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メディアグランプリ

好きだから断る


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:YS(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
男性から踊りに誘われたとき、こう言って断れるようになったのはペアダンスを始めて1年が経った後だった。
 
 
わたしにはとても苦手にしているリーダーがいた。その人は上手ではあるのだけど、リードの力が強くて身動きが取れないと感じるときがある。例えると、アナコンダが肩から腰に掛けて巻き付いているようなイメージ。絞め殺されそうなのだ。
正直に言って踊りたくない。
彼と踊るたびに伝えるべきかと悩んでいたけど、相手は楽しそうに踊っていてなんとも言い出しづらい。伝えようにも、まさか「絞め殺さないで」と言って伝わるようにも思えない……。
そのほかにも踊っている間に足を踏まれる。リードがかからないとき、フォローできないお前が悪いと責められる。その場で踊るのをやめて教え始める。初心者だから仕方ないのかもしれないが、後味の悪いダンスが何回も重なって、だんだんに心が折れていった。
 
沈んでいた私を励まそうと、友達が六本木のサルサクラブに誘ってくれた。そこで見た光景に目が開いた。女子がすげなく断っている! しかも理由も述べず! なんだこの痛快さ。六本木のサルサクラブには日本に住む外国人も海外からの旅行客もたくさん来る。外国人女性たちは躊躇なく、理由なく断るのだ。しかも態度もスゲナイ。
友達がパリに行ったときは、2人に1人の女性に「メルシー」とい断られつづけてメルシー恐怖症になったそうだ。曰く、日本以外ではこれが当たり前なのだと。
 
 
たしかに、日本人ばかりのダンスフロアで女性が断っているところをみたことがほとんどない。アナコンダの彼をほかのフォロワーはどう思っているのだろうと、彼と踊っているほかの女性を観察したときも、みんな笑顔で彼と踊っていた。
 
冷静に考えると、ダンスは趣味だ。仕事で稼いだお金と、週5日働いた後の余暇の時間を使って、踊りに行っているのだ。仕事でもないのに、嫌だと思うことをする必要があるのだろうか? 答えはNOだ。わたしの時間とお金を使うのだから、自分が心地良いと感じることを優先させてもいいのではないだろうか? 誰とでもニコニコ笑顔で踊る必要がどこにあるのか?
 
 
そんな話をしながら、本で読んだフレーズを思い出した。
「わたしのYESには価値があります。なぜならNOを言うからです」
いつもYESということはたやすい。ただ、嫌なことを我慢して言っているYESは嘘だ。自分の感情を押し殺していたらいつか破綻する。我慢していたら、相手のことが嫌いになるかもしれない。それを続けていたらダンス自体も嫌になってしまうかも。
わたしはダンスが好きだし、続けたいと思う。だから自己中心的だと批判されるかもしれないとも思ったが、自分の本心を偽らないことに決めた。
 
 
そうして、次に踊りに行ったとき、いつもの通り私を誘いに来たアナコンダの彼に「ごめんなさい、今はちょっと踊りたくないの」と言った。正直、膝が震えた。何事もないような風を装っていたけど、すこし声は震えていたかもしれない。わざとらしくなかっただろうか。彼は腹を立てないだろうか。どんな顔をするんだろう。
まじまじ見ているのがわからないようにさりげなく彼の表情を覗く。一瞬残念そうな眉毛の下がり方をしたけど、「あ、じゃあまた今度」と言ってとくに何も追求せずに離れていった。相手はNOを受け入れてくれたし、私が思うよりも気にしていないようだ。私が勝手に恐れていたことは起こらなかった。ここで力が抜けた。
 
 
我慢しなくていい。いやなときはいやと言っていい。
そう自分に許可し行動したら、すごく安心したのだ。
そうしてNOを言えるようになったら、自分でも不思議な行動をしていた。
 
 
数週間が経ち、次に彼に会ったときに自分からダンスに誘ったのだ。踊っている間、雑談めかして、「少しだけリードの力をゆるめてくれたらうれしい」と伝えていた。絞め殺すようなリードをやめてくれなんて嫌味を言わずに、きわめてフツウに。
彼は恥ずかしそうな顔で、伝えてくれてありがとうと言ってくれ、力を弱めたリードでたのしく1曲を踊ることができた。もちろん絞殺される心配もなかった。
 
 
断ることができなかったとき、わたしは彼のことがと二度と踊りたくないレベルに嫌いだったんだ。なのに自分から声をかけて踊り、談笑している。あれだけ激しく嫌っていた感情はどこへ行ったんだろう。
振返るに、彼が嫌いなのではなく、断れない自分-自分の感情を尊重できない自分が嫌いだったのだ。
冷静に考えれば、相手がNOと言ったとき、怒ったりするひとはそう多くない。断ったら何か恐ろしいことが起きると思っていたのは、妄想に近い私の思い込みだ。
そのとき嫌だと感じている自分を尊重して、周囲にNOが言える。NOが言えること自体で自分のことを大切に扱っているように感じて、自分のことが好きになれた。そしてNOが受け入れられて安心した。いやなことをしなくていい安心感だ。受け入れてくれた相手には感謝がわいた。尊重されるというのはこんなに安心なのか。安心と相手への感謝がベースにあるとき、はじめてYESが言える。そのときのYESは本心からのYESだ。
 
 
断ることで、自分のことが好きになれた。嫌いだと思っていた相手を、すきになることができた。
ダンスフロアでこんなことを学ぶなんて思ってもいなかった。
だからダンスはやめられない。

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2019-05-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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