メディアグランプリ

なりたい症候群の治し方


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:のぐちまりゑ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「将来、何になりたい?」
 
この質問を、全世界で禁止としたい。
なぜなら大事なのは「何になりたいか」ではなく「どう生きたいか」だからだ。
「何になりたいか」を軸にすると、その子どもの人生は割と狂う。
 

 
子どもの頃、あらゆる専門職に憧れた。
 
「和菓子職人になったら、ステキな和菓子をふるまってみんなに喜んでもらえそうだし、自分も毎日幸せそう」という感覚で、和菓子職人になりたい! と言っていた。和菓子を作ったことなんて一度もないのに。
 
「花火師になったら、大勢の人たちに大きな感動を味わってもらえそうだし、花火の調合を工夫するのも楽しそう」という感覚で、花火師になりたい! と言っている時期もあった。
 
声優、ナレーター、舞台役者、などなど……、他にもたくさんの専門職に憧れ続けてきた。
 
これらに共通するのは、他人のライフスタイルがうらやましくなって夢や目標に設定した、という点だ。必ず特定の人間が憧れの対象になっている。これを私は「なりたい症候群」と呼んでいる。勝手に。
 
実際に取り組んでみると、和菓子作りは準備がめんどうだし、分量を計ることすら他人にやってもらいたくなった。
 
声優、ナレーター、舞台役者の場合は、昼夜逆転しながら稽古するなんて無理……とか、テンション高く演技すると余計な空気を飲み込んでお腹の膨張感が強くなって立っていられなくなる……とか、非常に細かくやっかいな部分がうきぼりになっていった。
 
つまり、やっていても心地よさを感じないのだ。もちろん和菓子の美味しさや舞台本番の心地よさ素晴らしく感じるけれど、それと引き換えにするには自分の体が合わなすぎる、という事実が厳然としてある。
 
行動してみてそれがわかるのに憧れに立ち向かう。それを何度も繰り返す。これが「なりたい症候群」だ。
 
ただ、この症候群のいいところは、必ず何かしらの「行動」を伴っている点だ。「なりたい」と思っただけで何の行動もしていなければ、合っているのかすらわからない。行動した結果、もし合っていれば「なりたい症候群」は収まってくれる。
 
しかし、最近になってようやく気づいたのは「誰に強制されずとも勝手にやってしまうこと」に注目した方がいいんじゃないか? ということだ。
 
この視点でいくと、私は「誰に強制されずとも勝手に文字を書いている」人だった。
 
小説でもコラムでも、意味のない言葉の羅列でも何でもいいから「文字を書いている」のが心地よいと感じるらしい。「文筆家になりたい!」と思って始めたものではないのに、だ。
 
特に出かける用事がなくて人と会わなくていいときは、ノートを広げて1時間でも2時間でもペンを動かしていられる。それが誰かにとってのコンテンツになるかはさておき、自分にとって最高に心地よい時間だ。
 
この「心地よさ優先」と「なりたい症候群」を比べてみると、「幸せ」の感じ方がまったく異なることに気づく。
 
「なりたい症候群」の場合、今ではないどこか遠い地点に「幸せ」という状態が存在し、そこに向かって日々修行することが求められる。修行中は「幸せ」な状態はほとんど訪れないし、その修業が絶対にうまくいくともかぎらない。
 
そして「心地よさ優先」の場合は、今この瞬間がもうすでに「幸せ」な状態なのである。そしておそらく次の瞬間も「幸せ」な状態であり、その行動を続けている間は心地よいので「幸せ」な状態が続く。
 
さて、どちらが自分にとって「幸せ」か。
 
もちろん夢や目標を達成することが幸せという人もいる。それが合っている人、たとえばアスリートや芸能の世界で活躍する人たちはその道をひた走っているし、夢を追う姿は尊敬に値する。
 
しかし、こと自分のように「なりたい症候群」に陥り、合う合わないの堂々巡りにハマってしまった人にとって、夢や目標などの遠い何かを眺めて毎日を過ごすのは実はちょっと危険なのだ。大げさでなく、トラウマと同じようなやっかいな存在に変わってしまう。
 
・達成しなければならない(克服しなければならない)
・達成しないかぎりつきまとう(克服しないかぎりつきまとう)
・達成したその先は?(克服したその先は?)
 
こんなふうに、夢や目標はトラウマのような執着にもなりうる。どれも自分に合わない、私には夢中になれるものがない、何も自分を救ってくれない、そう思いながら日々をやり過ごすと生活から色彩が失われてしまうのだ。
 
だから「なりたい症候群」を治すためには「先のことを考えて生きろ、目標を立てろ、夢を掲げて向上心を持て」という言説にも合う合わないがある、とまずは理解しよう。
 
必要なのは先を見ないことだ。今この瞬間にどうすれば心地よくなるかを考えることだ。
 
あなたが心地よくなることならなんでもいい。
私のように、ノートとペンでひたすら文字を書きなぐることかもしれない。布と刺繍糸と針でひたすらチクチクすることかもしれない。近所の公園を散歩することかもしれない。もしかしたら舞台に立って演じることかもしれない。
 
それが人の役に立つか、お金になるかなんて関係ない。まずは自分が心地よいかどうかを最優先に考えてみよう。
 
夢をトラウマにしないために。
 
 
 
 
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2019-07-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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