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中国のトイレは怖いのか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田中明子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
私はトイレが怖い。
厳密にいうと「汚い」トイレが怖い。
掃除が行き届いていないトイレに入った後の、あのやるせない気持ちといったら、いったいどこにぶつけたらいいものか。
だから、初めてのトイレに入るのは相当な勇気がいるし、できれば誰かに先に入ってもらって、OKのお墨付きが出てからコトを済ませたいと常々思っている。
その確証が得られなければギリギリまで我慢しているのだから、身体的にも精神的にもいいことはない。
 
数年ほど前まで、中国のトイレは個室ごとの仕切りがないとか、仕切りがあるにはあっても、上下が開いていてしゃがむと隣の人のお尻が丸見えだとかという、壮絶な話を度々耳にしていた。
日本のトイレですら恐怖を感じるのだから、私にとって問題外である。
あちらこちらと海外に出かけていた割には、中国には行こうとしなかった。いや、行けなかった。誘われても断り続けた。
見ず知らずの人に自分のお尻を見せたくないし、他人のお尻も見たくない。
そんなわけで、中国は近くて遠い国だった。
 
それがひょんなことから中国へ出かけることになった。仕事関係でやり取りが増え、誘われることも多く、ふとその気になった。
初めての地である。ガイドブックで情報をかき集め、格安航空券を手配し、渡航準備もようやく一息ついたところで、外でもないトイレ問題が浮上してきた。本当のところ、最初からずっと頭の片隅にあったのだが、意識して気づかぬふりをしていた。
恐る恐るインターネットで検索すると、かつて噂に聞いたあの壮絶なトイレ体験談が、これでもかと言わんばかりに披露されていた。
ざっと目を通しただけでも、除菌シートを持っていけば大丈夫などという次元ではないことはわかった。
怖すぎる、どうしよう、どうしよう、どうしよう。
解決策が見つかるわけもなく、逡巡しているあいだに出発日を迎えた。
「最近では後ずさりするようなトイレは見かけない」という現地の人の言葉だけを頼りに飛行機に乗った。
まずい、緊張しすぎてお腹が痛い……。
 
結果を言うと、「後ずさりするようなトイレ」にお目にかかることはなかった。なにしろ訪問先は世界有数の大都市・上海である。同じ中国国内でもディープなところならば期待通り(?) のトイレもあるのだろうが、ここ上海では、日本の最上級にきれいなトイレと遜色ないところさえあった。場所さえ選べば恐れることは何もない。
外国人の中には、日本人はまげを結って刀を差したサムライ姿であると信じる人がいると聞いた時、何をバカなことをと苦笑したが、それと大して変わらないじゃないか。ものを知らないとはこんなものだ。
 
初めての中国では、国民性や習慣の違いに面食らうことは数多くあったが、その文化や歴史を目の当たりにし、はるかに好奇心の方が勝った。
一日で2万歩以上歩き回った。
テーブルの上に出てきた食事には全て箸をつけた。控えめにしろと言われたが、食いしん坊を自認する身としては、目の前にあるものを全て試さないことには気がすまなかった。そして、腹痛に見舞われた。
街中のいたるところに停めてあるシェア自転車のシステムに感心した。自転車に乗るなど何年ぶりだったろうか。乗り方も忘れかけていたが、渋滞がひどい地では、観光客にとっても、なるほど便利であった。
タクシーでもレストランでも、シェア自転車でも、支払いは全て携帯決済だ。日本のはるか先を行くキャッシュレス社会だった。
そして、何よりも大きな衝撃は、一人では何もできない自分の存在だった。
何かにつけ自力で解決しようとする私だが、習慣が違い言葉が通じない地では、常に誰かに頼るしかなかった。
 
かくしてトイレ問題も克服でき、その後は立て続けに中国を訪れることになった。
「トイレが怖い」という、納得できるようなできないような理由で、最初から中国に対して興味を持つことを遮断していた。
知る・経験する機会を自ら打ち消していたが、百聞は一見にしかず、現地で体験して肌で感じるのが一番である。
 
何かをやりたいと言いながら、なんだかんだとできない理由を挙げて、結局動こうとしない人がいる。とどのつまりは、やる気と勇気がないだけである。
かつては自分もそうだった。
未知のことに対する恐怖心と、失敗して笑われたり、ほら見たことかとしたり顔で評価されるのが嫌で、自信のない自分を守るための安全維持機能が働いていたのだろう。
そして動かないのだから、10年経っても状況は何も変わらなかった。
今から考えると臆病なだけだが、10年間もウダウダしつづけるぐらいなら、さっさと取り組んで、早く決着をつければよかった。そのほうがスッキリするし、後悔もない。
場数を踏めば踏むほど、経験値はどんどん上がるし、視野も広がる。
もしも失敗したことを笑う人がいるならば笑わせておけばいい。人間として薄っぺらいのはどちらか? こちらには、失敗した数だけ目に見えないプラスが蓄積され、人としての深みが増しているに違いない。
人生限りがあるのだから、何事にも挑戦してみたほうがいい。
 
 
 
 
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2019-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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