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メディアグランプリ

スーパー銭湯の中の秘境


 
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:akko((ライティング・ゼミGW特講コース)
 
 
「あのカーテンの奥って行ったことある?」
 
カーテン1枚で隔てられた別世界。
ときどき入って行く人がいる。
だから、入ってもいいんだと思う。

 
覗いてみたい。
でも、なぜかいつも二の足を踏んでしまう。
だから私は一度もそこに足を踏み入れたことがなかった。

 
そう、それはスーパー銭湯の中にある、あの場所である。
 
私は昔から、ときどきスーパー銭湯に行っていた。
たくさんの種類のお風呂やサウナ、そして場所によっては露天風呂もあるからだ。
薬草風呂の中ではヒノキの匂いが好きで、それにうまく当たるとこころの中で小さくガッツポーズをした。

 
ある一角が薄暗い洞窟のようになっていた銭湯もあった。
その場所だけやけに静けさが漂っていたが、そこは寝湯だった。
中を覗くと、それぞれ思い思いの格好で寝そべっていた。
薄暗いのをいいことに、こういう場所でもつい人間観察をしてしまうところが悪い癖である。

 
溺死体……
迷い込んだ人魚……
打ち上げられたトド……

 
ほくそ笑んだ。

 
銭湯とは、誰もが恥じらいを捨てる場所なのかもしれない。

 
でも、私にとってあのカーテンの奥は秘境だ。
たいていの恥は晒して来たつもりだが、まだ捨てきれない恥を見つけた。

 
そう言えば、昔ながらの銭湯には「カーテンの奥」は存在しない。
あるのは、秘境ではなく、明るく照らされた「富士山」だ。
ちょっと古いが、ドラマのドクターXで大門未知子の銭湯のシーンでも必ず背景に映っていた、
あの「富士山」の壁画だ。

 
銭湯の壁画を描く職人は、今では日本で3名しかいないらしい。
たったの3名しかいないのである。
83歳の丸山さんと73歳の中島さん。
ほとんどの絵はこのお二方が描いている。
私がこの前行った銭湯では、富士山の裾野に「中島」と記されていた。
そのうち壁画もなくなってしまうかもしれない。
行ったときにはどなたが描かれたのか、繁々と見ておいた方がいい。

 
さて、秘境だ。

 
その日、いつものように、スーパー銭湯へ向かった。
料金を払おうとしたとき、偶然「スペシャルデー」の文字が目に入った。
何と、秘境の料金が安くなっていたのだ。
通常8000円が、スペシャルデーだと6980円!
決して安くはないが、どうもスペシャルということばに弱い。
つい、つられてしまった。

 
身体は洗わない。
番号が呼ばれるまで湯船で身体を温める。
 
2点の指示を受けた。

 
「呼ばれるまでに、身体が温まらなかったらどうなるんだろう」

 
緊張で、ちっともお湯の温かさを感じなかった。
 
その間も、カーテンの奥に出入りする人が見えた。
秘境のはずなのに、特別な高揚感もなさそうだった。

 
いよいよ、カーテンをくぐる瞬間がやってきた。

 
まず目に飛び込んで来たのは、2台並べて置かれたステンレスのベッドだ。
床はくすんだブルーのタイル張り。
お湯が排水溝へと絶え間なく吸い込まれていた。

 

「解剖台」
 
そうとしか見えなかった。
カーテンの奥にあったのは、解剖台……

 

「切り刻み、流れ出た血を流すために、絶えず水の流れがあるに違いない」

 
脳裏に浮かんだのは、マグロの解体シーンだった。いや、およげたいやきくんかもしれない。
間もなく私はこのステンレスの台に乗せられる。

 
恐る恐るベッドに横たわった私の下半身に、無造作にフェイスタオルが置かれた。
 
「はじめて?」
「痛くないよ」

 
片言の日本語で話しかけられた。
いよいよ始まりだ。
 
施術してくれているのは、「おばちゃん」だった。
濡れるからと言って水着姿なわけではない。
ブラジャーと短パン姿だった。
かなりの力作業なのか汗だくだったが、この仕事で痩せはしないようだ。
動く度に、中年太りのお腹の肉がゆらゆらと揺れていたのが見えた。

 
はじめは警戒心が作動したが、いざ始まってみると、この上ない快楽が襲って来た。
どこの部位であれ、とにかく気持ちいいのだ。
特に気持ち良かったのが、身体の脇である。
この部位に快楽を感じる装置が付いていたのは、大発見だった。

 
右、左、うつ伏せ。
身体の向きを変えるよう、次々に指示される。
もはや、無造作に置かれるフェイスタオルのことなんて気にならなくなった。
こんなに気持ちが良いなら秘境だなんて思ってないで、もっと早く来れば良かった。
うっとりし始めていた。

 
しかし、ここで問題が発生した。

 
80代と思われる女性が隣のベッドに来たのだ。
この女性は、何をするにも恥ずかしがる。

 
「いやだわ、恥ずかしい」
「手術の痕があるのよ。恥ずかしいから見ないでくれる?」

 
恥ずかしいを連呼する。

 

「大丈夫よ、恥ずかしくない」
「みんな同じよ」

 
だんだん語気が強くなって行く。
緊張が走った。
「おばちゃん」同士が、私たちが聞き取れない母国語で会話を始めた。おそらく悪口なのだろう。
 
惑わされてはいけない。
せっかく踏み入れた地だ。私は快楽に没頭することにした。

 
「こんなに出たよ」

 
最後に見せてくれた。
垢の山を……

 
恥ずかしい量だった。
でもおかげでつるつるになった。どこを触っても、キュッキュ音がするのだ。
この音は、カーテンをくぐった人にだけ味わえる特権だ。
毎日お風呂には入っているし、自分で身体を洗っているから十分だ。
そう思うなら、カーテンをくぐる必要はない。

 
スーパー銭湯の中の秘境。
それは踏み入れることが恥ずかしい場所ではない。
垢の山を見せられる恥ずかしさを体験する場所だった。
でも一皮剥けたら、快楽が勝り恥ずかしさは消えていた。
1か月後に来ると約束をして、またカーテンの向こう側へと戻った。

 
振り向くと、カーテンが揺れていた。
あっちの世界にいるときは快楽を堪能できたのに、こっちの世界に戻って来てしまうと、また秘境に思えてしまうから不思議だ。

 
スーパー銭湯の中の秘境。
韓国式アカスリは恥じらいも洗い流してくれる。

 
 
 
 
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2019-05-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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