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メディアグランプリ

隣人は殺人鬼ではなかった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:羽田 三保子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「はぁ、はぁ……、
助けてください……」
 
玄関のインターホンがけたたましく鳴り、重い体を無理やり起こして受話器を取ると、聞きなれない男の声がそう訴えてくる。
 
携帯の時間を見ると、午前5時。
まだ目が半分も開いていない上に、頭もにわかに痛い。
 
そっか……昨日バイト仲間と飲んで、寝たのは午前3時だった。
 
てゆーか、誰だよお前。
 
「あの……どちらさまですか?」
恐る恐るたずねてみると、息を整えながら男が答える。
 
「あの……オレッ、隣に住んでるんですけど!」
「さっき警察に通報されちゃって、いま下にパトカーが来てるんです」
「なので……助けてくださいっ!」
 
東京に住んで3年と2ヶ月。
今の家は2件目で、住み始めて1年と2ヶ月になる。
京王線の千歳烏山駅から徒歩1分。毎日バイトと学校の行き来で、家には寝に帰るだけだった私は、起きてすぐに電車に飛び乗れる立地が気に入りこの家を借りた。
セキュリティの無いマンションの2階は少し不安だったが、ベランダは商店街に面しており人目も多いので大丈夫だろう。
何よりもその前に2年間住んでいた同じ京王線の橋本駅に比べると、軽く見積もっても40分は長く寝ていられる。
この家を見つけた時は、一度目の内見で即決した。
 
……そうか、隣の人なのか。
隣の人ってどんな人だったっけ?
 
寝起きで頭働いてないし、全然状況が読めない。
 
通報? 何をやらかしたのこの人? 人殺しの犯人とか?
そういえば、この近くで一家殺人事件あったな……
 
なんにせよ恐すぎる。
開けてはダメだ。
 
「いや、無理です」
と言い残し、いったんインターホンを切る。
 
水道から水をコップ一杯に入れ一気に飲み干した後、ベランダのカーテンを開ける。
男の言うとおり、本当にパトカーが来ているのかを確認するためだ。
 
パシッ! パシッ! パシッ!
 
カーテンを開け、ドアを半分開けたところで、眩しすぎる光に照らされた。
 
寝起きの目にはそうとうキツイ。
 
目が慣れてわかったのは、どうやら三人の警官がベランダの下におり、三方向からライトで照らされのだという事。
 
そして朝の5時だというのに、2階の我が家のベランダの真下の商店街には、騒ぎで駆けつけた人だかり。
 
完全なるスッピンとノーブラにTシャツという恥ずかしい出で立ちでライトアップされた私に、一斉に視線が浴びせられる。
 
警官の一人が、
「今不審な男がこのマンションにいます! そちらにいませんか?」
 
……今うちの前にいるっちゃーいるけど。
ホントに隣の人だったら悪いし……
と思いつつ、
「います! うちの前に」と答える。
 
「そのまま動かないで居てください! 今助けに行きます! ドア開けちゃだめですよ! 」
 
その間も男はウチのインターホンを何度も鳴らしてくる。
 
……数十秒経っただろうか。
うちのドアの前で、警官の大きな声に混じって、
「違うんですぅー」
と言う先ほどの男の声。
 
その後またインターホンが鳴って開けると、2人の警官と小柄な茶髪の男がいた。
男はどことなくお笑い芸人のなだぎ武に似ている。
 
警官の話を整理すると、男はうちの隣りの部屋の住人で、家のカギを無くしてベランダによじのぼって部屋に入ろうとしたところを、怪しすぎたため通行人に通報されたらしい。
 
結局、免許証の住所から男がお隣さんである事は証明されたのと、もう一つ。
私は男(なだぎ武似)の顔をよく見ると、近所の行きつけのハワイアンカフェの店員だということに気づいた。
 
「あっ! いつもお世話になってます、よね?」
 
私のその言葉で警官は少し安心したのか、私の事情聴取(名前、職業、学校名、携帯番号等)をメモしてしばらくすると帰っていった。
 
お隣りさん……
こんな夜中にカンベンしてくれよ。 なんて人騒がせなんだよ。
 
思えば壁を1枚シェアしているお隣さん。
どんな人か全く知らずに1年2ヶ月過ごしてきたけど、顔見知りの人だったとは。
 
メディア等で「人との繋がりが希薄な現代社会」と言ったようなワードは聞くが、確かに私が子供の頃に比べると人との繋がりが減ってきている事は感じる。
 
例えば子供を育てることにしても、昔はご近所の地区全体で育てていたが、現代ではマンションの中でお母さん一人で完結し、周りの住人からは誰にも見えない環境で、子育てはどんどん孤立化している。
さらにさかのぼると、まだテレビが出始めたばかりの時代。
今では考えられないが、一家に一台テレビが無いのが当たり前で、人気の番組の放映が始まる時間になると、町の電気屋さんに子供も大人も集まり皆でテレビを囲んで観ていたのだそう。
一方で現在は、テレビやパソコン、スマートフォン等のデバイスを一人一台持っており、おのおのが部屋に篭り、別々のあるいは同じメディアを楽しんでいる。
確かにデバイスが大量生産されることで便利な世の中にはなったけれど、それにより人との繋がりや地域のコミュニティが無くなってきているように感じる。
 
一方で『シェアリング・エコノミー』そんな概念が脚光を浴びてきている。
例えばシェアハウスやAirbnbで家をシェアしたり、メルカリ等のフリマアプリで物をシェアする、といったように、モノやサービスを自分だけで所有するのではなく、インターネットを使って情報共有すすることで、必要な人がモノやサービスを利用できる、といった新しい経済概念のことだ。
シェアすることでコスト面が助かる、と言うのも価値の一つだが、私達はそろそろ一人で完結する社会に疲弊してきているのかもしれない、とも思う。
 
メルカリで頼んだ中古の洋服に、一言手書きで「ありがとうございます」というお礼のメモが入っている。
しるし書店で買う中古本にアンダーラインが引いてあり、前に読んだ人の心に引っかかったポイントを見てとれる。
人の温もりや手仕事感が価値になってきている。そんな気がする。
 
その後の大学卒業までの10ヶ月の間、私はその部屋で暮らし、人騒がせな隣人とは何度かばったり顔を合わせることがあったが、その度に彼は照れ臭そうにペコリと頭を下げていた。
たったそれだけなのだが、壁一枚をシェアする相手が全くの知らない人だった頃よりも、自分の部屋がよりくつろげる空間に変わった気がする。
 
 
 
 
***
 
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2019-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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