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メディアグランプリ

僕が人間になった日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:村尾悦郎(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「気にすんなよ。きっと時間が解決してくれるからな、たぶん」
 
高3の5月、僕は17歳。
この言葉は、僕が「のりひこ君」という友達にかけられたものだ。
少し遅すぎる気もするが、僕はこの言葉で「人間」としての第一歩を踏み出した。
 
のりひこ君とは3歳ごろに出会ってから、なんだかんだで30年ぐらいの付き合いになる。幼稚園から高校まで同じ学校に通い、同じ柔道部で汗を流した大切な友達だ。家が近所だったので、いつも一緒に帰っていた。
 
やさしく、面倒見の良いのりひこ君は、長男でわがまま放題に育った僕にとって、友達であると同時に兄であり、時に親でもあった。いつも僕を気にかけ、世話を焼いてくれ、「悦郎、これはこうするんだぞ」と、不器用な僕を助けてくれた。小学校の運動会で、競技に必要な風呂敷を用意し忘れた僕を助けるため、自分の親にかけあって余分な風呂敷を用意してくれたエピソードは「のりひこ君は良くできた子だ」と、僕の家では今でも語り草となっている。
 
情けない話だが、僕はそんなのりひこ君のやさしさを「あたり前のもの」として認識していた。それどころか、自己中心的で他人に対する感謝の薄い僕は、のりひこ君の世話焼きを「うっとおしいな」と思うことすらあった。
 
中学、高校に進み、その傾向はさらに強くなる。僕は親にではなく、のりひこ君に反抗期を迎えたのだ。
 
一段と身勝手な主張が強くなる僕に、それをいさめるのりひこ君。あろうことか僕は「こいつ、分かってないな!」と一方的な反感を抱き、遠ざけた。そんな態度でいるから、やさしいのりひこ君も「いいかげんにしろよ」と怒ることもあり、だんだんと一緒に帰る機会が少なくなった。
 
同時期、僕はそれまで所属していた柔道部に加えて美術部にも入部し、柔道部に顔を出すことが減っていった。それまでは柔道一直線だった僕の興味が高校に入って徐々に変わり、美術系の大学を志望するようになったからだ。
 
そんな僕に、柔道部のメンバーは反感を抱いた。団結の強い反面、そういった行為を「裏切り」と取る人も少なくなかったのだ。彼らに積もった不満はやがて爆発し、引退間際の高3年の5月、事件は起こった。
 
「お前、試合で負けた俺を笑っただろう」
 
レギュラーのひとりに因縁をつけられ、掴みかかられそうになった。いくら「そんなことはしていない」と言っても聞き入れてもらえない。その場はのりひこ君たちが収めてくれたが、ギスギスしていた柔道部の仲間との関係に「もう限界だ」と感じ、その日のうちに顧問の先生に部をやめる意思を伝えた。引退まであとわずかとはいえ、表面化した彼らの敵意に耐えきれる気がしなかった。
 
数日後、先生のもとで部員全員が集められた。先生としては調停を行ないたかったのだろうが、一対多数の話し合いはもはや軍事裁判のようだった。
 
「お前、やめるってどういうつもりだ?」
 
先日、僕に掴みかかろうとした奴が僕をにらみながら言う。
 
――どうもこうも、もうお前たちとはつき合えないからだよ。
 
と言いたかったが、10人ほどの冷たい視線が、僕を刺し続けた。本音を言える雰囲気ではない。ただ小さく、「もう受験に専念するから」とだけ言った。
 
にらみつける顔が、一段、怒りを増した表情に変わる。
 
「おい、ふざけんなよ! 俺たちは毎日練習で苦しい思いをしてるのに、お前だけサボってラクしやがって」
 
むきだしの本音と敵意が向けられた瞬間、僕は悟った。
 
――ああ、もう、何を言っても分かってもらえない。こいつらにとって俺はもう“敵”なんだ。
 
恐怖と、それにも増して強い悲しみを覚えた。のりひこ君もその場にいたが、特に目を合わさず、何を言うこともなく……部員たちと同じ思いであると感じた。
 
ずっと一緒にやってきた仲間たちが今、僕に憎しみしか抱いていない。もう口を閉ざすしかなかった。
 
和解のための言葉はついにひとつも生まれず、時間が来て話し合いは終わった。レギュラーたちはみな、「許さねえ」とにらみながら、部屋を出ていった。
 
――ああ、友達が、みんないなくなってしまった。
 
ただただ、悲しくて、孤独だった。小学生からずっと一緒にやってきた仲間との関係が、柔道が、こんな結末を迎えてしまった。これまで積み重ねた時間の分だけ、心が突き落とされたように沈んだ。
 
そんな、喪失感でいっぱいになりながらトボトボと教室に向かう僕を、
 
「なあ」
 
と、呼び止める声があった。
 
……のりひこ君だった。
 
――なんだ、まだ言い足りないことがあったのか?
 
卑屈な気持ちで振り返った僕に、かけられた言葉は意外なものだった。
 
「気にすんなよ。きっと時間が解決してくれるからな、たぶん」
 
心配そうに、そう言って、ポンと肩を叩いてくれた。
 
僕は泣かなかった。
 
泣かなかったが泣きそうだった。こらえた。
 
のりひこ君は、どこまでものりひこ君だったのだ。
 
「気にすんなよ」
 
その一言で、救われた。
 
やっと、彼のやさしさに僕は気がついた。
気がついたと同時に、独りよがりに彼を遠ざけたこれまでの自分を恥じた。
 
「人にはやさしくしよう」
 
小さい頃から親や先生に言われてきたが、この時、この言葉がはじめて実感を持って僕の胸に刻み込まれた。
 
なんとも単純な言葉だが、本当に「人間の基本」だと思っている。
 
僕は、それをのりひこ君に教えてもらったのだ。
 
 
 
 
***
 
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2019-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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