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メディアグランプリ

落ちた雛鳥は助けるな!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:天草野黒猫(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ある日のことだった。
 
目の前に黒い物体がポトリと落ちてきた。
「な、何?」
 
それは九州の西の海上を、台風がまさに通りすぎようとしている時。
雨はさほど降ってはいなかったけれど、風の強い朝だった。
 
ウォーキングに出かけようと、階段を下りかけた途中それは起きた。
 
黒い物体の正体を探すべく、注意深く階段を見渡す。
何もみあたらない。ん? 何だったんだろう。
 
そう思った瞬間、バサッと羽音のような物音。
もう一度、数段を降りて覗き込む。
 
すると、いた!
まだ、羽が産毛でしっとりとぬれているような雛鳥。
身体の割にはクリッと大きな目のスズメの雛鳥だった。
 
わぁああ! どうしよう……
慌てて後ずさると、スズメの雛鳥も後ずさる。
 
巣はどこだ、親鳥はいないの?
きょろきょろと見回しても、見当たらない。
雛鳥と私。お互いにガン見状態だ。
相手がどう出るか、お互い様子をうかがっている。
 
「風は強いし、家の中に保護しようか」
 
考えあぐねていた時に、ふと祖母の言葉が頭にうかんだ。
 
「雛鳥はさわるな!」
 
そう、あれは子供の頃だ。
同じようにツバメが巣から落ちていた。
 
このままじゃ、死んじゃう。
子供の私は、かわいそうになって拾おうとした。
その時だった。あの祖母の声が響いた。
 
「え? おばあちゃん、でもこの子死んじゃうよ」
「大丈夫さい。だいぶ大きゅうなっとっで」
「飛ぶ練習し始めたっじゃろ。親が来るでがさわんな」
 
私はしぶしぶとその場を離れた。
あー大丈夫かな。ごはん食べれるかな。
気になって仕方がない。
 
私が拾わなかったから、死んでしまったらどうしよう……
子供ながらに不安と自責の念が込み上げる。
 
そして、何度か見にいったら、そのツバメの雛鳥はいなくなっていた。
 
飛び立ったのだろうか。よくわからなかった。
ただ、死んではいなかった。
なんとなく、ほっとしたことを覚えている。
 
そして、夕ご飯の時に祖母が話してくれたこと。
雛鳥は飛ぶ練習をする時に良く巣から落ちること。
人間が拾うと人の臭いがつくから、逆に良くないこと。
 
「死んだ時は、そん子の寿命たい」
 
なんともあっけらかんと笑いながら、祖母はいい放った。
その笑い声をよく覚えている。明るい祖母だった。
 
そして、子供の頃の私はどこかその笑い声に納得した。
よく分からないけど、おばあちゃんが言うのだ。
間違いない! と祖母に対する絶対的信頼感がそう思わせた。
 
そんな祖母の声が今回も頭の中で甦って来た。
とりあえず、保護する前に建設的な情報を調べよう。
ウォーキングは中止だ。
 
見つめあった雛鳥からゆっくり視線をはずし、そっと部屋に戻る。
 
インターネットで調べてみたら、祖母の言葉は本当だった。
巣立ちの時期には雛鳥がよく落巣する。
しかし、親が近くにいて世話をするのだと書いてある。
人に出来る事は、さわらないで見守ることだそうだ。
 
とりあえず、風が強いから風よけの小さな箱を用意。
ティッシュを敷き詰めた物を持って、また階段へと向かう。
 
すると、親鳥と思われるスズメが餌をくわえて近くに来ていた。
私が近寄るとあわてて、餌をくわえたまま近くの屋根へ。
何をするんだと見守っている。
 
もう一羽、近くでピピピピと警戒音を鳴らすスズメ。
この鳥がお父さんなのか?
二羽とも、警戒して私の動きを見守っていた。
 
ああ、よかった。おばあちゃんが言っていたとおりだった。
自然ってすごいな。親鳥はちゃんと見守っていた。
そう思いつつ、そっと気配を消して箱だけ置き、その場を離れた。
 
次に見に行った時も、雛鳥はまだ飛べずにいた。
親たちは、しっかりと近くで見守っている。
私が近づくと、またしてもピピピピと警戒音を出す。
 
そして、近くの電柱には早々とカラスが雛鳥をねらっていた。
せめて、カラスだけでもよけてあげたい。
カラスを追い払う。
 
そうこうして、4,5回ほど見に行っただろうか。
無事スズメの雛鳥はいなくなっていた。
私の作った、小さな箱だけが階段のスミに残っていた。
 
念のため階段の外側も見てみる。
落ちてない。ほっとした。
 
その時、目の前の階段の手すりにスズメが一匹やってきた。
なにか言いたげに、ピピピピ、とさえずって私に訴えている。
しかし、明らかに先ほどの警戒音と音色がちがっていた。
いや、そう聞こえた。
 
まるで、無事飛べましたと報告しているような姿。
心があたたかくなった。
 
もちろん、スズメの真意はわからない。
ただ、長く自然を相手にしてきた祖母の教えは正しかった。
自然と人との共存と境界線を、代々と受け継いできたのだろう。
私の身体のどこかにも、その教えは繋がれてきている。
その繋がりが、なんだか誇らしくうれしかった。
 
雛鳥が落ちてきても情けは禁物。
人にできるのは、見守ること。
できるのは猫やカラスをよけてあげることくらい。
死んでしまった時はその子の寿命と受け止める。
 
頭の中で、1人また反復した。
 
ああ あの雛鳥は元気に空を飛びまわっているだろうか。
そうだ! 物語の世界で言えば、小さな葛篭が家の前に置かれるはず。
いやいや、私は見守るだけで何もしていなかった。
恩返しはないな。一人、笑ってしまう。
 
それでも、祖母の言葉を久しぶりに聞いたような気がした。
そんな台風の朝の出来事だった。
 
 
 
 
***
 
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2019-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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