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メディアグランプリ

毎日食べる米粒が世界一の美食であった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松波 利幸(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
「誰か、助けてーーー!」
 
ぼくは叫んでいた。
それは中学生になって丁度1年が経とうとする日の出来事。
 
1998年3月31日。ぼくは事故にあった。
 
事故、といっても自動車にひかれたわけではない。
自転車で滑って川に落下。それだけだ。
 
ところが、どうも「打ちどころ」が悪かったようだ。
物理の理論はよく分からないが、どうやら重みのある自転車がぼくの身体よりも先に川底に落ちたようで、ぼくの体は不幸にも、自転車に直撃してしまったのだ。
 
「苦しい……」
「息ができない……」
 
初めて味わう感覚であった。
「はやく病院にいかないと」 振り返ってみると、ぼくは意外にも冷静だったと思う。
 
「まずは川底から脱出しなければ」 そう思い、自転車を壁に立てかけ、よじ登って地上に這いあがった。
が、そこで一度力尽きた。
苦しくてまともに立ち上がることができない。
ぼくは地面に倒れこんだ。
 
「死ぬかもしれない」 ぼくは直感的にそう思った。
なんだか眠くなってきた。
だが、ここで眠ったら間違いなく死ぬ。本気でそう思った。
「三途の川が見える」 とはこのことだ。
 
ぼくは叫んだ。
「誰かーーー!」
「わああああああああああ!」
 
誰かに気づいてほしくて、ただただ叫んでいた。
だが、誰も気づいてはくれない。
それはそうだ。
人一人として周りにいないのだから。
 
事故現場の周辺には家一つなく、見渡す限りの田園風景だ。
いつもなら近所の百姓さん達がいるはずだが、不幸にも事故発生時刻は正午12時30分。
皆、お昼ご飯に出払ってしまっていた。
 
「死にたくない、家に帰るしかない」
そう思い、ぼくは必死で這っていった。1キロもの距離を。
 
偶然にも母は風邪で仕事を休んでいた。
今思えば、母が家にいたのは偶然ではなく、必然であったのだと思う。
そうでなければ僕は助からなかったかもしれない。
 
家まで這いつくばったぼくは、すぐに病院に搬送された。
迎えたのは、人生初の手術。
そして人生初の入院生活であった。
 
さて、ぼくの実家は田園風景の一角にあり、百姓を営んでいた。
場所は岐阜県の山奥にある。最寄り駅まで徒歩20分、電車は1時間に1本程度。
典型的な「ド田舎」である。
 
200㎡以上はあるであろう田んぼを所有し、父は自動車整備工場で働く傍ら、毎日米づくりに励んでいた。
毎朝4時、5時に起きては、田んぼへ行く。
そんな姿を見てぼくは育った。
 
父は米づくりに誇りを持っていた。
口には出していないが、ぼくの目から見ても明らかであった。
米をつくることは、父の生きがいであっただろう。
 
そんな父のつくる米をぼくは幼いころから毎日食べていた。
食事になると、父は目を輝かせながら毎日聞いてくる。
「どうだ? うまいやろ?」
「どうだ? 今日もうまいやろ?」
 
確かにうまい。決して不味くはない。
とはいえ、幼いころからずーっと食べ続けてきた米。
比較対象のほとんどないぼくにとっては、学校給食の米よりはうまいかな、と思える程度であったのが正直なところだ。
 
事故にあった当時、中学生だったぼくは、ちょっとした反抗期だったのかもしれない。
父の「うまいやろ?」 に嫌気がさしていた。
ハッキリ言ってウザかった。
どうも兄2人も同じだったようで、「うまいやろ?」 と聞かれては、
「また始まったよ……」と兄弟3人で目を合わせいた。
「あー、はいはい。うまいうまい」 ぼくら3兄弟はいつも適当に返事してあしらっていた。
 
そんなさなかの突然の入院生活であった。
無事に命が助かったぼくは、中学2年生になったは良いものの、約1ヶ月間の入院生活を強いられることとなったのだ。
初めての入院生活とともに経験したのは、初めての流動食である。
流動食とは、固形物を除去した流動タイプの食事のことで、咀嚼をしなくてもそのまま飲み込んで食べられる食事のことをいい、病人職や離乳食に用いられる。
 
「不味い……」
噂には聞いていたが、流動食は不味かった。
流動食は、消化が良いこと、刺激が少なく味が淡泊であることが条件だ。
うまいはずがない。
だが、出された食事を残すわけにはいかない。
ぼくは我慢して流動食を食べ続けた。
 
そんな流動食にも慣れてきた頃、とあるお知らせが舞い込んだ。
 
「退院です」
 
嬉しかった。素直に嬉しかった。
家に帰れる! ぼくは喜びを噛みしめた。
 
退院した当日、家では退院パーティーが開催された。
そこで出された夕食は、もちろん父の誇り高き白米だ。
 
「久しぶりだな」 そう思って一口。
 
パクッ……。
 
……
 
「うまい……、こんなにおいしいものがこの世に存在するのか?」
正直な感想だ。
ぼくは米粒一粒一粒を噛みしめて食べた。記憶では、茶碗3杯以上はおかわりしたと思う。
 
父はぼくに問いかける。
そう、あのいつもの問いかけだ。
 
が、「うん、うまいよ」 とはぼくは言えなかった。
まだ反抗期は続いていたのだろうか。あるいは、恥ずかしかったのかもしれない。
 
だが、あの時の感動は大人になった今も忘れることはない。
大人になって、上京して、いろんなグルメを経験した。
不動産業界に就職し、いろんな街のグルメを知る上司達と食べ歩きしたものだ。
有名店から知る人ぞ知る隠れ家的名店にも何度も足を運んだ。
 
だが、あの時ほど食事で感動したことは未だかつて無い。
 
「どうだ? うまいやろ?」
 
そう聞かれれば、今なら素直に答えるだろう。
 
「うん、おいしいよ」と。
 
 
 
 
***
 
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2019-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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