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お客さまからかかってきた電話を通じて、今日、今、このときから「気が利くなぁ」と言われる人になるたった1つのルールとは?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高林忠正(ライティング・ゼミ特講)
 
 
親しい間柄であっても、電話によるコミュニケーションは未開の地に足を踏み入れるようなものかもしれません。
 
「ほんとですか?」
 
「そりゃすごいですね」
 
「私も気になっていたんです」
 
「とんでもございません。いずれにしてもおめでとうございます」
 
「お楽しみでございますねぇ」
 
「ご主人さまもご一緒だったんですか?」
 
「なるほど、そうだんたんですね」
 
「ほんとに、おめでとうございます」
 
平日の午前10時でした。
先輩の営業マン、加藤(仮名)さんのもとにVIPのお客さまから電話がかかりました。
百貨店に入社して3年目、私の所属は店頭の販売から外回りの営業に変わっていました。
 
コミュニケーション上手な加藤さんでした。
完全にお客さまが心許している関係となっていました。
営業マンとしての実力はお墨付きでした。
 
さらにVIPのお客さまがお知り合いに加藤さんを紹介するのです。
紹介されたお客さまが「ぜひ加藤さんから品物を買いたい」というネットワークが広がっていたのです。
 
私は羨望しか抱いていませんでした。
 
(加藤さんて話が上手だよなぁ……)
(とても真似できないよ……)
(そもそもオレとは違うんだよなぁ……)
 
先輩に抱いている3フレーズでした。
 
その日もこの3つが無意識から浮かんできました。
 
「ところで奥さま、……についてお伝えしてもよろしいでしょうか?」
 
「ありがとうございます。実は来週、……の第一便がフランスから届くんです。ですので……」
加藤さんの話すリズムが変わったのが分かりました。
 
「それにしても、このたびはおめでとうございます」
 
その日、加藤さんとお客さまとの会話は約6分ほどでした。
はたで聞いていても、お客さまへのほめの言葉ばかりでした。
しかし決して、「よいしょ」しているとか、歯の浮くようなお世辞を言っているわけではありませんでした。
 
トップ営業マンとは、こうあるのかなぁという見本でした。
自分にはない、特別なスキルを持っているように思えました。
 
その日の昼でした。
「めし行こうか」
たまたまオフィスに戻ってきた私は、加藤さんにランチに誘われました。
近くの定食屋さんでした。
 
サラリーマンで混んでるなか、カウンターの席が2つだけ空いていました。

「いつも思いますけど、加藤さんってすごいです」
名物の焼き魚定食を口にしながら、この言葉が自然に出てきてしまいました。
「うらやむ」というよりも、正直言って自分にはあんなにはできないという本心からでした。
 
そんなことないよ
と答えた加藤さんに対して、なにか嫉妬のようなものが急に芽生えていました。
 
「今日の電話でのお客さまへの提案ってなんだったんですか?」
 
「いや、以前、ショーメの品物にご興味をお持ちだったんで、来週たまたまフランスから品物が入荷するだろ。だから、早く伝えようと思っただけなんだよね」
 
「電話でセールスなんてすごいです」
 
「とんでもないよ」
 
「それにしても、なんであんなにしゃべれるんですかぁ」
 
「別に特別なことってないって」
 
(謙遜するのもいいかげんにしろよ、あんた特別なんだから……)
個人としてのセールス実績だけではありませんでした。
 
部長をはじめ、常務取締役本店長からも厚い信望がありました。
 
そのうえ、後輩の私から見て、何よりも気が利くのです。
 
「なんていうか、教えてくださいよその秘訣を」
(先輩だけずるいですよ。こっちはまだ人とのコミュニケーションに慣れていないのに)
 
「何も特別なことしてないって」
 
(ウソでしょ。歩くVIPセールスマンなのに)
 
「教えてくださいよ!」
 
「おまえ、そんな虫のいい話ってないよ!」
 
食事中なのに、沈黙の時間が流れてしまいました。
 
(なんかまずいこと聞いちゃったかな……)
先輩に対して気まずい思いを感じ始めていました。
 
その日の夜8時過ぎ、オフィスには私一人だけが残っていました。
仕事を終えて帰ろうとしたとき、加藤さんが外出から戻ってきました。
ランチタイムのときのやりとりが思い出されました。
 
「おつかれさまです」
デスクを整理して帰ろうとしたそのときでした。
 
「軽く行かない?」
 
先輩からの誘いでした。初めてでした。
 
「はい」
(仕方ないけど、まっいいか)そんな感じでした。
 
加藤さんに連れられて行った先は、ある有名ホテルでした。
 
(なぜここに?)
 
来週そのホテル開催されるお客さま向けイベントの会場の下見を兼ねてでした。
宴会場のレイアウト、入り口、そしてフロアのカーペットの感触を確かめた後、私たちはラウンジに行きました。
 
「わるいなぁ、付き合わせちゃって」
お酒を飲まない加藤さんは、コーヒー党でした。
先輩にならって私も、アイスコーヒーを注文しました。
一口飲んだだけで酸味とほどよいコクが口いっぱいに広がりました。
 
何か異空間のような感じがしました。
 
「入社2年目のときだったかなぁ、たまたまある先輩から『電話に気をつけろ』って言われたんだよね」
コーヒーカップを手にした加藤さんは、昼の続きを話し始めました。
何か遠くを見るように。
 
「電話って相手が見えないよね。お客さまから電話をいただいたら、いくら親しい関係であっても、過去はリセットして話を聞くってことなんだよね」
 
リセット?
そんな意識はありませんでした。
 
「聞くことに集中することなんだ。お客さまは今何を考えていらっしゃるんだろう? ということにね」
 
電話中に相手を想像するって、初めて聞いたことでした。
 
「そのうえで、こちらの用件を言うときは、必ず『いただいた電話で恐縮ですが』と添えるってことなんだ。これって礼儀なんだよね」
 
恥ずかしいことに、そんな配慮すらありませんでした。
 
「先輩はもう1つ言ったんだ。こちらからの話は、20秒以内にまとめろって」
 
ええ、20秒?!
驚きました。私自身、話が長いと言われていたからです。
 
「おれだって、その先輩のアドバイスをモットーとしているだけなんだ」
 
加藤さんは何も特別な人ではありませんでした。
成果には理由があったのです。

 
 
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2019-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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