fbpx
メディアグランプリ

空気を読む人と読まない人のコミュニケーション


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:CHACO(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「この部屋は暑いですね」
 
と言われたら、普通はどう反応するだろうか?
 
以前、ローマにある日本大使館に勤めていたというイタリア人の元同僚が、日本人である私に、私だったらどうするか興味深げにたずねた。
 
え? どうするもなにも、暑いかどうかでしょ?同意するかしないかのどちらかよ、と答えた。
 
なんでも、この言葉は当時の大使から発せられたそうで、
 
「大使はね、私に窓を開けてほしかったんですって!」
 
「え? そうなの? ならちゃんとそう言えばいいのに」
 
「でしょ? 日本人のあなたでもわからないんだもの。私にわからなくて当然だわ」
 
言っておくが、このイタリア人の元同僚は、日本語だけでなく中国語も英語もフランス語も流暢に話す才女である。「この部屋は暑いですね」の意味くらいもちろんわかっていた。
どこがどうなったら、この部屋は暑い=窓を開けてください、になるのかが大きな疑問だったそうだ。
 
ここに私は日本語でのコミュニケーションの特殊さと難しさを見た気がした。
 
日本語には言葉に含められた意味が多い。言うなれば、空気を読むということだろうか。
それに比べて、英語やドイツ語などは、基本的に字面のまま理解すればよい言語である。空気を読む習慣のないことばだ。
 
だから、もしこの大使が日本人職員に「暑いですね」と言っていたとしたら、「窓をあけましょうか?」となっていたのだろう。(そのような芸当は私にはきっと無理だが……)
 
そして、この類の(空気を読んでもらおうという)会話では、聞き手の推測する能力に頼ることが多い。
 
よく言う夫婦の間の「あうんの呼吸」だが、あれが機能するのは、推測する能力と日常生活をずっと共にしてきて共通項となるバックグラウンドがあるからに他ならない。
 
わたしの両親の場合も、父が
 
「おい、お茶」
 
と言えば、父の好みどおりに入れられたお茶を、母がすぐに出していた。なんなら「おーい」だけでも通じていたかもしれない。不思議な世界だ。
 
これを例えば、私とドイツ人の夫がやるとすると、「Tee?」(お茶?)と言われた方は、
 
「お茶がどうしたの?ちゃんと文章で言ってくれる?」
 
となるか、
 
あ、お茶入れてくれるんだな、ちょっと休憩するか、となるだろう。そして、ティータイムを期待してテーブルについてもお茶なんかない。
 
「あれ?お茶入れてくれたんじゃないの?」
 
「いや、今日はティータイムがあるかどうか聞いただけ」
 
「じゃあ、 Tee? だけじゃなくって、最初からちゃんと言ってほしいなあ」
 
となるに違いない。
 
英語やドイツ語では、聞き手よりも話し手のほうが努力をしなければならない。
 
この場合、単に、「Tee? 」の代わりに「今日はティータイムあるの?私はなくてもいいけど、お茶するならあなたが入れてくれる?それなら私もちょっと休憩がてら一緒にお茶飲むわ」
 
と、ここまで言うべきだったのだ。でないと、誤解が生じる可能性が大きくなる。単語1つで通じてしまうのは、日本語独特の世界だ。
 
さっきも言ったが、共通の理解があればあるほど言葉は少なくて済む。例えば社内の会話を、部外者がきいても半分くらいしかわからないが、本人同士はほぼ100%話が通じている。若者同士、子供同士の会話も、大人や年配の人がきいてもよくわからないことがあるのは、共通項が少ないからだ。
 
とすると、共通の理解や価値観が極端に少ない異文化の人々とのコミュニケーションでは、話し手の努力が不可欠になる。相手も知っているであろうことをベースに会話をする必要がある。だから外国人に対して、桃太郎や戦国武将などの例を挙げて話をするのも、相手を混乱させるだけだ。
 
同様に、若手社員と年配の管理職とのコミュニケーションでも、異文化ととらえて「言わなくてもわかるだろう」という考えは排除した方がよさそうだ。
 
つくづく、コミュニケーションとは相手に期待しないことだと思う。
日本人は空気を読みすぎるあまり、相手も同じように空気を読んでわかってくれるだろうと期待すると、結局は自分の満足する結果にならないことが多々ある。
ドイツ人は空気を読まなさ過ぎて、思いもよらないことで相手をがっかりさせたり戸惑わせたりすることがある。
コミュニケーションとは簡単なものではない。絶妙なバランスを要する。
 
そんなことを常々考えながら、私は今日も夫の話に半分耳を傾ける。なぜ半分なのかと言うと、
 
「Kさんっていう知り合いがいてね、その人は3年前にピクニックで知り合ったんだけど、すごくいい人でドイツ語も上手で……」
 
と、延々といらぬ前置きが続くからである。
 
「Kさんなら私も知ってるし、そのピクニック一緒に行ったじゃん。だから、長い説明はいらないわよ。で、そのKさんがどうしたのよ?」
 
私も思わず途中で口をはさんで巻きを入れる。
私がKさんについてどのくらい知っているかを夫がわかっていると、私も期待してはいけないってことか……。これは単語一つで分かってもらおうと期待しないことより難しいかもしれない。
 
 
 
 
***
 
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《7/21(日)までの早期特典あり!》


 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事