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メディアグランプリ

方言は下着なの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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ライター:矢野マキコ (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
東京で暮らして、早くも27年が経とうとしている。田舎で暮らしていた年月を簡単にあっという間に超えてしまった。OLとして働き、結婚退職、出産……。長女がもう就職をしたのだから、それはそうだ、不思議なことではない。それだけの年月は経過している。
 
上京当時から、なまりがあると言われたことは、ほとんどない。きっと周りの人には、私が津軽弁がソウルランゲージだということは気付かれていないだろう。
 
私にとって方言は下着の様なもので、そんなもの簡単には知らない人に見せるわけがないのである。
 
私が生まれ育ったのは、青森の弘前という街だ。青森県の中では、都会と言っても過言ではない。
 
ほっぺたが落ちるほど美味しいリンゴ、心を奪われる美しさの弘前城の桜、憂いの中に芯の強さを感じさせるねぷたまつり。そして品のある津軽弁。どれをとっても、自慢だ。自慢でしかない。なんと言っても、すべてにおいて品があふれているのだ。
 
と、基本的に弘前の人はこう言う。私ももれなくそれだ。
 
20数年前「東京の人になる」という強い決意で上京をした。私は、東京でキャリアウーマンになってやるぞ!という意気込みだ。
東京には田舎に無いものだらけで、とても刺激的だった。雑誌に載るような場所に行き、有名アーティストのコンサートへ行き、芸能人が通うような美容室にも行った。ぴあの雑誌には、大変お世話になった。
東京都内の路線図を完璧に暗記し、土地の東西南北の位置関係も頭に入れた。あの頃は、乗り換え案内もなければ、Googleマップもない。自分の知識だけが頼りで、通勤で使っていた中央線各駅のトイレの場所はすべて把握するほどだ。無理をしながらも、頑張った。
 
言葉についてもそうだ。標準語で話さなければいけないというハードルを越えなくてはいけない。標準語でしか話さない人には到底理解してもらえないだろう。幸いなことに、私は高校時代にアナウンス部に所属していたことがあり、NHKのアナウンサーが使うアナウンス辞典を見ながら、イントネーションのトレーニングをした経験があった。そこでつちかったスキルをフル活用し、アナウンサーになりきって話すことで、乗り切ってきた。
 
このアナウンサーになりきってというのが肝である。想像して欲しい。話をする時に、何をどの様に伝え、表現するかを考えながら話をしているのだ。自分の中で、翻訳をしている状態だ。これは、なかなか高度である。
 
つい先日、人がごった返す飯田橋駅で、翻訳不要の言葉が耳に飛び込んできた。修学旅行中の中学生だ。
 
男子中学生:「わー、いっぺぇあって、どこさいげばいいが、なんもわがんねじゃ。
どす?」
(わー、たくさんありすぎて、どこに行けばいいのかわからないよ
どうしよう)
 
女子中学生:「でっけー声でしゃべるはんで、めぐせっきゃ。
こご、東京だはんでの! きぃつけへ!」
(大きな声で話すから、恥ずかしいわ
ここは東京なんだから、気を付けてよね!)
 
私も心の中では、仕事中も、家事をしている時も、読書をしている時も、こんなもんだ。
標準語を話すときは、翻訳が入っているのだ。翻訳力が高ければ、表現に幅を出すことはできる。しかし、翻訳力が低ければ、無口になるか、方言がそのまま出るかのどちらかだ。
かなりのスキルが必要だとわかってもらえるだろうか……。
 
ただスキルがあっても、厄介なのが、単語そのものの違いだ。標準語には無い単語が方言にはある。
 
「そこ、かちゃましい(ぐちゃぐちゃしてる)から、綺麗にしてくれる?」
「LANケーブルのくまってる(絡まっている)ところは、なおしておいてね」
 
仕事中にやってしまった。それも、部下に対して発してしまった。
アナウンサーの様な口調と綺麗な標準語イントネーションで発した津軽弁ワードは、今思い出しても混乱の極みだ。もうこうなると矯正不能である。自分の辞書にその都度追加していくしかないのだ。
 
しかし、翻訳をしながら話をすることで良いこともあった。感情的になってしまった時に、一度自分を落ち着かせることができるのだ。電車に乗っていて不快なことがあった時、会社で上司に口答えをしたくなった時、旦那さんに不満を言いたくなった時、子どもを感情的に怒りそうになった時、一旦、踏みとどまることができる。
 
「なんぼまんだの!」「かちゃくちゃね!」「うだでじゃ」などなど……。
 
これらの言葉は、標準語ではどの様に表現して良いか、さっぱり思いつかない。かなり近い言葉に翻訳したとしても、ニュアンスが足りないのだ。
 
きっと津軽弁に限らず、方言をソウルランゲージとしている人は皆、私と同じような思いを抱きながら、毎日を送っていることだろう。しかし、ソウルは変えられない。死ぬまで一緒なのだろう。
 
方言という下着を身に着け、標準語という洋服を着て、これからもこの東京で元気に過ごしていこう。
 
毎日、取り替えていても変わらない。
私の下着は、永遠に憂いと強さを持ったねぷた絵柄だ。
 
 
 
 
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2019-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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