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私が寄付をする理由


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記事:近藤 泰志(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
資産の少しをどこかに寄付しようと思い、数ヶ月前から某NPO法人に寄付をしている。巷では命の次に大切だとも言われるお金を、親族でも友人でもない見ず知らずの誰かのために毎月寄付しているなんて自分の行動に我ながら驚いている。
 
私は子供のころからお金が大好きだった。ウルトラマンも仮面ライダーも好き。でもお金はもっと好きだった。先月逢った母親にもこう言われた。
 
「あんたは小さいころからお金が大好きだったから」
 
産みの親が言うのだから間違いない。私のお金好きは親も公認しているのだ。
 
そんなお金大好きな私が寄付をしている。これはもう自分史上最大の「ありえないこと」なのだ。どれくらいありえないことかと例えるならば、「本能寺の変」くらいありえないことだと思う。
 
本能寺の変の報せを受けた織田家の武将達はきっとこう思っただろう。
 
「信長様が討ち死に? 明智殿が謀反? ありえんことじゃ! 」
 
お金が大好きな私が寄付をしていることを友人、知人、親戚縁者が聞いたらきっと当時の織田家の武将達と同じような反応が返ってくるのではないだろうか。
 
「君が寄付? お金大好きなのに? ありえないでしょ! 」
 
きっとありえないことだと驚く。なぜなら私にとってお金は自分の身体の一部といってもおかしくない。他人に身体の一部を毎月無償で差し出すなんて誰が信じるだろう。
 
本能寺の変の真相はいまだに謎に包まれているけれど、私が寄付をする理由は私の中では明らかになっている。だって私が決めてやっていることだから。
 
私は自分がいなくなった後に、実は誰にも言わずに寄付をしていたと知ったらみんなはどう思うだとうかとふと想像することがある。
 
「お金大好きなんてケチな人だったけど寄付をしていたなんてね。心優しい人だったのね」
 
「口ではあんなことを言っていたけど寄付とは良い人じゃないか」
 
参列してくれた人が口々にそう話しながら私を偲んでは、ほんの少しだけ幸せな気持ちになって葬儀を後にしてくれるのを、お空の上から微笑んで眺めていたい。だから私は寄付をしようと思った。
 
違う。
 
そんなお褒めの言葉が欲しいのではない。そんなことを言うために来たのなら香典に包む金額のゼロの桁を一つ増やしてきてくれ。じゃなきゃ末代まで呪ってやる。
 
寄付なんて自分にはありえないことをしようと思った理由はこうだ。
 
残念だが、私もいつかこの世からおさらばする。その後のことは私もまだわからないけれど、まず冥界というところに連れていかれて、そこの責任者の閻魔大王にいろいろと審査されてから天国か地獄にいくらしい。
 
天国というところはいつもキラキラしていて、美味しいものや綺麗な景色が溢れていて、美男美女がわんさかいて、愛にあふれた幸せなところだと本やテレビで紹介していたのを何度も聞いている。
 
では、地獄はどうだろうか。
 
血の池があって、針の山があって、あちこちで山が燃えていて、鬼が理由もなく金棒で殴ってくるらしい。もうパワハラとか言っている場合じゃない。とにかく痛いわ、熱いわで、良いことなんて一つもない所だというのを京都市中京区の矢田寺の絵馬で見た。あの絵馬が事実なら地獄なんて日帰りでも行きたくない。
 
でも今までの私の人生を顧みればみるほど、天国行きにはなりそうにない。渡されるのは地獄行きの片道切符だろう。それもファーストクラスの。
 
しかし、それは以前の私であれば……の話なのだ。
冒頭にも書いたが私は毎月NPO法人に寄付をしている。
 
この寄付がきっと後々に効いてくると思うのだ。
 
冥界に行った私は閻魔様ときっとこんなやりとりをする。
 
「お前は生前、たくさん嘘をついて人を騙して悲しませてきた。お前のやってきたことは到底許されることではない! 何か弁解の言葉はあるか? 」
 
「おっしゃるとおりでございます。返す言葉もございません」
 
「ではお前を地獄送りにする。今までお前が悲しませた人たちの分まで苦しむがよいっ……と言いたいところだが、お前は寄付をして多くの子供達を救ってきた。本来なら針の山に送るところだが、もう少し軽い台湾足つぼマッサージ地獄送りにする。こやつを連れていけっ!」
 
「ありがとうございます」
 
私が寄付をする理由、それは最期の最期で自分が少しでも助かりたいからだ。
 
世のため人のためでもなんでもなくて死んだ後の自己保身も計算に入れて寄付をしているなんて我ながら情けなくなる。今のうちにどこかの教会で懺悔してきたほうがいいかもしれない。閻魔様は許してくれなくても牧師様ならきっと卑怯な私を許してくださるかもしれない。
 
この話を知人にしたらこう言われたことがある。
 
「そんなこと言っているけど、本当は困っている人たちの力になりたくて寄付を始めたのでしょ? わかっているよ」
 
そう言って、優しく微笑んだ知人に私は少し照れ笑いをしてこう答えた。
 
「野暮なことを言うものじゃないよ」
 
 
 
 
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2019-11-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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