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週刊READING LIFE vol,114

ぼっちの時間でリア充になれるらしいよ《週刊READING LIFE vol.114「この記事を読むと、あなたは〇〇を好きになる!」》

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2021/02/08/公開
記事:森本雄大(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「なんだよまたか……」
 
街の人達から、そんな声が聞こえてくるような気がした。
先日、二度目となる緊急事態宣言が発令されたからだ。
 
また色々な楽しみに制限がかかってしまう。
友達と遊ぶことも、カラオケも飲み会も思うようにできない。
 
街の雰囲気も、何だかよどんでいるように感じた。
 
コロナが蔓延してから、幸か不幸か一人の時間が以前より増えた。
皆はこの時間を、どうやって過ごしているんだろう。
 
一人の時間を楽しんでいる人もいれば、「寂しい」「不安だ」と感じている人も少なくないんじゃないだろうか。
 
前々から思っていたが、一人でいるのが「寂しい」「不安だ」と感じるのは、個人のとらえ方のせいだけじゃないと感じることがある。

 

 

 

「あいつまた一人で飯食ってるよ」
 
「友達いないんじゃね?」
 
学生の頃のクラスなんかでは、そういった話題が良く飛び交った。
 
「ぼっち」という言葉があるように、世の中は一人でいる人に冷ややかな見方をしている気がする。
ご飯を食べるときは大勢で食べる。どこかに行くときも友達と行く。
そういった風潮ができあがっていて、個人で行動しづらい雰囲気がある。
 
社会全体の価値観としても、「家族こそ幸せ」「人といることが幸せ」といったような価値観が根付いていて、それが人の価値観に深く刷り込まれている。
 
そういった中でずっと過ごしてきたのだから、一人の時間がつらくなってしまっても仕方がないと思える。
 
けれども、本当に一人でいることはただ寂しいものなんだろうか。

 

 

 

「一人でいるのが寂しい。なんで自分だけ……」
 
僕は6歳のころから母子家庭で、兄弟もいない。
ずっと母親と二人で暮らすのが当たり前で、友達が両親や兄弟とにぎやかに暮らすのがうらやましくて仕方がなかった。
 
かくいう自分も、ずっと人とのつながりに飢えてきたんだと思う。
 
小学校の頃友達の家に行くと、暖かさと同時に、言い表しようのない劣等感に支配されそうになった。遊んでいたいけど、それ以上にここから消えてしまいたい。
 
自分はなんてちっぽけな人間なんだろうって。
それくらい、孤独でいることが怖かった。孤独ではいけないと思っていた。
 
それでも割とマイペースに育ってきたから、集団にいるのは決して得意じゃなかった。
友達グループや部活では、割と空気の読めない行動を繰り返してきたと思う。
 
人と一緒に居たいと思う反面、それに適さない自分。
どうすればいいのか自分で分からなかった。
 
けれども、一人の時間にも意味はあるんじゃないかって。
年を重ねるごとに気づいてきた。
 
人と一緒にいるから幸せ。
人と娯楽を共有するから、楽しい。
 
そういうことも確かにあるけど、人の幸せってそれだけじゃないはずだ。
 
「自分にとって一番大事なこと」が分かれば、それを軸にして幸せを求めていくことができる。
本当に大事なことが分かっていないから、人といることでそれを埋めようとしているんじゃないか。ふとした時にそう思った。
 
「じゃあ自分にとって本当に大事なことは何か?」
 
終わりのない宝探しみたいに、ずっともがいてる。
だからかこの前、偶然動画を見た時、心を射抜かれたような気がした。
 
youtubeで見つけた、一本の動画。
 
それはある大学の授業の話だった。
その大学の先生は、決まって授業でこんな話をするそうだ。
 
今でも頭から離れない。先生の話を思い出すとこうだ。
 
ざわつく教室の中、先生が教壇に大きな壺を置く。
生徒が静かになると、先生はおもむろに岩を取り出し、壺の中に放り込む。
そして次に小石をザラザラと入れていった。
 
先生は言った。
 
「まだ壺には何か入ると思う?」
 
パンパンになった壺。それを見て生徒は答える。
 
「もう入らないと思います」
 
けれども先生は笑って砂を取り出し、壺に入れていく。
面白いように壺に砂は吸い込まれ、壺の底に溜まる。
 
「まだ入ると思うかな?」
 
壺は見るからに満杯だ。なんかよくわからないアート作品みたいになっている。
 
「いえ、流石にもう入りません」
 
学生が流石にもうないだろうと思うと、先生はペットボトルを取り出し、
壺に水を入れ始めた。砂に水は吸い込まれていき、遂に壺は満たされた……。
 
僕はその動画を見た時、ただ素直にこう思った。
 
「なんだ、詰め込めばいけるもんだな」って。
 
けれどもそのあとの説明を聞いて、ぐっと心臓をわしづかみにされたような気持ちになった。
 
先生は静かに続ける。
 
「この話の大事なところは、詰め込めば入る。って事じゃないんだよね。本当に大事なのは、一番最初の大きな岩は、絶対に一番最初にしか入らない。ってことなんだよ」
 
ドクン……
 
核心を突かれた。
自分は今まで、決して埋めきれないものを、娯楽だったり、人とのつながりの中で得ようとしていたんじゃないかって、その時思ったからだ。
 
お金や生活を考えて、仕事をする。
 
本当にやりたいことを埋め尽くすように、家族の形だけを追い求めて、娯楽や発見を楽しむ。
そういったことを繰り返すうちに、その生活に満足しかけていた。
 
社会人になって仕事に行くと、朝から晩まで考える暇がないほど忙しい。
その中でお客さんと接したり、受注が決まったりして達成感を感じることもある。
 
週末になれば酒を飲んで、休みになれば趣味をして、友達と笑った。
どこかモヤモヤしながら、そんな日常も悪くないと思っていた。
 
でもそんな中、「自分の本当に向いてること、やりたいことって何だろう」って考えることもあった。でもそれから、目を背けていた。
 
だからこそ思った。
 
「自分は小石や砂を詰め込むことで、自分の人生に満足しようとしてないか?」って。
 
コロナでプライベートに制約ができて、一人の時間が増えたからこそ、一層強く感じるようになった。
 
本当に自分が入れたい岩は一体何なのか。
入れ替えるには、今しかないんじゃないかって。
 
それに気づけたのが、一人の時間だった。

 

 

 

それから僕は書くことを始めたり、色々な可能性を模索するようになった。
まだ答えにはたどり着けていないけれど、少しづつ前に進んでいる。
 
一人だからこそ、見える世界がある。
 
そうは言っても、一人でいる必要なんてあるんだろうか。人といたって見つかるんじゃないか。
そう思うかもしれない。
 
でも、やはり一人の時間だからこそ見つかることがあると僕は思う。
 
まず一つの理由は、人といるとどうしても、人の価値観にある程度左右されてしまうからだ。「人がこう言っているから」だったり「世間的にこっちが正しそうだから」とか、色んな価値観が入ってくる。強い芯がまだない自分にとって、それは自分を見失うことにもつながっていた。
 
それに何より大きいのは「役割を手放せる」ことだった。
職場では仕事の責任があるし、そこでの自分がいる。家族では家族の中の自分。
友達といるときだって友達との自分がいる。
 
役割があるのは嬉しいことだけど、役割の中だと僕は手放すのが怖くなる。
お金だったり、将来だったり、付き合いだったり。
役割の中にいると、役割の範囲でしか考えられなくなって保守的になる。
 
そういったものを全部手放して、本当にフラットな自分と向き合えるのって、
一人の時間なんじゃないかって思った。
 
自分にとって本当に大事なことを見つけるには、一人の時間が必要かもしれない。
 
「形だけのリア充より、本当に満たされた自分でいたい」
 
そう思えたのは大きかった。

 

 

 

一人の時間は大切だし、ちゃんと楽しめる時間になる。
 
けれども一人の魅力があると言っても、世の中の視線は冷たい。
特に学生なんて、そうじゃないだろうか。
 
「あいつ、付き合い悪いから」
 
学生の友人関係で良く聞く言葉だ。
そう言って、ノリの良さを重視して関係から弾いたり、無理な付き合いを生んだりする。
 
僕は正直言って、その言葉が嫌いだ。
 
そもそも人とのつながりってなんなんだ。
 
呼ばれたらフットワーク良く顔を出すことなのか?
悪く言われるかもしれないけど、僕は決してそうは思わない。
 
本当の意味で人と向き合っていれば、しばらく会わなくても人は離れないと思うから。
 
「付き合いが悪くて」自分から離れてしまった人たちは、僕が本当の意味でその人と向き合うことができなかったからだと思う。付き合いの意味を考えないといけない。
 
実際僕には、生涯大事にしたいと思う友達がいる。
そういう人たちに共通するのは、どんな時も自分と向き合ってくれたことだった。
 
高校時代の親友は、僕が本当につらい時に支えてくれた。
部活で全く結果が出ず落ち込んでいた時、僕は彼にこう言った。
 
「いくら頑張っても誰も見てないし、試合にも出れない。もうやる意味が分からない」
 
自暴自棄になって、全てを投げ出したいと思った。
 
けれどもその時、彼がかけてくれた言葉を僕は一生忘れない。
彼はぶっきらぼうにこう言った。
 
「俺が見てるから大丈夫だ」
 
不器用ながらに大きな背中。
この時、こいつは生涯かけて大事にしようって思った。
どんな立場の人にも、まっすぐな暖かさを持ってる奴だった。
 
価値観が本当にぴったり合って、昔からずっと仲がいい友達だっている。
 
大学には、僕の悩みを授業を抜けてまで真剣に聞いてくれる友達もいた。
 
そういう中で共通するのは、皆自分を大事にして付き合っているってこと。
「自分はこうありたい!」っていうのをしっかり持って、相手のことを考えながら
ありのままの自分で付き合う。
 
無理に合わせたって、良いことは一つもない。
 
人と付き合う上で葛藤は避けられないけれど、そこから逃げずに向き合っていけば
きっと自分も相手も大切にできるはずだ。
 
そして、自分を見つめる「一人の時間」も大事にできるんだと思う。

 

 

 

人といるのは楽しい。
喜びを共有したり、新しい発見があったり、支え合ったり。
 
人と過ごす時間は、かけがえのないものだ。
 
けれども一人だからこそ、見えることだってある。
だからこそ今、自分を見つめる時間を楽しんでほしいと思う。
 
自分だけの壺を満たすように、毎日色んな石や砂が降ってくる。
その中でも、本当に入れたい岩を見つけよう。
 
「本当のリア充って何だろう?」
 
一人の時間が、それを教えてくれる。
だから僕は今、全力でぼっちを楽しもうと思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
森本雄大(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)

千葉県在住。
社会人3年目を迎え、自分探し中の青年。
高校の部活での挫折体験から、大学では心理学部に進む。
等身大の自分を表現できる文章に魅力を感じ、ライターズ倶楽部に入部。
「悩んでいるのは自分だけじゃない」と感じてもらえる文章を書くのが目標。

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2021-02-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol,114

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