メディアグランプリ

インスタのストーリーは人生という「ストーリー」を切り取ったものでしかない


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記事:杉田 賢(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
いつものように目が覚めた。毛布にくるなりながらスマホをのぞき込んで時間を確認する。8時35分。画面には時間とともにインスタやツイッターからの通知が表示されている。通知を確認しようとアプリを開く。開いた途端に流れ込んでくるのは、親友の加藤がバリのリゾートで、結婚を控えた彼女とチルッてるストーリー。インスタは私を休ませてくれない。親友のストーリーが終わると、次はいとこが広島で会社同期と飲んだくれているストーリー。はいはい、いつものやつね。
平日のインスタでは社会人の多くが鳴りを潜めていて、静かなのだが、一度休日になるといろんなアイコンが我先にと争うように投稿している。しみったれたことを言っている私も休日楽しいことがあると思わず投稿してしまうから同じ穴のムジナなのだが。そんなムジナでもインスタをしていて胸が苦しくなる時がある。友人たちがそれぞれのパートナーとお互い満面の笑みで写って、ときには何かポーズをとっている投稿やストーリーを見ると胸がきゅっと締め付けられる。とりわけ、婚約報告とか入籍報告とかそういう人生のステージを愛する人と共に進んでいます!っていうのを見ると、締め付けてくる手に力が一層込められるのをひしと感じる。いま私は24歳、早生まれなので大学や会社の同期の多くが25。まあそういう時期だよね、結婚入籍ラッシュの第一波がついに到達しているね、とよく友人と話す。幸せいっぱいの投稿やストーリーを見ると感じる胸の苦しさは、皆にはパートナーがいるのに比べて自分は、という感情からくるのだろう。
 
ただ、親友の加藤があげる彼女とのストーリーは見ていても胸の苦しさを覚えない。なぜなのかをそぼ降る小雨の音を自室で聞きながら考えていた。彼と初めて出会ったのは大学三年の春、ゼミのメンバー同士での顔合わせの時だった。軽い自己紹介やゼミへの意気込みを当たり障りなく話し終えて帰路についた。その帰りしな、おずおずとお互い距離を探り合いながら彼と話した。共通の友人のことで言葉を交わしたと記憶している。私はいま以上におとなしくて人見知りだったから、関係は1年ほど平行線だった。
転機はゼミで参加した大会だった。大会にはゼミを5チームに分けて参加するのだが、たまたま同じチームになったのだ。大会1か月前からは毎日21時くらいまで議論した。ただ会う回数が多かったからといえばそうなのかもしれないが、こいつといたら楽しそうだなと思うようになっていった。そして僕らは社会人になった。
私は静岡にある会社の寮に入った。彼は千葉の実家からぎゅうぎゅうの東西線に乗って六本木の会社に通勤した。慣れない環境だったのだろう、ラインを頻繁に交わすようになった。8月の休みには私の実家で楽しく飲んで遊んだ。この頃はお互い仕事の量も少なかったので多少ストレスを感じることはあっても、本当にしんどくなるというほどではなかった。
彼から仕事がしんどいという返事が多くなったのは、去年の7月ごろだった。私自身も営業のノルマで詰められる日々だったので、よく悩みを聞いた。先週の火曜に彼に会ったときに初めて聞いたのだが、仕事がしんど過ぎて、その鬱憤を晴らすために毎晩遅くまで酒をあおって、その結果翌日もミスをするという悪循環に陥っていたそうだ。彼はこの4月1日付で自分の希望の部署に異動となって、今は大学での自身の専攻がダイレクトに活かせるところでイキイキと仕事をしている。
 
私は、彼がバリ島のリゾートで彼女とチルッているストーリーを見ても、胸の苦しさを覚えない。むしろ彼の幸せを喜ぶ。なぜなら彼が苦しんでもがいた先に掴んだ幸せであることを知っているから。この理由に思い至ったとき、ストーリーや投稿を見た時に感じる心の苦しさは、彼とのつながりの深さを思い知らせてくれた。休日はパートナーと仲良くしている投稿をする親友は何ら苦労せずに、休日の幸せを、パートナーとの幸せをその手に掴んだわけがない。
インスタに限らずSNSは、時間の一部だけを切り取って周囲に見せることを可能にした。だからSNSは皆の「誰かに見せたい自分」にあふれている。苦悩しているときにSNSを見るとその幸せオーラに圧倒されて、自分なんかと思ってしまう。だが、投稿する人々も等しく悩んでいる。インスタのストーリーは人生という「ストーリー」のごくごく一部を切り取ったものでしかない。今は苦しんでいても日々をしっかりと生きて、人生という大きな「ストーリー」を作っていけば、インスタのストーリーに思い悩むことはなくなり、自分自身が充実して生きていることに気が付くだろう。
 
 
 
 
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2019-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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