース)

「ちゃんと身の潔白は主張したほうがいい」
同僚たちはそう心配して僕をこの場所へ送り出してくれた。
祇園四条駅で下車した僕は、同僚が書いた地図を頼りに約束の場所へと急いでいた。風が強く、前方から飛ばされてきた新聞紙が足元に絡みついてくる。

紙面に大きく書かれた「ステファン・オテルマ彗星、三十八年ぶりの最接近!」という文字が目に入った。朝からテレビでも盛んに報じられているニュースで、今夜、地球に最接近するという。

彗星と同じく、遠く北海道からの長旅を経て、ようやく京都にたどり着いた僕は、会長の待つ本社ビルへと急いでいた。勤務先である家電量販店では、毎年、京都本社で支店長総会を開催している。全国の支店長が集まり、業績報告をしたり、経営陣の講演を聞いたりするのだ。
支店長ではない僕は突然、支店長代理という役割を仰せつかり、この総会に出席することになっていた。そのことについて職場ではいろいろな憶測が飛んでいた。

今年の総会では、数年ぶりに創業者の会長との個人面談の場が設けられている。実績を残した支店長にとっては光栄なひとときであり、成績の悪い支店長にとっては胃が痛い時間でもあった。

総会は本社の大会議室で行われた。ステージの大画面に、成績順の支店ランキングが映し出されている。僕の支店は全国最下位で、今期限りでの閉鎖も噂されていた。

エリア統括の清盛さんが最前列の席に陣取り、熱心にメモをとっている。彼は複数店舗の支店長を兼任していたが、総会の直前、僕達の支店の責任者から降りた。代わりに僕を支店長代理に指名する辞令が下った。
「貧乏くじ引かされたね」
僕が任命されたのは、清盛さんの仕組んだ社内工作の結果だろうと職場の人たちは噂していた。閉鎖寸前の支店の責任を誰かが取ならなくてはならないのだ。
「辞退するか、会長にちゃんと弁明したほうがいい。本当の責任者は清盛さんだって」
皆の言うことも一理あったが、会長に会ってみたいという気持ちもあり、辞退はしたくなかった。

事業報告が終わり、会長が壇上に立つ。
「三十八年前にこの会社を立ち上げたときも、今年と同様ステファン・オテルマ彗星の白い尾が夜空に輝いていました」
会長のスピーチが始まった。
「彗星は太陽の熱を浴びることで、本来持っている物質が輝き、光の尾を出すことができます。私はリーダーとして、従業員たちが本来持っている能力を引き出す太陽のような存在でありたいと考えました」
創業時の苦労話、大勢の従業員を率いていく責任などについて会長は語り続けた。

三〇分以上にわたる講演の後、いよいよ個人面談に移っていく。支店長たちは、順番に個室へ呼ばれた。
「ちゃんと身の潔白を主張したほうがいい」
同僚たちのアドバイスが頭をよぎる。どう弁明すべきか迷っていた。なにしろ全国最下位の実績だ。
「清盛さんのこともチクったほうがいい。彼が本当の責任者なんだから」
そんな声も脳裏に浮かんだ。
支店長達が入れ替わり出入りしている。否が応でも緊張感は高まっていった。

面談を終えた者達が次々と戻ってくる。終盤にさしかかり、清盛さんも戻ってきている。僕と目が合うと、「おう」と右手を上げ、近づいてきた。ポンと僕の肩に手を置き、「君のことは良く言っておいたから」と言った。職場の人達がこのときの意味ありげな表情を見たら、よからぬ噂を立てるだろうと思った。

いよいよ僕の順番が回ってきた。係に案内されて個室へと入っていく。会社の太陽に最接近する瞬間だった。
ふと、清盛さんのニヤついた表情が頭をよぎった。彼は伝説の創業者に何を伝えたのだろう。自分の置かれている状況をどう釈明すべきか、僕はまだ迷っていた。

しかし、会長の前にたち、顔を見た瞬間すべてを忘れ、僕は自然と謝罪の言葉を口にしていた。
「力及ばず、申し訳ありませんでした」
つい数秒前まで、どう弁明しようか考えていたのに、不思議なくらいあっさりと謝罪の言葉が口をついて出てきたのだ。窓から入る陽の光は、後光のように会長の輪郭を照らしている。光に包まれた会長を前にして、姑息な言い訳などできるわけなかった。
会長は終始微笑みながら僕の謝罪を聞いていた。うん、うんと頷くと、「清盛くんも君と同じように謝っとったな」と言った。
え? 清盛さんが?
「彼も同じように謝っていたよ。力及ばず、この成績は自分の責任ですと」
意外だった。業績不振の責任をうまく僕に押し付けたのではなかったのか?
「彼は、支店を君に託したいと言っていた。君なら顧客の信頼をもう一度勝ち取れると」
「閉鎖しないんでしょうか?」
「君は総会の直前に支店長代理になったのだろう? なのに自分のことのように謝ってくれた。その誠実さと責任感があれば、支店の立て直しも安心して任せられる」
会長は太陽のような明るい表情で微笑んでいる。内心僕は、清盛さんを疑っていた自分を恥じた。
「責任者にとっていちばん大切なのは責任感だ。それは君にも清盛くんにも十分備わっている。私はそこに光をあてたいと思う」

面談は終わり、深くお辞儀をしてその場を退出した。総会が終了したときには夜の八時を過ぎていた。
数年ぶりに現れた会長と至近距離で会話できた僕は、素直に謝罪する気持ちになれた。もしかしたら清盛さんも同じだったのかもしれない。太陽のような会長の熱に触れて、僕たちは自然と謙虚な気持ちになることができたのだ。

総会が終わり、宿泊するホテルへ向かう途中、夜空を見上げて彗星を探してみた。一瞬のことであるが、白い棒状の光が空を横切ったように見えた。今見えた光こそ、今日たびたび耳にしたステファン・オテルマ彗星なのかもしれないと思った。
もし今後、正式に支店長を任せてもらえるのなら、職場の太陽となって、頑張っている人たちのいい部分に光をあてられる存在になりたいと思う。
三十八年に一度しか見ることのできないステファン・オテルマ彗星の輝きを脳裏に焼き付けながら、僕はそう決意していた。

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2019-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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