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メディアグランプリ

妹の作ったハンバーグが教えてくれたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鬼塚菜々(ライティング・ゼミ土曜コース)
 
 
「大学、どこから通ってるの?」
こう聞かれて答えるとき、“実家”というワードを出すと、「楽できるからいいね」というニュアンスの反応をされる。そうでもないんだよねと心の中でひっそりと叫ぶ。うちの両親は共働きなのだ。「母親は仕事を終えて、スーパーで夜ご飯を買って21時ごろ帰ってくる。父親は仕事終わりに同僚と飲んでくるから、たいてい帰宅は日付が変わる頃。だから、実家暮らしだけど家事手伝わないと家族としてまわらないんだよね。」と言うと、相手は少しばかり困った顔をする。それでも私は、“かわいそうな女の子”をアピールせずにはいられなかった。
家事を手伝うようになったのは「親がこんな忙しいのだから、時間があるときは私が代わりにやろう」という思いつきからだった。その日から、夕飯を週に何回か作るようになっていったのだ。毎晩スーパーのお惣菜では飽きてしまったという理由もあるのだが、母親の忙しさの肩代わりができればと、可愛い娘が考えるようなことも割と本気で思ったからだ。
なんでも義務感に駆られずにやることは、充実感を得られる。料理は花嫁修業にもなるし、新しいことを知っていくのは面白かった。味付けは「CookDo」に任せていたので、いつもおいしいものを自分の手柄のように振舞えた。
3カ月くらい続けていると、だんだん母親が今日もご飯を作ってくれるのではと期待するようになった。
「それは違う」。
私はあくまで、忙しい母親のために“自主的に”やっていたのだ。そういう想いから、しばらく台所に立たなくなった。毎日、ナイトショーの映画を観たり大学で遅くまで勉強したりと、なるべく早く帰らないようにした。
こんなことをしていると、ついに自分の情けなさに気がついた。本来母親のやるべき家事を仕方がないから“やってあげる”という認識がどこかにあった。こんなちっぽけな意地をはっていた間も、母親は毎日のようにスーパーの買い物袋を提げて帰ってきていた。ごめんなさい。心の底からそう思った。
そうして再び、夕飯を作る生活に戻った。だが、大学の定期試験と就職活動が近づいてきていた。それまでにも週に3日ほどアルバイトもやっている。忙しくなることは安易に想像がつく。案の定、定期試験のレポート、就職活動の履歴書などの締め切りに追われることになった。徹夜をしてやっとのこと終わらせる、なんていう日も続き、夕飯なんて作る心の余裕も、時間的な余裕も消えてしまった。
そんなある日台所をのぞくと、中学生になる妹がなにやら作っていた。今日は調理実習だったのだろうか。授業で習ったものを家でも作りたくなるという、あの衝動にでも駆られているのか。
作っていたものはハンバーグだった。無駄に大きくて、料理初心者が作ったと一瞬でわかる不格好なフォルム。中学生が作った料理なんて、どうせ硬かったり味がなかったり。「まあ今日は夕飯を作らなくても母親に対して罪の意識を感じなくて済む」、それくらいに思っていた。
トマトとコンソメのスープがしみて、ケチャップのアクセントが効いている。思わず「おいしい」と言いそうになった。姉のプライドでなんとか押し殺したのだが。私は自分で味付けをしない。「CookDo」にしてもらっている。それがどうだ。妹は自分で味を調え、この美味しさ。しかもどうやら今日は調理実習ではなかったらしい。なんだなんだ。今まで夜ご飯は、長女の私がやらなくてはいけないことだと思っていた。私にしかできないことだと思っていた。まるで模試でA判定を出して勉強しなくなって失敗した受験生じゃないか。私は自分の立ち位置に過信していたのだ。長女という立ち位置に。
結局私は、実家暮らしなのに両親が共働きだから、自分の時間を割いて家事をしている“かわいそうなやつ”だと思いたかったのだ。本当にかっこわるい。どうしようもない恥ずかしさがこみあげてきた。
だが同時に、「今まで家のためにやってきたことが妹に伝わったのでは」とも思った。夕飯を作り始めてからというもの、家のことを何もしない父親や、家事は母親がするべきだという暗黙知に疑問を感じていたのだ。家事は全員野球、それでいいじゃないか。いつしかこんなことを考えるようになっていた。私のしてきたこと、考えていたことがほんの少しでも伝わったのかと思うと、なんかもう、それだけでよかった。
「私が先陣をきってやることで、全員で家事をして、ひとつの家族としてちゃんと機能する」。私はわたしなりの使命を見つけたのだ。まだまだ改善すべきことは山積み。ごみ捨て、洗濯、そして掃除。もう少し家族のために、そして自分のために、この生活を続けていこうと決めた。妹の作ったハンバーグは私に大事なことを教えてくれた、いわば恩師だ。もう食べてしまったけれど。
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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2019-02-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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