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メディアグランプリ

毎日本当にバカなんじゃないか? と思うこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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横山信弘(ライティング・ゼミ火曜コース)
 
 
「もう、いい加減にしてほしい! ちょっと考えればわかることだろう。どうして、こんなに気が利かないのか。本当にバカなんじゃないか?」
 
なぜ、朝からこんな小さなことで頭にこなくてはならないのでしょうか。しかも、毎日です。もう私は50歳。もっと穏やかな気持ちで日々を送りたいのに、そんなカンタンなことができません。
 
私は愛知県江南市という、岐阜県の県境に近い小さな街に住んでいます。その江南市の家から名古屋のオフィスへ、毎日電車で通勤しています。使うのは、「名鉄犬山線」。
 
名古屋の私鉄である名鉄は、メインが「名鉄名古屋本線」。一宮や岐阜、豊橋といった都市をつないでいる線です。いっぽう「名鉄犬山線」は、川でたとえれば「支流」ですから、車両も本数も少ない。したがって、朝の通勤ラッシュは「本流」である「名鉄名古屋本線」よりも厳しいのです。
 
「その怒り、ホントにわかります。なんで、電車の中ほどまで行かないんですかね」
 
「本当に、頭おかしいんじゃないかって、思うんだ」
 
「気が利ないんでしょうかね」
 
私は、毎朝7時半ごろの電車に乗ります。その電車が駅に着くころには、すでにドア付近に人が密集していて、無理やり乗り込まないと、体を車内に入れることができないほど激混みです。
 
電車の中ほどに目を向けると、かなりのスペースがあるのに、なぜか、そこへ退避せず、ずっと名古屋駅に到着する25分間ぐらい、額に汗を浮かべ、うなだれながら耐えている会社員、OL、高校生たちがたくさんいます。
 
名古屋駅に着いた際、すぐに降りられるように、そのポジションを確保しているのか。最初はそう思っていたのですが、なんと、名古屋に到着しても降りない人もいます。
 
車内にいる、半分ぐらいの乗客が名古屋で降りるわけですから、なだれのようにドア付近に押し寄せるのに、いったん車外に出て道を譲ろうともしません。くるくる体をまわしながら、その場所に留まりつづけようとする者もいたりして、腹立たしいのを通り越して、哀れにさえ思うこともあります。
 
「奥さんの体調はどうなんですか?」
 
「よかったり、悪かったりかな」
 
「それなら、お子さんの弁当は、横山さんが作るんですね」
 
私は朝が強い。ですから通勤ラッシュを避けて、1時間でもはやく出社すれば、こんな不満を毎日のように抱くことはありません。
 
しかし、中学生の娘、高校生の息子の朝食の準備や、弁当作りもある。ですから、なかなかそうはいきません。
 
わずかな30分でも、朝の時間しか、子どもたちと交流ができない私にとっては貴重な30分です。たとえ、最も混み合う時間に電車に乗ることになっても、ゆずれないことです。
 
「ところで横山さん、ミラーニューロンって知ってますか」
 
「何それ?」
 
「無意識のうちに、近くにいる人の思考を物まねしてしまう脳細胞のことのようです」
 
「どういうこと?」
 
「たとえば泣いている人を見ると、理由がわからなくても、泣けてくるじゃないですか」
 
「あるある。感化されるよな」
 
「そうです! その感化、です」
 
部下は、『電車の奥に行く技術』があればいいのだと言います。その技術とは、「ちょっと通してもらえませんか」「奥にスペースがありそうですから失礼します」とか言って、通路を塞いでいる人の横をすり抜けながら、中ほどまで入っていくテクニックのことだそうです。
 
そうすると周囲の人も「感化」されて、次々とドア付近から、電車の中ほどまで移動するという実験結果があるという。
 
「眉間にしわ寄せて、どいてください、と言ったらダメです。にこやかに笑っていえば、相手も感化されて、どいてくれます」
 
本当か? これほど気が利かない相手なのだから、頑として道を譲らないんじゃ……。
 
気が進みませんでしたが、とにかく部下の言うとおりにやってみようと思いました。私の中で、このままではいけない、自分が変わらないと事態が好転することはない、とようやく思えたからです。
 
翌日、いつもの時間に家を出ました。いつもの、ぎゅうぎゅう詰めの名鉄犬山線に乗ります。後ろから背中を押され、ドア付近の1メートル先まで進みます。しかし、それ以上、身動きがとれません。
 
つま先立ちをし、電車の中ほどまで目を向けてみました。意外に遠い……。と思いましたが、押し込まれた勢いのまま行くべきです。このタイミングを逃すと、また名古屋駅に到着するまでの25分ほど、息の詰まるような時間を過ごすはめになります。
 
「ちょっと失礼しまーす」「ありがとうございます」「ちょっとごめんなさいね」
 
満面の笑顔をしようとしましたが、ムリでした。ひきつった笑いになりましたが、それでも、けっこう強引に、カバンを胸に抱えながら進んでいくと、何とか通してくれました。
 
やった! 通れた!
 
たった1メートルほど、電車の中ほどまで進んだだけなのに、車内の空気は一変します。空気の淀みが感じられない。サラサラしていて、涼しげに感じられるほどです。中央ぐらいにスペースを見つけて、自分のポジションを確保すると、なんと私に続いて、ひとりのOLも中に入ってきました。
 
やった――!
 
その女性も、「解放された~」と言いたげな表情で、中ほどまでやってきました。額の汗をハンカチで拭いています。
 
私の動きに感化されて、彼女は行動を起こしたのです。それがなんだかすごく嬉しかった。
 
それからというもの、私は毎日チャレンジしています。いつもうまくいくわけではありませんが、60~70%の確率で成功しています。気が利かない人を前にして、毎日「バカなんじゃないか」とぶつくさ言っていた日々とお別れできたのです。
 
何事も、ちょっとの勇気と笑顔が、事態を好転させてくれるのだと、あらためて教えられます。
 
 
 
 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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