私が台湾でゲーセンに行く理由
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記事:我愛葱油餅(ライティング・ゼミ 平日コース)
ガチャガチャとコントローラーを操作する音、ありとあらゆる電子音で話し声もまともに聞こえない。当時4、5歳の息子が大物を釣りあげようと躍起になっている。目の前に横たわるのは、水辺ではなく、大きな画面だ。画面にはデジタルな魚の群れと中国語の文字が見える。
「私は何故ここにいるのだ……」
何者も産み出さず、ひたすら消費するだけの場所。ゲームセンターに行くことはわたしにとって苦痛でしかない。魚が死んだような目で遠くにある仮面ライダーや悟空やピカチュウをぼんやり見つめる。イライラしないよう、とにかく思考をオフにしてやりすごす。そこそこの試練である。
しかし、息子にとってゲームセンターは、娯楽の場所であり、ストレス発散の場所だ。遊園地に行ってもジェットコースターやメーリーゴーランドといった乗り物にはほとんど乗らず、ゲームコーナーへ直行しようとする。
私は、20年ほど前から「チャイナウォッチャーであること」を勝手に人生の目標にしている。ここでいう「チャイナ」は中国本土だけでなく、香港、マカオ、さらに台湾、中華系が多い東南アジア、各地にあるチャイナタウンも一応範囲だ。年1回は「視察」と称して、必ずこれらのうちどこかへ行くようにしていて、息子が生まれてからは、ほぼ台湾だ。海外なのに気を張らずに済む上、授乳室やおむつが換えられる場所も多く、コンビニやドラッグストアも多い。大きな公園にはリスがいたりして楽しめるし、飲食店は子ども連れでも入りやすい。
初めて息子連れで台湾を訪れたのは、息子が2歳になる直前だった。何もかも目新しく、楽しかったようで、台北駅でベビーカーに乗り、目を輝かせている写真が残っている。しかし、4歳になったぐらいから、旅行中に激しく反抗するようになった。旅程に動物園や遊園地、水族館を組み込んだり、電車も好きなので、ローカル線に乗ったり、走り回れる大きな公園へ行ったりしてみたが、お気に召さないようで、とうとう「ゲーセンに連れて行け!」と怒り出した。
というわけで、私は台湾で、ゲームセンターに行くことになってしまった。
普段、息子のゲームセンターには夫が付き添う(夫は小学校に上がる前から一人でゲームセンターに通っていた筋金入りのゲーマーだ)が、台湾ではさすがに一緒に行くしかない。
台湾のゲームセンターは日本と全くといっていいほど同じだった。ゲーム機には、硬貨でそのまま遊べるタイプと、専用のコインを買って遊ぶタイプとがある。専用コインは、自動販売機で交換できる。機種もほとんど変わらない。日本のものの輸入だろう。中国語になっているものもあれば、飜訳されず、日本語のままのものもあった。
「何故ここにいるのだ」と思ったのも束の間、私のなかで何かが起こった。台湾に行き始めたばかりのころ、ふらりと入った書店の漫画コーナーで、伊藤潤二のホラー漫画『富江』の中国語版を見つけ、驚愕したことを思い出した。「こんなものまで普通に売っているの?」と。あのときの感覚だ。
台湾は「親日」と言われる。が、それは私の考える「親日」とは意味が違っているように感じている。台湾では日本のドラマやバラエティがほぼリアルタイムで普通に放映されている。日本のミュージシャンのCDも普通に売っている。台湾作家の漫画を買ってみたら「小さい頃はガッチャマンになりたかった」と書いてある……。「親日」というと「日本に親切」と捉えがちだが、そうではなく「子供の頃から日本のコンテンツに親しみまくっている」という意味で「親日」なのではないか。
「台湾の歴史を考えれば容易に想像がつく」とか「クールジャパンだから」とか言われそうだが、個人的にはそういう話ではないと思っている。すぐ近くの海外が日本のことをこれだけ知っているのに、私たちはどうか。無関心すぎやしないだろうか。昔よりは、頻繁にニュースなどでも取り上げられるようになったし、近年では人気の旅行先にもなっているが、「台湾のコンテンツ」と言われて、何を想起するだろう? タピオカドリンクや小籠包などのグルメが主で、もしかすると香港と間違って「飲茶」とか「ジャッキー・チェン」と言ってしまう人もいるかもしれない。台湾にもいいミュージシャンは当然いるし、いい映画も山のようにある。土地に根差した伝統芸能だってある。知らないのは本当に勿体無い。
という訳で、私のチャイナウォッチは続く。次回は来年2月に行く予定の台湾。ゲームセンターへ行くことは織り込み済みである。小学2年生になった息子によると、日本では終了となったムシキングのゲームマシンがまだ現役なので、「ブイガジェ」が使えるかどうか試してみたいそうだ。
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