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メディアグランプリ

七色の図書館


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:武田真和(ライティング・ゼミ平日コース)

山形は車社会だ。通勤には多くの人達が車を利用している。

それゆえに、朝はどこの道路も通勤ラッシュで渋滞になることが多い。

この日は出発時間がいつもより、僅かに遅れた。車は早々と渋滞に巻き込まれた。

動かない列を前に小さくため息をつく。その時だった。

「あれは……虹だ!」

先程までの小雨がいつのまにかやんで、前方には大きな虹がかかっていた。

しかもくっきりとした鮮やかな虹だった。

虹は見たいと願っても、なかなか見れるものではない。

渋滞に巻き込まれなければ、もしかしたら見逃していたかもしれなかった。

幸運な出来事に心がほんのりと明るくなった。

と、同時に私は数年前のある出来事を思い出した。

今日もなんとか仕事を無事に終え、車に乗り込む。ホッとする瞬間だ。

家に帰る前にどうしても寄っていきたい場所があった。

図書館だ。読書が大好きな私は、職場から近い天童市の図書館に寄ることが

日課となっていた。

職場から車を走らせること5分。平日の夕方だが、駐車場は混み合っていた。

図書館から一番遠い場所に駐車スペースを発見。

前向き駐車で停車し、入口へ向かった。

天井が高く、ゆったりとした空間の中にたくさんの蔵書。

何度足を運んでも、楽しく幸せな空間だ。

ゆっくりと館内を歩いて見渡す。

今日も老若男女、様々な人がそれぞれの空間で自分と向き合っていた。

本を何冊も積み上げて難しい顔をしている中年男性。

仕事帰りなのだろうか、本棚の前でじっと腕を組む作業服姿の男性の目は真剣だった。

さらに前傾姿勢で必死にペンを動かす男子高生や女子高生の姿もある。

中にはページを開いたまま、ソファにもたれて眠っている姿の人も見受けられた。

そして、私の足がいつもの場所で止まった。将棋コーナーだ。

満面の笑みで目的の本を取り出し、椅子に座る。

閉館まで、今日こそはあの問題を解くぞ! 私は気合を入れてページをめくった。

ページをめくり始めてしばらくすると、ぽつり、ぽつり、と雨粒が落ちてきた。

車が図書館から一番遠い場所にあることを一瞬思い出したが、また問題に没頭した。

難問に夢中になりすぎたせいかもしれない。

閉館10分前の音楽をかき消すほど、雨が激しくなっていることにようやく気づいた。

しかも雨足は弱まるどころか、どんどん強くなっている。

間もなく閉館の19時が迫っていた。

その間にも雨は勢いを増し、経験したことのない雨量と雷が響いていた。

ついに閉館の19時を迎えたが、雨と雷の勢いは衰えを知らない。

私の他にも、駐車場に行くのをためらっている人が十数名いた。

皆一様に不安そうな表情で立ちすくんでいる。その時だった。

「あの……」

驚いて振り向くと、声の主は図書館の女性職員の方だった。

「もし良かったら、雨がやむまで中でお待ちください。閉館しませんので」

「いいんですか?」

真っ先に声をあげたのは私だった。

「ええ、もちろんです。本を読んでゆっくりお待ちください」

思わぬ天の恵みの声に、我々に安堵のため息が漏れた。

皆、またそれぞれの持ち場にゆっくりと戻ってゆく。当然私は将棋コーナーだ。

先程の難問はまだ解けていないのだ。

非常事態にも関わらず、俄然ファイトが湧いてきた。

閉館時間を過ぎた図書館で本を読めることなど滅多にあるものではない。

しかし、難問に頭を悩ませている間も雨と雷は天空を切り裂いた。

激しい雷で外は一瞬昼間のように明るく光った。

これはさすがにまずいかもしれない。外を見やりながら不安な気持ちがもたげてくる。

「あの……」

この声は……振り向くと先程の女性職員の方が柔和な笑みで立っていた。

「もし良かったら、これどうぞ。皆さんにお配りしてるんです」

今度はさすがに驚きを隠せない。しかも声が出なかった。

私の手には温かいお茶と小さなチョコレート菓子が乗せられている。

あなたも不安なはずなのに、この心遣いは……飲み干したお茶はとても美味しかった。

まだ私は声が出ない。その様子を見た女性職員の方は、

「おかわりならいくらでもありますので」

そう悪戯っぽく笑いながら、カウンター席の奥に消えた。

その姿を見ながら頬張ったチョコレートは、ものすごく甘く、そして優しい味だった。

それからどれくらいの時間が経っただろうか。ついに雨はやみ、雷もやんだ。

自然と図書館から歓声が沸きあがった。それは同時にこの空間からの別れを意味した。

帰り難い。だが、重い腰をついに上げる時はきた。ゆっくりと出口に向かう。

「お気をつけて、またお待ちしております」

私は今日一番の笑顔をそこに見た。この出来事を一生忘れないだろう。

外は暗く、空の様子は見えない。

だが、きっと空には虹がかかっているだろうと思えた。

そして、もう一つの見えない七色の虹。

それはこの時間を共有した各人の心に、鮮やかに、かかっているだろう。

幸せな気持ちを抱きながら、車に乗り込んだ。

渋滞がゆっくりと解消されてゆく。虹とのお別れが来たようだ。

だが、心にかかった虹はきっといつまでも残り続けていくだろう。

七色の、鮮やかな色を残しながら。
 
 
 
 
 
 

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2019-04-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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