メディアグランプリ

大事なことは寮生活で教わった


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記事:綿貫晶子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
最近ネットニュースで、10歳のYoutuberの記事を読んだ。宿題を拒否したときに、休み時間にやらされたことに不満を覚えた彼は、自由を求めて学校に通わないという選択をした、という。人気作家やお笑い芸人と共演し、「ノートに書くだけが勉強ではない、いろんな人に会うのも勉強」という持論を展開している。
 
私が入った小学校は、幼稚園から高校までの、いわゆる一貫校というものだった。そしてそこには寮があった。両親が共働きだったこと、両親の知り合いの子女がその学校にいたこと、などが理由で、私自身も小学校1年生から寮生活を送ることになる。男女共学の、小さなキリスト教の学校。自宅のある都心から電車で約1時間半。早くから週休2日制を取り入れていて、金曜の授業が終わると都心の自宅に帰り、日曜の夕方になると寮に戻る。小学生のうちは、平日に寮の外に出ることはできない。
 
3階建てのその建物は、男子寮と女子寮がつながっており、小学校1年生から高校3年生までが暮らす1つの建屋だった。入口はそれぞれ1つずつ。1階の女子寮の入り口を入ると、居酒屋の入り口のように下駄箱が並び、ピアノが置いてあるホール、その奥に図書室。男子寮も同じ並びだ。それぞれ図書室を抜けた先が建物の中央となっていて、そこに食堂があった。全寮生が、その食堂で朝食と夕食をともにし、礼拝もそこで行う。確か2ヶ月に1度くらいはその大きな食堂で、寮生の誕生会もあった。小学生男子、女子、中学生男子、女子……というようにカテゴリーに分けて、それぞれ小さな出し物をする。演劇をやったり歌を披露したり。そうやって、チームで何かを作り上げることを経験する。
 
男子寮も女子寮も、2階に小学生の部屋、3階に中高生の部屋という並びになっていて、その間には重く厚い鉄の扉が配してあった。寮監の先生がその鉄の扉の鍵を持っていて、当然女子と男子が行き来することはできない。まあ、中学生になると、男子たちが寮監の先生からこっそり鍵を盗み取って、女子寮に遊びに来ていたりはしたけれど。
 
寮の部屋は4人一部屋。二段ベッドが2台と、勉強机と小さなタンスがそれぞれ4つ。小学校1年生は6年生のお姉さんと同じ部屋になる。お姉さんたちは、自然と下級生の面倒を見るようになるわけだ。机の上を整理整頓しておくことや、洋服の畳み方もここで覚えた。
 
お姉さんたちはやさしかったけれど、7歳の女の子にとって、親と離れて暮らすことはとてつもなく寂しいことだった。日曜の夕方、寮に戻るために自宅を出なければならない時間が近づいてくると、いつも決まってお腹が痛くなっていた。寮に戻るのが嫌で仕方なくて、毎週母を困らせた。母は私をなだめすかして、なんとか寮に行かせようとしていた。
 
4年生になったとき、3つ下の妹が1年生でその学校に入ることになった。自宅を離れるのを嫌がる妹を、今度は私がなだめて一緒に寮に行くようになった。寮生活が楽しい、とはまだこの時は思っていなかった。ただ、お姉ちゃん風を吹かせたかったのだ。本当は自分だってイヤだったけれど、ここはカッコつけないといけない、と思ったのだ。
 
中学生になると、親に干渉されない気楽さを心地いい、と感じるようになった。友達と、学校にいる間だけでなくても一緒にいられる楽しさ。勉強を教え合ったり、悩みを打ち明け合ったり。〇君が好き、とか△君に告白されたとか。寮の食堂で、先輩カップルがひっそりと交換日記を渡しているところを目撃する、とか。そういう密やかな場面は、ペラペラと周囲に話すものではない、といったことも寮生活で自然に学んだことの1つだ。
 
起床、洗面、掃除、礼拝、朝食準備、全員そろっての「いただきます」、片付け、学校に行く準備。徒歩7分程度の学校に行く前にこれだけのことを行う。洗面台も、当然一人1つあるわけではないから、自然と譲り合うようになる。誰に言われなくても、自分1人だけで長い時間占領することは、他の人たちの迷惑になってしまう、ということを学ぶのだ。当番制で回ってくる掃除や朝食準備も、何をどうするか、先輩が後輩に口伝えで教えていた。お皿洗いはやりたくない、なんてことは言えない。やりたいことだけをやり、やりたくないことはやらない、というのは許されない。集団生活では、やりたくないことだって、やらなければいけないときがある。
 
本当はつらくてもカッコつける必要があるときだってある。
他人と意見をすり合わせながら、何かを作り上げることを経験する。
自分より年下の子の面倒はちゃんと見る。年上のことは敬う。
秘め事はペラペラしゃべらない。
譲り合う気持ちを持つ。
やりたくないことをやらなきゃいけないときもある。
 
こういう小さなことの1つ1つを、集団生活の中で、オトナの階段を昇りながら学んできた。年齢の近い人たちに囲まれ、上級生も下級生も一緒になって生活していく中で身につけてきた。そしてここで学んだことは、人としての礎となって、今の自分を形成している。
 
生き方を決めるのは自分自身。10歳のYoutuberの彼が学校に行かない選択をしたのも彼の生き方。ただ、周囲の大人たちは、年齢の近い人たちとの集団生活の中で身につけられるであろうあれこれを、なんらかの形で彼に経験させてあげて欲しい。余計なお世話だろうけど。
 
 
 
 
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2019-05-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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