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島で見つけた幸せな私


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記事:久保田真凡(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
瀬戸内の島は幸せの国だと思う。夢の国ではない、幸せの国だ。
 
2019年4月、香川県丸亀市沖にある瀬戸内の島、本島のお大師参り(島遍路)へ行ってきた。香川県には、古くから四国八十八箇所参りという風習がある。
八十八箇所参りは、弘法大師(空海)の足跡をたどり、八十八箇所の霊場を巡拝することで、88の煩悩が消え、願が叶うというものだ。
 
瀬戸内の島々には、この八十八箇所を模した、通称「島遍路」という文化を持つ島が多く、ここ本島では420年ほど前に始まったそうだ。
当時は豊臣秀吉の朝鮮の役に従軍し、亡くなった船乗りたちを供養するために始まったものと言われているが、現在では島散策を目的に県内外から人が訪れている。
 
本島へ向かう船の途中、たまたま隣に座った老年男性から声を掛けられた。
 
「あんた1人な?」
 
「はい、初めてなんですよ。おじさんはみなさんと?」
 
「毎年自治会で来よんや。まぁ年寄りは時間あるからな、運動や、運動。全部や回らんので。ようけ(たくさん)は歩けんけん、行けるとこだけな。あんたお接待もろたら、そのリュックいっぱいになるわ。しかし、今日はほんまええ日じゃな・・・・・・」
 
この日は天気も良く、ちょうど桜も満開を迎えた頃で、絶好の島遍路日和だった。船からの景色はとても贅沢で、私はこの男性と瀬戸内の多島美を眺めながら少しの会話を楽しんだ。
 
港を出て30分、船を下りると、島内の寺院がポイントされたマップが配られた。本島お大師参りには33箇所のお参りスポットがある。
 
「確かにおじさんの言うとおり33箇所全部回るのはなかなか大変そうやな。最初やし、行けるところまで行ってみるかな」
1番札所の寺院を目指して、私は足を進めた。
 
お遍路には「お接待」という、遍路(巡礼する人)に茶菓子や赤飯、飲み物などを無償でふるまう文化がある。1番札所の長徳寺では、赤飯が配られていたのだが、その量はお米にして約100㎏。島の女性たちはこの赤飯を前日から寺に集まって準備したという。
 
本島の島遍路には実行委員会と呼ばれるものがないので、島の人たちはお大師参りの日が近づくと、誰が声を上げることもなく各々の檀那寺に集まり、お接待の準備を始めるという。これが420年もの間ずっと続いているというのは実に興味深い。そこには訪れる人を歓迎し、労う「思いやりの心」が感じられた。
 
お接待のやりとりに限らず、島遍路には人との触れ合いが至るところにあった。
例えば挨拶もそうだ。この日、私は1番、2番、3番と順に寺院を巡礼していったのだが、その道中で出会う人たちと、どちらからともなく挨拶をした。不思議なもので、毎朝出勤途中に立ち寄るコンビニで会う人には挨拶ができないのに、ここでは誰とでも、分け隔て無く挨拶ができる。
島という限られた空間で、お大師参りという同じ目的を共有している感覚になるからか、見ず知らずの人に仲間意識が湧いた。
 
島で交わす挨拶はすればするほど、心が温かい気持ちになっていった。「ここにいるよ」ということを認めてもらえた気分になっているのか、それとも徳を積んだ気分になっているのかは、私自身も良く分からない。ただ「こんにちは」の中には、「あなたも来たのね(一緒ね)」とか「頑張ってね」とか、そういった意味も込められているように感じた。
 
島遍路はただそれを行っているだけで、頭と心がスッキリし、幸福感度が高くなる。
次の目的地を目指して黙々と歩いていると、余計なことを考えなくなる。日頃浴びる様々な情報や、抱えるタスクから解放されるのは、とても気持ちがいい。歩けば歩くほど、頭の中は限りなく無に近い状態になるわけだが、それでも脳裏をよぎるものがある。それこそが今の自分の声だと思う。今、自分は何を感じていて、何が気になっているのか。それが分かると、持つ必要のないモヤモヤを手放すことができた。
 
そうしたところに、全く素性の知らない人たちが、それぞれの心地良い距離で触れ合い、言葉を交わし、お接待を渡したり受け取ったりしながら思いやりが連鎖していく。これが幸福感度を上げるミソだ。
このちょっとしたやり取りで心が温くなると、徐々に自分がポジティブフォーカスし始めていることに気付く。そうすると遍路の最中に起きる、小さな出来事や発見に心が躍りやすくなってくるのだ。
 
このおかげで私は道ばたに咲く野花や、鶯の鳴き声、瀬戸内の穏やかな波間に浮かぶ島々の景色を思いっきり味わうことができた。鶯の鳴き声に「今のちょっと下」とか「お手本のような鳴き声!」なんて感動したのは、おそらく生まれて初めてだったと思う。
 
自分と向き合い、その中で湧き起こる感情に気付き、今の自分を受け入れる。そして、避けて通れない、人との触れ合いに心が温かくなり、小さなことにいちいち感動するようになるのである。
それがどこで起こるかって、スーパーもない、コンビニもない、信号すらない、1周16キロの小さな島で起こるわけだから、つい本当の豊かさとは何かを考え、自分が満たされていることを知らされるのである。
 
本島に限らず、瀬戸内の島にはこういった情景が良く見られる。私は島遍路をきっかけに、島の魅力に取り憑かれてしまった。
ディズニーランドのような夢の国で非日常を思いっきり楽しむのもリフレッシュの1つだが、今ここにある些細な出来事に心が満たされる、幸せの国デンマークの「ヒュッゲ」のような時間の使い方を是非お薦めしたい。
 
島1周でコンプリートできる島遍路は、四国八十八箇所参りに比べると、その手軽さも魅力の1つだ。個人的には、あまりペースを上げず、ゆっくり回ることで得られる贅沢を味わって欲しい。
 
 
 
 
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2019-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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