“おせったい”は心も手渡すことだった
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:緒方愛実(ライティング・ゼミ特講)
「これ、誕生日プレゼント!」
「え、ありがとう! 気を使わなくていいのに」
いいんだよ、と私は友人に笑った。
私は、人に贈り物をすることが好きだ。
相手の好きな物、興味があるもの、欲しがっていた物を、頭の中にリストアップしその中から、最適なプレゼントを選ぶ。
包みを開けた時の、相手のパッと明るくなる表情を見るととてもうれしくなる。トランプの絵合わせゲームで、当たりを引き当てたような、快感もある。
プレゼントを買いに行く時も、ちょっとした宝探しの様な感覚が楽しくもあった。
だが、たまにむなしくなることもあった。
それは、相手の反応がなかった時だ。
私の誕生日や、相手が旅行に行った後に会った時に何の返しもない。
私だったら、友人の誕生日の時は事前に調べて準備するし、旅行に行ったらお土産を買ってくるだろう。
あげるかどうかは個人の自由だ。忙しくて念頭になかったかもしれないし、そういった習慣がそもそもなかったのかもしれない。
友人と私は違うのだ。仕方がないことだ。
でもたまに、「私だったら……」と頭をかすめてしまう。
何でもいい、高い物が欲しいのではない。ただ、私の思いへのフィードバックが欲しいだけなのだ。
先日、香川県に住む友人と会った。
彼は気さくでとてもまめな人だ。以前、友人たちと香川県を訪ねた時は、とてもお世話になった。飲み屋の選定から、観光の手配まで、何から何まで下準備を入念にしてくれていた。まさに至れり尽くせり! 彼のおもてなしの心に、みんな感動しっぱなしだった。
久しぶりに会った彼と、ボランティア活動について話をした。
私と彼は同じボランティア団体に所属し、福岡県と香川県でそれぞれ若手のグループのリーダーをしている。
活動自体はとても楽しく、やりがいがある。
だが、年長者に理解されず上手く身動きがとれなくなることがあったりと、色々と苦労は絶えない。一番の悩みは、後継者だ。なかなか新規の若手メンバーが増えない。自分の行動は正しいのか、このまま続けてもいいのか、試行錯誤の日々だ。
自分の行動へのフィードバックが目に見えない。それはやはり苦しいことだ。
「Aさん、私はたまにむなしくなることがありますよ。応えてくれる人はいないのではないかって、悲しくなります」
そう、ついぼやいてしまった。
すると、Aさんは私に向き直った。
「“おせったい”、という言葉を知ってる?」
私はうなずいた。
“おせったい”とは、香川県の風習だ。訪れた客人を、自宅などに招き入れ、主に食事を振る舞ってもてなすこと。それはもう、テーブルに載らないくらいのすばらしい料理が出て来て、お腹がはちきれそうになるくらいのおもてなしを受けるのだと、テレビ番組で見たことがある。
にっこりとAさんが笑う。
「じゃあ、“おせっかい”と“おせったい”の違いは何だと思う?」
私は首をひねった。
突然の質問に頭が回らない。どちらも人に何かを与えたり、行動を起こすことだ。ニュアンス的に“おせっかい”の方が、マイナスに思えるが、明確な違いが説明できない。
唸る私を見て、Aさんはにこにことしている。私は、ギブアップの気持ちを込めて、Aさんを見た。
「答えはね、どちらが主体か、ということだよ」
「主体?」
私は、さらに首を傾げる。
「“おせっかい”は自分のために相手にすること。してやってる、というとても自分本位な気持ち。でも、“おせったい”は、相手のためにする、相手本位の気持ち。受けた相手が心地よい、と感じたらそれは“おせったい”なんだよ」
なるほど、と思った。
こんなにしてやってるのに、と自分本位の気持ちを押し付ける。私は無意識に、相手の気持ちも考えず、自分のことばかりが頭で一杯になって、勝手に悩んで、悲しんでいたのだ。それは、おもてなしではない。とても自分本位の考えだったのだ。
与えた瞬間、それは私の手を離れ、相手の物になっていたのだ。その後、相手が心地よい、うれしいと感じたら、おもてなしになる。フィードバックが返って来るかどうかはわからない。でも、もしも相手からアクションが返って来たら、それは“おせったい”が成功したことになる。まったく同じ返しを期待せず、感謝されただけでも、それはすばらしいことなのだ。
相手に渡した時、私は心も手放していなければならなかったのだ。
そう考えると、ストンと肩の力が抜けた。
「でも、僕はね、僕のすべてのアクションが“おせったい”だと思っているよ。だって、そういうスタンスでやっている自信があるからね!」
力を抜いて僕らも楽しくやって行こうよ、と晴れやかな顔でAさんは笑った。
その言葉に、私も笑顔でうなずいた。
努力したことや、差し出した物にフィードバックが欲しいと思うのは、人として当然の心理だと思う。客観的な評価があるからこそ、自分の行動の意味を見出して、次の行動へのモチベーションになる。
だが、それを押し付けるのはしんどいことだ。相手にも、自分にも。
どうか、真剣になり過ぎないで。
手渡した瞬間に、あなたの気持ちも相手に渡っている。
応えてくれるのは全員ではないかもしれない。
フィードバックがあるのは、今すぐではなく、ずっと後かもしれない。
それでも、きちんとあなたの心は届いている。
「ありがとう」の一言がもらえただけでも、うれしいことだと大事に受け止めて。
与えすぎても、欲しがり過ぎてもいけない。
おもてなしは、さりげなく、穏やかな心で。
“おせっかい”の気持ちは捨ててしまおう。
肩ひじ張らずに、笑顔で、自信を持って手渡して。
“おせったい”は、相手もあなたも心地よく。
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