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人生に紫陽花をさがそう


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記事:豊福直子(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
6月。梅雨。
朝、ベッドの中で目を覚ますと、窓の外でしとしとと雨の降る音がする。
「今日も雨かぁ……」と、すでに憂鬱な気持ちになる。
 
私は梅雨が嫌いだ。
雨がもともとそんなに好きではない上に、この時期の雨はとにかくテンションが下がる。
ゴールデンウィークが終わり、夏に向けてぐんぐん気温が上がる中で毎年やってくるこの季節は、とにかく湿気と雨との戦いだ。
雨で気温が下がればまだいいけれど、むわっとした空気で肌がべたつく。
朝から傘を差さなければいけないのも、手が空かなくて不便だ。
一生懸命に巻いた髪の毛だって、通勤中にすべてとれてしまう。
外に出かける予定だって立てにくい。洗濯もできないし。
いいことなんかない。
私はずっと梅雨を毛嫌いして生きてきた。
ただし、そんな梅雨にもたったひとつだけ例外が存在する。
 
紫陽花だ。
この時期に咲く、紫陽花の花が私は大好きだ。
私は紫陽花を見るといつも、「奇跡なのかな」と思ってしまう。
だってそれくらい繊細で、芸術的で、種類によってまったく色も形も異なっている。なのにそれぞれが、それぞれにちゃんと綺麗なのだ。
 
「あぁ、梅雨、だるいなぁ」
朝から憂鬱な気持ちで歩く通勤路。
だけど、紫陽花を見つけると途端に心が躍ってしまう。
紫陽花が綺麗に咲いている。それだけで、この大嫌いな梅雨にも逆転ホームランを打てるのだ。
 
幸いなことに、私の通勤路には紫陽花が咲くスポットがいくつもある。
「今年も紫陽花が咲き始めたな」
そう思いながら通勤する日々が始まった。
 
ところで今年の梅雨入りは例年にくらべて遅く、「どうやら梅雨入りしたみたいだ」とうわさに聞いても、雨がまったく降らない日が続いていた。
パラっと振っても昼には上がって快晴、なんて日もめずらしくない。
梅雨が苦手な私にとっては好都合だ。
今年はラッキーだな、なんて安易に考えていた。
 
しかし、そこで思わぬ問題が発生した。
 
日々眺めている紫陽花たちの様子が、どうもおかしいのである。
去年なら綺麗に色づいていった花びらが、連日の暑さで色あせ、日に日にしおれていってしまったのだ。
無理もない。人間だってこの暑さにバテてしまうくらいだ。
普段なら雨の恩恵をいっぱいに浴びてすくすく育つはずの紫陽花にとっては、余計にダメージが大きいのだろう。
そんなわけで、日に日に元気がなくなっていく紫陽花たちを横目に見ながら、なんともしょんぼりした気持ちで通勤する日々が続いた。
 
6月末。例年であれば梅雨真っただ中であるはずの頃、福岡はやっと今年の梅雨入りをした。
するとどうだろう。
まだ雨量は少ないけれど、今から咲きはじめの紫陽花たちが途端に生き生きしはじめた。
普段なら当たり前の光景だったはずなのに、なんだかとても新鮮に映る。
あぁ、良かったなあと心の底からほっとする。
雨を浴びている紫陽花が一番、紫陽花らしく輝いているな、と思う。
 
それまでのカラッとした快晴の毎日とは一変して、「髪の毛がまとまらない……」「傘差すのめんどくさい……」とさっそく不満が噴出しているが、元気な紫陽花たちを見ているとそんなこともどうでもよくなるのだ。
 
そんな風に過ごしている今年の梅雨、ぼんやりと思った。
人生は紫陽花探しの旅なのかもしれない。
生きていれば快晴の日もあれば、じめじめと永遠に続くのではないかと思われるような、雨の日々だってある。
だけど、そんな日々こそが咲かせることのできる花だって、きっと私の歩いてきた道にはあったはずなのだ。
そして降り続く雨の日々も、紫陽花を見つけることができれば逆転ホームランならば、それでいいのではないだろうか。
 
私は桜の咲き乱れる、穏やかな気候の春が好きだ。
向日葵が太陽に向かって元気に伸びる夏も、
金木犀の香りにはっと胸が苦しくなる、秋も好きだ。
そして自分が生まれた季節である、冬も大好きだ。
 
それぞれの季節に、それぞれの素晴らしさがある。
私が今まで「めんどくさい」「憂鬱だ」「早く終わればいいのに」と思っていた季節にだって、決して見逃すことのできない輝きがあったのだ。
 
これからも私は、うれしい季節と悲しい季節を繰り返していくのだろう。
うれしい季節は、きっと大丈夫だ。
春の陽気も、夏の太陽の匂いも、金木犀の香りも、冬の冷たい空気も、思いっきり吸い込めばいい。
悲しい季節がまた巡ってきたら。
そのときは、紫陽花を探せばいい。雨にしか咲かせることのできない花を探せばいいのだ。
きっとじめじめした心が一瞬で躍ってしまうくらい、綺麗な花にちがいない。
 
じきに、今年の梅雨も終わってしまう。
いつもなら大嫌いだったはずのこの季節とのお別れが、今は少しさみしくすら感じている。
来年のこの時期、雨が咲かせる紫陽花たちにまた出会えることが、今からすでに楽しみである。
 
 
 
 
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2019-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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