fbpx
メディアグランプリ

僕に雷は落ちない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【6月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:村尾悦郎(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「子供が生まれると価値観が変わる」
 
これまでの人生において、テレビや雑誌など、さまざまな所でこの言葉を目にしてきた。はじめて聞いたのは中学生の頃だったように思うが、その時は「ふーん」と、ほぼ関心のない状態で聞いていた。
 
「自分の子供」という、当時の僕にとって遠い未来の(起こるかどうかもわからない)出来事がイメージできなかったし、「価値観が変わる」という、抽象的な表現がまったくの他人事として感じられたからだ。
 
では、「価値観が変わる」とはどういうことだろう? 僕はそれを「衝撃を受ける」ことだと解釈していた。
 
よく、ミュージシャンや芸術家がその道を志したきっかけを聞かれると、
 
「ラジオから流れてきた音楽に雷に打たれたような衝撃を受けた」
 
だとか、
 
「美術館でその絵を初めて見たとき、感動のあまり動けなくなった」
 
とか、そういったエピソードを披露していたので、子供が生まれた人も雷に打たれたり、金縛りにあったりするような「劇的な感動」を体験するものなのか? と想像していた。その体験をへて、コワモテお兄さんのスマホの待ち受けが子供の写真に変わり、SNSでおしゃれなカフェの話題ばかり上げていた女の子の投稿が子供の話題一色になったり、居酒屋で一緒に下ネタで盛り上がっていた同僚が子供の話しかしなくなるのだと、そう思っていた。
 
僕は、そんな「劇的な変化」が自分にも起こるのか? という疑問を長年持ち続けていた。
 
僕は子供が好きな方だと思う。少なくとも嫌いではない。これまで、他人の子供を見ても素直に「かわいいな」と感じられたし、大きくなっても子供たちと一緒に遊んだりすることを嫌だと思ったことはない。
 
それでも、「子供という存在が価値観を変える」という感覚が理解できなかった。「そこまで盲目になるほどのものなのか?」という疑問と同時に、「すごいな。その人は純粋に子供が好きなんだな」という憧れのような気持ちを抱いていた。僕はそんな自分を冷たい人間だと思い、子供に対してどこか後ろめたい気持ちすら感じていた。
 
昨年末、そんな僕に息子が生まれた。
 
結論を言うと、僕の上に雷は落ちてこなかった。
 
もちろん、感動はあった。我が子の顔を初めて見た嬉しさと、奥さんが無事に出産を終えてくれた安心感でウルっときた(泣きそうになった瞬間、隣にいた親父の聞いたことのない嗚咽に驚いて涙が引っ込んでしまったが)。
 
だが、想像していた感動とは違った。心揺さぶられ、すべてがひっくり返るような、そんな「劇的な感動」は感じなかった。
 
「なんだ、やっぱり『価値観が変わる』っていうのは僕には起こらなかったんだな」と、子供が生まれた嬉しさと同時に、少しだけ寂しさを感じていた。
 
それから数ヶ月間、我が家はまさしく戦場と化し、今なおその状態が続いている。慣れないオムツ替え、お風呂、だっこ、寝かしつけ、おっぱいとねんねの時間を中心にした一日の時間配分。奥さんの負荷と比べるとほんの手伝い程度でしかないが、僕なりに必死に動いた。毎日に余裕がなく、「劇的な感動」だとか「価値観が変わる」だとか、そんな考えはどこかへ飛んでいってしまっていた。
 
そんなある日、息子をだっこしていると、最近息子が覚えた謎の言語で「んぎんぎ」と、話しかけてきた。
 
「どうしたの?」と、聞くと、
 
「んげんげ」と、息子は僕の眼鏡をバジバシ叩きながら、嬉しそうにニコニコと笑った。
 
……「かわいい」の化身がそこにいた。
 
冷静に考えて、僕の息子は特別な赤ちゃんではない。雑誌やテレビのモデルになるようなキラキラした容姿ではないし、何か特別な特技を持っているわけではない。僕に似てちょっと目が細い、普通の赤ん坊だ。
 
でも、その時、気づいてしまった。
 
自分の子供は究極ともいえるほど、わがままな主観で見ることができるのだ。誰がなんと言おうと、思おうと、かわいい。そう表現するしかない。
 
小さな体。かわいい。
 
ニコニコの笑顔と笑い声。かわいい。
 
起きている間、常にだっこを要求する。かわいい。
 
ママを呼ぼうと、必死の形相で泣きわめく。かわいい。
 
大の字になり、布団を独占して寝る。奥さんが邪魔そう。かわいい。
 
一丁前に「クークー」と、小さなイビキをかく。かわいい。
 
漏らした大量のうんちと、そのにおい。かわいい。
 
高い高いをした瞬間に、躊躇なくゲロを顔にぶちまけてくる。かわいい。
 
……何が起きても、どんなことをやっても、僕は語弊を失い、「かわいい」と表現するしかなくなる。
 
「息子がかわいい」
 
その気持ちは、いつの間にか僕の心に根を張り、思考を支配するほどに大きく育っていた。
 
僕に雷は落ちなかった。
 
落ちなかったが、SNSを子供で埋め尽くしたり、話題が子供のことばかりになったりする、その気持ちがやっと理解できた。こんなにかわいいんだもん。そうなっちゃうよね。
 
しかし現在、「親バカ」と言われないよう、僕はなんとか理性を保とうと務めている。まだ、スマホの待ち受けは息子の写真ではない。
 
 
 
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/82065

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事