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こんなに哀しいことは、一生に何度もあることじゃないから。


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記事:ミズタマ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
きのう彼の「母ちゃん」が死んだ。
 
急なことで、死に目にも会えんかったって。
 
今週の日曜に救急車で運ばれたけど、
快復して明日には退院って言われとったけん、
月火水木金って毎日病院に行きよったけど、
明日には退院って言われとったけん、
今日は行かんかったとよ。そしたら、急変してさ。
なんで俺、今日病院行かんかったちゃろ。
なんで最後に会えんかったっちゃろ。
 
もっとさ、母ちゃんにしてやりたいこと
いっぱいあったとに、なんもしてやれんかった。
 
そうやって言葉を詰まらせながら彼は、泣いていた。
 
こんなとき、どんな風に返してあげたら良いのだろう。
きっと、何をいっても届かない。言葉は無力だ。
近くに居たら、今すぐ駆け寄って、手を握ってあげられるのに。
うなずきながら、一緒に泣いて、抱きしめてあげられるのに。
 
私はいま東京にいる。彼はいま福岡だ。
 
明日一番の飛行機で帰って、お通夜と葬式と手伝おうか。
でも、いまさら何ができる?仕事もあるし、お金もかかる。物理的に無理じゃん?行けないなあ……。
 
いや、行かなかったんだ。
 
また、私は選ばなかったんだ。
 
彼と出会ったのは5年くらい前。
初対面の印象は最悪だった。
太っていてヒゲ面でゲップも躊躇なく連発し、
挙げ句の果てに下ネタもひどかった。
だけど同級生だったことと共通の友達が居たことで
「男」としてより「友達」として接したら、面白くて楽だった。
婚活で疲れきっていた私にとって、彼との時間は休息だった。
 
いろんな相談をした。異性のことはもちろん、仕事のことも。
その度に真面目に話を聞いてくれて、きちんとアドバイスまでしてくれた。
意外だった。
チャラそうで、ユルそうで、バカそうな彼がまともに見えた。
これは私に恋を錯覚させた。
 
婚活は減点方式だ。知りたいことは事前にリスト化してある。
顔、年齢、身長、学歴、年収、親兄弟、共働き前提なのか、どんな人が好みなのか。
提示されたリストから自分の理想に合いそうな人を選んで、
会ってからの雰囲気や、話してからの感覚で、マイナスされていく。
なかなかプラスになることはなく、また次の人を探すことになる。
たぶん向こうもそうなのだろう。
2、3回会って食事して、お互いフェードアウトしていくパターンが少なくなかった。
 
ところが彼といったら初対面が最悪だったことと、結婚相手として、むしろ恋人候補としてすらなかった人が、
会って話すだけで、楽しいから、どんどん加点されていく。
バカだと思っていたのに意外と賢いな。
チャラそうと思っていたのに、意外ときちんとしているな。
ユルそうと思っていたのは、ユルかったけれど(笑)
それが、良かった。
キチッ、キチッとしなければいけない私の性格を、緩めてくれた。
私は、深呼吸ができた。
だから、私は彼に交際を申し込んだけれど、断られた。
 
理由は2つあった。1つ目は親に借金があること。2つ目は両親ともに介護が必要なこと。
 
私は「一緒に乗り越えよう」と言えなかった。
 
彼の奥さんになって、彼と一緒に借金を返すために働き、
彼の両親を介護する毎日は想像するだけで耐えられなかった。
 
それでも、私たちはずっと仲良しだった。
 
彼が仕事と介護に忙しかったので、1ヶ月に数回ごはんを食べるだけだったけれど。
どっかに行ったり、何かを一緒に見たりすることはできなかったけれど。
私たちはそれだけの関係を、何年も一緒に過ごしてきた。
何百回と一緒にごはんを食べてきた。
 
私が東京に行くことが決まったときも、彼は反対しなかった。
ただ「何もしてやれんで、ごめんね」と言った。
 
私は東京にきて、1人でごはんを食べることが多くなった。
ごはんは美味しくなかった。
彼と食べるごはんは高価ではなかったけれど、いつもあんなに美味しかったのに。
 
「何もしてやれんかった」はずないやろ。
どれだけあんたが母ちゃんのために時間とお金を割いて、
どれだけ母ちゃんのこと思っとったか、私は知っとうけん。
 
たぶん母ちゃんも、おんなじこと思っとうけん。
もっとあんたにしてやりたかったこと、
いっぱいあったと思うよ。
でも、十分してもらったって思っとうやろ。
母ちゃんもそうやけん。
十分してもらったって思っとうはずやけん。
 
こんなに哀しいことは一生に何度もあることじゃないけん。
いまは泣けばいいよ。
月が綺麗かけん、みよかんね。
私も、みよるけん。
 
(行けんで、ごめんね)
 
行かんかったちゃろ、私は自分に言った。
私はまた選ばなかった。
後悔するのかも、しれない。
 
未来のことは誰にも、わからない。
でも自分の望んだように、したいのなら。
選んでいかなければ、ならない。
 
他人や環境のせいにして「選べなかった」のではなく、主体的に「選ばなかった」としなければ。
 
だけど、涙が出てくるのは、何でだ。
 
 
 
 
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2019-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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