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週刊READING LIFE vol,114

「営業」という仕事が持つ本当の意味を知れば、あなたは営業が好きになる《週刊READING LIFE vol.114「この記事を読むと、あなたは〇〇を好きになる!」》


2021/02/08/公開
記事:佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私は売れない営業マンだった。
 
これは今から20年近く前の話しになる。当時私は新卒で総合人材サービスを提供する会社に入社していた。
 
私は大学生の時に親が自己破産をしたため、ある日突然学費も生活費もすべて自分で稼がなければいけない苦学生になった。
大学は私立理系だったので単位を取るためには授業に必ず出席しなくてはならず、9時から18時までは大学にいなければならなかった。
そしてその他の時間を全てアルバイトに費やすという生活を送っていた。
 
授業が終わると急いで大学を出て、夜間の警備員をするためアルバイト先に向かった。そして19時30分から翌朝の8時まで警備の仕事をして、そのまま大学に戻って9時から授業を受けた。授業が終われば今度は居酒屋のアルバイトで深夜0時まで仕事。そして家に帰り翌朝は4時半に起きて5時の山手線に乗り東京駅に向かいキヨスクで販売の仕事をした。そして8時になったら大学に向かい9時から授業を受けて18時になったらまた夜間の警備員の仕事に向かう。このサイクルを平日はほぼ毎日繰り返していた。
そして土日はさらに日雇いの仕事などを入れてお金を稼いでいた。
 
こうして大学に行きながら毎月25万円前後稼いでいた。しかし東京での一人暮らしでは生活費で12~15万円が消え、残りは翌年の学費に充てるため貯金したので、生活は困窮していた。
 
そのため私は就職活動が始まると「将来絶対にお金で苦労したくない。そのためには起業して自分でお金を作り出せる人間になりたい」と考え、起業するための力を身に着けることができる会社に行こうと、ベンチャー企業の営業職を探した。ベンチャー企業であれば早くから大きな仕事を任せてもらえビジネス経験を積める可能性があること、また自分が起業した時に自社の商品やサービスを売るために営業力を身に着けたいと考えたからだ。
 
そして当時急成長していた人材総合サービスのインテリジェンスという会社に入社を決めた。この会社はサイバーエージェントの藤田社長が新卒で入社した会社で、他にもインテリジェンスを経て独立した人が数多くいたので、この会社であれば起業するための経験を積めるのではないかと考えたのだ。
 
そんな決意をもって入社したにも関わらず、私は配属された部署で同期の中で最も売れない営業マンになっていた。

 

 

 

自分でいうのも恥ずかしいが、私はそこそこ愛嬌もあり、コミュニケーション能力は高いほうだと思っていた。ところが同期がどんどん初受注を上げていく中、私だけが売れる気配がなく焦りは増すばかりだった
 
当時私はアルバイトの求人広告の営業を行っていた。今ではアルバイトを探すのにネットやスマホで検索するのは当たり前となっているが、当時はまだ本屋やコンビニで求人情報誌を購入する時代だった。ようやくフリーペーパーが出始めてユーザーがお金を払わずにアルバイトを探せるようになってきていたが、インターネットで検索するサービスはまだほとんどなかった。
 
その時代にインテリジェンスは「アルバイトをインターネットで探す時代が来る」と他社に先駆けインターネットの求人広告サイトを立ち上げ販売を行っていた。
 
ところが営業先になる飲食店や小売業、塾などの業界では、お客様がまだ自社のビジネスにインターネットをほとんど活用できておらず、まだスマートフォンも出る前の時代なので店長さんもほぼガラケーでネットを使って調べ物をすることに不慣れだった。
 
そのためインターネットや携帯電話で情報検索する方法からお客様に説明し、またWEB広告ならではの閲覧数や応募率と言った仕組みもゼロから伝える必要があった。
 
当時私も必死でWEBの知識を身に着け営業を行ったが、お客様からは「考えておくね」「今回は紙の媒体で求人かけることにしたから」と断られ続け、私は「この商品がダメなんじゃないの?」と売れない理由を商品のせいにするほど、売れなかったのだ。

 

 

 

そんな私に転機が訪れた。
翌日に訪問するお客様への提案準備をしているときに、先輩にどうしたら売れるかを相談した。
先輩から「明日お客様にはどんな提案しに行くの?」と聞かれた。
私は「商品説明とWEBと紙の媒体の違いから説明しようと思います」と答えた。
「いや、そうじゃなくて。お客様に何を提案するつもりなの?」と先輩から再度言われ私は言葉を詰まらせた。
インターネットと紙の媒体で仕組みが違うことを説明し、商品を案内することが提案だと考えていたのに、先輩からは違うと言われたのだ。
 
言葉に詰まる私を見て先輩は「おまえが言ったのは単なる商品説明であって、提案ではないんだよ。提案っていうのはお役様の課題に対して解決策を提示することを言うんだ。お客様の課題は何なの? なんで今回求人をかけようと考えているの? これまでも他の求人媒体でアルバイトの募集をかけていたはずなのに、今回うちの話しを聞きたいと思っている理由は何なの?」と聞かれたときに私は初めてお客様がなぜ自分にアポイントをくれたのか理由が分かった。
 
お客様は困っているのだ。
 
お店を経営していくのに、アルバイトスタッフがいないと運営することが出来ない。そのため人を募集したいのだが、これまでの方法ではうまく集めることが出来なくなっているから、他の手法を検討したくて私のアポイントを受けてくれたのだ。そこには既存の方法がうまくいかない原因があり課題があるはずである。それについて私は全く知らないことに初めて気がついた。
 
そして先輩から「俺たちの仕事はお客様が叶えたい理想に対して自社の商品を使って解決してあげることが仕事なんだよ。たんに商品の説明を行うだけだったらわざわざ俺達が行く必要なんてないよね」と言われ、私は営業という仕事の本質が初めて見えた気がした。

 

 

 

お客様の課題を解決していく営業スタイルのことを「ソリューション型営業」と言った。お客様の叶えたい理想の状態を聞き、その状態になっていない本質的な理由を見つけ、その課題を解決するための方法を提案する営業手法である。
 
私はこの話しを聞いてから、お客様と話す内容が一変した。
とにかくお客様が抱えている課題が何かを聞き出す努力をするようになったのだ。
そしてさらに営業の極意を先輩から教えてもらった。
 
それが「ファクト・ファインディング(fact-finding)」という技術だ。
これはお客様自身も気づいていない課題を見つけていく技術である。
 
例えるなら名探偵シャーロックホームズが事件現場の少ない手がかりの中から事件解決の糸口を見つけていくプロセスに似ている。
 
ホームズが名探偵である理由は他の誰もが気づかなかった手がかりに気が付き、そこから事件の流れを読み解き、どういう経緯でこの事件が起こったかを推理する能力が長けているから、事件を解決することが出来るのである。
 
ファクト・ファインディングもこれに似ている。
お客様と話す中で、現在理想の状況になっていない様々な情報に気を配り、課題を推理していく。立地はどうなのか? 近くに競合となるお店はあるのか? 他店との条件の違いはあるのか? 働く上でのメリットは明確になっているのか? 媒体選びは間違っていないか? など、様々な観点で情報を収集し分析をしていくのである。
 
そして集めた情報から仮説を立て、それを相手に質問するのである。
すると仮説だけでは説明できない理由がさらに浮彫りとなり、これまで気づかなかった新たな課題を見つけることが出来るのである。
この仮説を立てて新たな事実を見つけていく作業が「ファクト・ファインディング」である。そして課題解決までの道筋が見えたら、その解決策を自社の商品を使ってプランニングし、それをお客様に提案することが「ソリューション型営業」なのだ。
 
まさに名探偵が自分の推理力を使って事件を解決するのに似た面白さがこの営業スタイルにはあり、私はソリューション型営業にハマっていった。
 
そしてこの営業スタイルに変えてから私は自分の営業成績を急激に伸ばしていくことが出来るようになっていった。

 

 

 

こうして私は営業の仕事が好きになった。
実際に私がお客様の課題を発見し、それに対して提案が完璧に合ったときにお客様から頂く感謝の言葉が本当に嬉しかった。自分が人の役に立っていると実感することが出来るようになると尚更お客様に提案することにやりがいを感じるようになっていった。
 
二年がたったころには私は売上も事業部でトップクラスになり、複数の大手のお客様を担当するようになっていた。その分、会社からの売上に対する期待も大きくなり、また自分も責任の大きさを感じるようになっていた。

 

 

 

ところが私の中で営業をする上でどうしても納得できないことが一つだけあった。
 
それが「営業目標」という言葉だった。
営業には「営業目標」というその会社の月の売上目標から各営業に割り振られた目標が課せられる。
 
この営業目標の大きさや、達成率が営業の評価になるのだが、私は自分の営業成績が上がり評価されるようになっても、この営業目標という言葉が好きになれなかった。
 
なぜなら、営業目標という言葉にどうしても「会社都合」の匂いを感じていたからだ。それが如実に現れるのが月末の追い込みである。
 
月末になると営業組織では今月の営業目標を達成できるか、できないかで会社全体がピリピリし始める。そして達成まであとわずかとなると、通常ではありえないような値引きが可能になり売上を上げようとするのだ。
 
ある月の営業最終日にこんなことが起こった。
私は自分が担当する全てのお客様に提案を終え、自分の目標は既に達成していた。しかし全体の目標にはあとわずかに足りなかったので、上司からオプションサービスを通常価格の半額にするから今から再度提案をしてきてほしいと依頼をされた。
 
しかし私はこれが気に入らなかった。既に私はお客様にベストだと思う提案を終えていたし、実際そのオプションサービスを定額で購入してくれているお客様もいた。
それなのに、月末だから、自社の売上があと少し足りないからという理由でお客様に半額で売るということが、私はお客様に不誠実な気がしたのだ。
 
私は上司に「私はこの提案はお客様にできません」と伝え、やりたくないと意思表示をした。それが私のお客様への誠意だと思った。
 
しかしその時に上司から言われた一言が私をさらに営業の奥深さに気づかせてくれた。
 
上司は私に「購入するかしないかを決めるのはお前なのか? お前はお客様のために仕事をしていると言ったが、じゃあお客様の役に立ったかどうかはどうやったらわかるんだ? 例えばお前と売上一位の田中を比べたときに、どちらのほうがお客様の役に立ったと言えるんだ?」と聞かれた。
さらに上司は「俺は売上というのはお客様に役に立つことが出来た度合いだと思っている。お客様に俺たちがどれだけ貢献することができたかを測る指標が最終的な売上として現れていると思っている。お前は値引きした商品をお客様に提案できないと言ったが、金額的な問題でオプションサービスを買うことが出来なかったお客様がいるかもしれない。もしかしたらこの金額なら買いたいと思うお客様がいるかもしれない。その機会をお前の判断で奪って、本当にお客様の役に立ったと言えるのか?」
 
そういわれたときに私は、お客様の役にたつということと、会社の売上との関係性が初めてつながったような気がした。
私はこの経験から「お客様への貢献の総和=会社の売上」であることを意識することが出来るようになり、あらためて営業という仕事の奥深さを理解することができるようになった。

 

 

 

一般的に「営業」を苦手としている人は多い。
 
しかしそれは、実は自分都合でお客様に商品を売らなければいけないと考えているからかもしれない。売ることを目的にしてしまうと、営業は途端に面白くなくなってしまうのだ。
 
そうではなく、
「どうしたらお客様の課題を解決してあげることができるのか?」
「どうしたら喜んでもらうことが出来るのか?」
「それを自社のサービスで解決してあげるにはどうしたらいいのか?」
このマインドセットをしてからでないと営業は苦痛を伴う仕事になってしまう。
 
そして、お客様の真のニーズを叶えるお手伝いをすることが出来た総量が結果的に私たちの売上になることを理解できたときに、あなたはきっと営業の仕事が面白いと感じるに違いない。
 
ぜひあなたが行っている仕事でお客様の課題を解決してあげることを考えてみてほしい。きっとあなたは仕事にやりがいを感じ、営業することが好きになるに違いない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

静岡県生まれ。鎌倉市在住。
大手人材ビジネス会社でマネジメントの仕事に就いた後、独立起業。しかし大失敗し無一文に。その後友人から誘われた障害者支援の仕事をする中で、今の社会にある不平等さに疑問を持ち、自ら「日本の障害者雇用の成功モデルを作る」ために特例子会社に転職。350名以上の障害者の雇用を創出する中でマネジメント手法の開発やテクノロジーを使った仕事の創出を行う。現在は企業に対して障害者雇用のコンサルティングや講演を行いながらコーチとして個人の自己変革のためにコーチングを行っている。

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2021-02-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol,114

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