メディアグランプリ

ネットで出会った顔も知らない人たちが、 私の夢を助けてくれた日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:うえたゆみ(ライティング・ゼミ土曜コース)
 
 
「ない、どこにもない」
 
私はとても焦っていた。
 
「ネットを検索しても、雑誌を調べても、TVの特殊番組を見ても、どこにも情報がない」
 
「もう京都国立博物館で“京のかたな展”は開催されているのに」
 
「福岡県で毎年1月から2月までしか見られない国宝へし切長谷部が、2018年秋は京都で展示されると知って、寝たきりから歩けるようになったのに」
 
「足の不自由な人向けの、京都の情報がほとんどない。これじゃあ、たどり着く前に倒れてしまう」
 
「歩けるようになるまで、痛みをこらえてリハビリしたのに」
 
努力が無駄になりそうで、私はどうしていいかわからなくなった。
 
私は2011年に原因不明の病気で倒れた。
年々、悪化していき2013年には寝たきりになった。
 
まったく原因が分からないまま
苦しみが続く日々に絶望していた。
 
そんな私を救ったのが『刀剣乱舞』というゲームだった。
以前に“刀剣乱舞はサリバン先生だった”という記事を書いたので、覚えている人がいるかもしれない。
 
私は『刀剣乱舞』というゲームのおかげで生きる楽しみを思い出した。
それだけではない。
 
『刀剣乱舞』は生きる希望だけでなく
家族以外と交流する楽しみを与えてくれた。
 
原因不明の病気だったので、自宅での寝たきり生活だった。
家族以外と話す日は2か月に1回程度、そんな生活だった。
 
それが『刀剣乱舞』で変わった。
ネットの『刀剣乱舞』ファン交流サイトのおかげだ。
 
ネットでの交流は画面越しだ。
だれと話しているかも、どんな顔をしているかもわからない。
 
それが私には有り難かった。
寝たきりだからと同情されることはない。
 
健康な人と同じように
好きなことについて
好きなだけ語り合える
 
それがとても楽しかった。
楽しみすぎて徹夜で語り合ってしまい、
家族に怒られた日もあった。
 
毎日が起きるのが楽しみになった。
だが、寝たきりから回復するまでには至らなかった。
 
2017年の冬がもうすぐそこまで迫っている日に
あるニュースが飛び込んでくるまでは……。
 
「2018年秋、京都国立博物館で日本中の刀を集めて特別展開催決定!」
「特別展の名称は“京のかたな展”に決定!!」
「京都国立博物館と『刀剣乱舞』のコラボ決定!!!」
 
私は心がざわめくのを、抑えることができなかった。
 
『刀剣乱舞』には魅力的なキャラクターがたくさんいる。
その中で私が1番好きなのは“へし切長谷部”というキャラクターだ。
 
最初は苦手だったのだが
決め台詞を聞いた瞬間に、心を打ちぬかれた。
 
「死ななきゃ安い」
 
生死の境を何度もさまよった私にとって
これほど心強い言葉はない。
 
『刀剣乱舞』のグッズだけでなく
モデルとなった刀や“へし切長谷部”を所持していた
織田信長や黒田如水、長政親子を調べるほどのめり込んだ。
 
調べるために、何冊も本を買った。
自分でも笑えるほどの、ハマりぐあいだった。
 
当然だが、へし切長谷部のモデルとなった刀が見たくなった。
だが無理な願いだった。
 
住んでいる場所は大阪、へし切長谷部があるのは福岡
 
寝たきりの病人が行ける距離ではない。
あきらめるしかなかった。
 
そんな状況が“京のかたな展”でひっくり返った。
大阪から京都までなら行ける。
 
開催まで1年もある、リハビリをすれば歩けるかもしれない。
最悪、車椅子を使ってでも行く覚悟を決めた。
 
高まる期待を抑えながら、続報を待った。
そして期待は実現した。
 
展示のかたな一覧に“へし切長谷部”と書いてあった。
 
その日から私はリハビリを始めた。
 
毎日、毎日くじけそうになりながらも
休むことなく訓練した。
 
最初は5分間しか座っていないのに、冷や汗がダラダラ出た。
それが1年後には杖は必要だが、連続15分は歩けるようになった。
 
身体の準備は整った。
京都に行く日も決めた。
あとは準備をするだけだ。
 
夢があと一歩で叶う、そんな喜びが一瞬で消えた。
 
杖を使う人間が、参考にできる京都の情報がなかったのだ。
 
“京のかたな展”の情報はあふれるほどあった。
だが足が悪い人間向けの情報がない。
 
身体の不自由な人向けの情報は少しあったが
車椅子利用者向け、しかも付き添いがいることが前提になっている。
 
一人で、杖を使っていく人間向けなんてどこにもない。
探しても、探してもない。
 
あきらめるしかないのか
いやだ、あきらめたくない
 
なにか、なにか方法はないか
 
考え続けて3日目に、解決策をひとつだけ思いついた。
それはとても勇気がいる手段だった。
 
『刀剣乱舞』ファン交流サイトで聞く
 
どう考えても、非常識な行動である。
 
ファンサイトは好きなものを語り合う場所で
助けを求める場所ではない。
 
だが「京のかたな展に行った」と語っている人がたくさんいる。
私の知りたい情報は絶対に持っている。
 
悩んだ末に、私はキーボードを打った。
 
「リハビリ中で杖を使っているんだが、
へし切長谷部をどうしても見たい」
 
「参考になる情報があったら、どうか教えてほしい」
 
追い出される覚悟を決めながら、返事をただ待った。
 
「この喫茶店なら休憩できるよ」
「博物館の中には椅子があるから、休みながら動ける」
「バスは危ないから、電車かタクシーを使った方がいいよ」
 
非難の声なんて、ひとつもなかった。
みんな、自分のことのように考えてくれた。
 
近くのへし切長谷部に関係する場所
博物館限定グッズの買い方
食事が美味しい店
 
聞いていないことまで教えてくれた。
私は画面越しで泣いてしまった。
 
顔も知らない他人である。
私を助けたって、何の利益もない。
 
それでも自身の知っている情報を
私がわかりやすいように、教えてくれた。
 
「ありがとう」とキーボードを打つ、手は震えていた。
 
そして2018年11月8日、
へし切長谷部を肉眼で見ることができた。
 
あの日の感動と感謝の気持ちを
忘れる日はないだろう。
 
翌日、感謝を伝えにファン交流サイトに行った。
 
みんな、我がことのように喜んでくれて
また泣いてしまった。
 
私は今でも
『刀剣乱舞』ファン交流サイトで語り合っている。
 
健康な人と同じように
好きなことを好きなだけ語っている。
 
たまに雰囲気が悪くなったら
わざと気の抜ける発言をする。
 
個人的な悩みの相談が来たら
アドバイスをする。
 
困ってくれた私を助けてくれた
みんなと同じように、ことばを伝える。
 
少しでも恩返しになったらと願いながら……。
 
 
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2019-02-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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