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週刊READING LIFE vol,114

薔薇の香りをまとったあのお方《週刊READING LIFE vol.114「この記事を読むと、あなたは〇〇を好きになる!」》


2021/02/08/公開
記事:中川文香(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
今でも忘れない、あれは2015年の年末差し迫る頃だった。
 
私は、勤めて6年ほど経った会社を辞めようか考え始めていた。
当時はシステムエンジニアとして働いており、平日は毎日仕事に追われ、土日は泥のように眠って体力を回復する、という生活を送っていた。
20代も後半に差し掛かってきた頃、連日の残業に体力の限界を感じ始めていた。
加えて人間関係にも様々な障壁が出てきていて、仕事もプライベートもまさに八方ふさがりの状態だった。
 
でも、転職しようといったって、次に何をしたらいいか分からない。
 
「どうしよう」
「今日は疲れたし、とりあえず休んでから考えようかな」
「また寝てしまった……自分のことなんだからちゃんと考えなきゃ」
 
というのを繰り返し、上手くいかない毎日に鬱々としていた。
その頃の私は、ネットサーフィンをして色々な人の格言や名言を読み漁ってはノートに書き留める、ということをしていた。
一種の現実逃避で、私のストレス解消法の一つだ。
けれど、実際に様々な良い言葉に触れることで気持ちが少し前向きになるような感じがあった。
か細い糸を手繰り寄せてこれから先のヒントになるような言葉を探すような、そんな作業だった。
 
いつものようにポチポチとページからページへと渡り歩いていた私の目に、ある言葉が飛び込んでくる。
 
「たとえ100万人が楽しそうにしていたとしても、そこに楽しめるものがない『この世にたった一人のあなた』は、無理に笑うことはありません」
 
ティファニーブルーの表紙に、一輪のバラ。
そこにこの言葉が書かれていた。
発売日はもうすぐだ。
良い言葉に触れたい中毒になっていた私は、迷わずポチリと購入ボタンを押した。
 
数週間後に届いたのは叶恭子さんの日めくりカレンダーだった。
 
それまでの叶恭子さんの、というより叶姉妹の私の中のイメージは、一にゴージャス、二にゴージャス、たまにテレビで見かけるタレントさん、みたいなものだった。
その程度だったので、日めくりカレンダーに載せるような言葉を発信しているなんて、私の脳内イメージの叶姉妹とはかけ離れていた。
早速、届いたカレンダーをめくってみる。
おお、やはりゴージャス。
けれど、美しい恭子さんのお写真と共に綴られる言葉は、想像に反して私の心にじんわりと染み入っていった。
「あれ? 恭子さんってこんな人だったのか」
それまで私が抱いていた恭子さんのイメージは、カレンダーを一枚めくるごとに新しく書き換えられていった。
そこに綴られていたのは、まさに恭子さんの生きる指針、哲学そのものだった。
ページをめくる。
ふと、手がとまる。
そこには、こんな言葉があった。
 
「変えられないことの一つは、自分の『宿命』変えられることの一つは、自分の『運命』 変えられないことに執着するのはエネルギーの無駄遣いです」
 
きっぱりと言い切られたその言葉を目にして、頭をガンと殴られたような衝撃が走った。
 
変えられないことに執着するのはエネルギーの無駄遣い。
確かにそうだ。
 
当時、人間関係に悩んでいた私は、この言葉にものすごく救われた。
自分の思った通りに動かない他人にイライラしてもしょうがない。
他人を変えるという私の考え方がそもそも間違っていたのかもしれない。
人は人。
自分は自分。
変えられることが出来るのは自分だけだ。
変えられないことに執着するのは止めよう。
 
結果的に、そのカレンダーの言葉に背中を押されるようにして、私は転職するために本格的に動き始めた。

 

 

 

それから約一年後、私は転職した。
知人から誘いを受け、その会社にお世話になることになったのだ。
新しい場所での新しい生活が始まった。
加えて、次の仕事はそれまでとは業種も職種も異なる、私にとって全く新しい挑戦だった。
でも、その道に進むと最後に決めたのは自分だ。
 
やるしかない。
 
その思いだけを胸に、ひたすら前だけ見て走っていた。
迷いは無かった。
けれど、怖かったのは事実だった。
 
会社側は受け入れてはくれたけれど、果たして自分がどこまでやれるだろうか。
本当に、役に立つことが出来るのか。
仕事を上手く軌道に乗せることが出来るのだろうか。
私は、ちゃんと頑張れるだろうか。
 
転職する前とはまた違う、新しい不安に押しつぶされそうになりながらも、ただ必死で目の前の業務をこなす毎日が続いた。
 
恭子さんのカレンダーは一年前から変わらず、部屋の片隅から私にエールを送ってくれていた。
 
新しいことをはじめると、分からないことばかりだ。
 
システムエンジニアだった頃は、基本的に仕事は上司の指示の元動いていた。
その環境から180度変わり、新しい職場では自分が人に指示する立場になった。
アルバイトさんやパートさんを取りまとめるポジションだ。
自分も入社して間もないとはいえ、「分からないから出来ない」なんてことが許されない立場だと思った。
分からないことは調べ、人に聞き、とりあえず体当たりでやってみてはいたけれど、やってもやっても私につきまとう不安は決して消えなかった。
 
「本当に自分が進んでいる方向がこれで合っているのだろうか?」
「もう少し良いやり方があるのではないだろうか?」
「みんなこれでついてきてくれるだろうか?」
自問自答しながら、文字通り、三歩進んでは二歩下がるような日々を送っていた。
 
ぎりぎりの毎日で、次第に睡眠時間が減り、食事もおろそかになってきた。
忙しさに任せていると気付けば夕方なんてことがザラにあり、食事の時間なんてめちゃくちゃで食べずに過ごすことも多かった。
毎日深夜まで仕事をして、家に帰ると買ってきた弁当を食べ、お風呂に入って倒れるように眠った。
朝、目覚ましの音が鳴るのが恐怖だった。
不思議と寝坊することは無く起きていたけれど、当時使っていたアラームの音を聞くと今でも心がざわざわする。
まるで溺れる寸前で、「なんとか泳がなきゃ」と力いっぱい手足をばたつかせ、浮き上がるのに必死だった。
 
そんな時、叶姉妹がLINEブログをやっていることを知り、公式アカウントを探し出してフォローした。
 
フォローをしたその日の朝、一通のメッセージが届いた。
 
「プレシャス・モーニング」
 
その言葉に添えられて、美しいバラの写真。
次の日の朝も、その次の朝も、同じようにその言葉と、また違ったバラの写真が送られてきた。
 
その言葉と美しいバラの写真を見ることだけが、私の憂鬱な朝の救いになった。
 
日中もいくつかLINEブログの更新のお知らせが届く。
もちろん、リアルタイムでは見られないのだけれど、束の間の昼食時や家に帰ってからのほっとできる時間にそのブログを眺めることが、私の癒しになっていた。
ブログの内容は、日めくりカレンダーにあるような恭子さんの考え方が載せられていた。
どれも恭子さんが生きていく上での確固たる信念のようなものが感じられる言葉だ。
それに加えて、美香さんのバスタイムの写真、食べたものや毎日行っている叶姉妹流のストレッチなど普通のブログに載せられるような、ただし叶姉妹流のゴージャスな日常が綴られていた。
バスタイムの写真など、ほぼほぼ裸の美香さんが映っているので、食事中にうっかり開いてしまうと周囲の人から見られていないかドキドキしてしまう。
ただ、そこにあるのはエロスでは無いのだ。
いや、エロスもあるかもしれないけれど、それを上回る美しさがあるのだ。
アート、と言った方が正確かもしれない。
ものすごく露出したドレスを着てにっこりと笑っているお二人の写真からは、むしろ輝くばかりの美しさが溢れ出ていた。
 
この方たちは、お二人なりの基準で物事を見てお二人なりの愛をこのブログで届けているのだ。
仕事に塗り固められた日々の隙間でブログを見ているうちに、私はすっかり恭子さんだけでなく叶姉妹のファンになってしまっていた。

 

 

 

結果的に、ハードワークがたたって体を壊してしまい、転職先は半年ほどで辞める結果になってしまった。
辞める時、本当に申し訳ないと頭を下げる私に、知人も社長も「良く頑張ってくれた」と声をかけてくれた。
スタッフもみんな本当に優しくていい方たちばかりだったのに、それを信頼して任せることが出来なかった自分のせいだと思った。
もしも今、あの時がむしゃらに泳いでいた自分に声をかけてあげられるとしたら「少し力を抜いてみたら、体は自然に浮くんだよ」と教えてあげたい。
その時は、変えられるはずの自分の考えを固持してしまって、変わることが出来なかった。
でも、これからは、恭子さんの教えのように、変えられる自分を柔軟に変えていこう。
そう自分に誓った。
再スタートは今からだって、いつからだってきることが出来るから。

 

 

 

あれから、もう四年経つ。
叶姉妹のLINEアカウントは今もフォローしている。
いっぱいいっぱいだったあの頃の私の心を支えていたのは、間違いなくあのLINEブログだった。
忙しい毎日の中にぽっと灯りのともるような時間を私に与えてくれたあのブログ。
美しいということは、人の心の支えになるのだということを、言葉と写真で教えてくれた。
 
今も、毎日朝の挨拶に添えられて美しいバラの写真が届く。
その美しさに染められて「今日もがんばろう」と思える。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
中川 文香(READING LIFE編集部公認ライター)

鹿児島県生まれ。
進学で宮崎県、就職で福岡県に住み、システムエンジニアとして働く間に九州各県を出張してまわる。
2017年Uターン。2020年再度福岡へ。
あたたかい土地柄と各地の方言にほっとする九州好き。

Uターン後、地元コミュニティFM局でのパーソナリティー、地域情報発信の記事執筆などの活動を経て、まちづくりに興味を持つようになる。
NLP(神経言語プログラミング)勉強中。
NLPマスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー。

興味のある分野は まちづくり・心理学。

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2021-02-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol,114

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