65才になった父へのサプライズプレゼント『いいところ100』
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:カネマルチホ(ライティングゼミ平日コース)
「ねえ、父さんさ、来月65才の誕生日じゃん。ちょうどいい節目だし、ちょっとサプライズを考えてるんだけどさ……良かったらアンタにも協力してもらいたくて。」
「お、いいね。俺も金出すよ。」
恐る恐る弟に提案したが思いの外、感触がいい。表情は見えないが、弟が乗り気なのは電話越しにも伝わって来た。
「いや、私が考えてるのはね、お金では買えない、もっと価値のあるプレゼントだよ。私と母さんとアンタと3人でさ、そのプレゼントを贈りたいんだ。」
65才の誕生日がいい節目だと言ったが、本来なら60才が人生で大きな節目だろう。還暦祝いで、赤いちゃんちゃんこを着て、子供や孫、たくさんの家族に囲まれて祝福されるのが一般的なのではないだろうか。
だが、5年前、父の60才の誕生日。どんな誕生日だったかは正直覚えていない。5年前の我が家はハッキリ言ってグチャグチャだった。父と弟の親子の仲が悪かった。離れて暮らす弟はほとんど実家に寄り付かず、電話で話すこともなく、父と弟はほとんど冷戦状態だった。根が真面目な父と自由奔放な弟と、そもそも価値観が合わず、相性が悪かったのではないかと思う。そのことで父と母はよくケンカをしていたし、仲裁に入ろうとした私と父が掴み合いになったこともあった。それぐらいあの頃の我が家は荒れていた。
それがこの5年の月日で大きく変わっていった。何がきっかけでそうなったのかはわからないが、父の弟に対する態度や、弟の父に対する想いが大きく変わった。犬猿の仲だと思っていた父と弟の距離が少しずつ縮まっていて、お互いを許すような、お互いを認め合うような、それぞれが相手の方へ歩み寄っているのがなんとなく分かった。
「で、どんなプレゼント?」弟が聞いてきた。
「あのね、父さんの『いいところ100』を作りたいと思うんだ。父さんのいいところを100個書き出して、それを渡すの。私と母さんとアンタとで、それぞれ100個書いたものを渡したら、どうかなと思って。父さん今年で定年退職でしょ。仕事を辞めたらぽっかり穴が開いちゃうんじゃないかってちょっと心配なんだよね。だからその前に、父さんにはこんなにたくさんいいところがあるんだよって、自信をつけてもらいたいなと思って。」
父は本当に真面目な人だった。仕事が終われば寄り道することなく真っ直ぐ家に帰ってきた。60才で定年を迎えたが、再雇用でまた朝から晩まで働いている。
それも今年の65才で雇用期間が終了し、来年4月からは年金生活が始まる。仕事だけが取り柄のような真面目な父が退職したら、これからの人生どう生きていくんだろうと娘ながらに勝手に心配している。
「あと、これはだいぶヨコシマな考えなんだけどね。YouTuberの●●さんが成功者になる秘訣で”親に感謝の言葉を伝える”って言ってたからさ、今回のプレゼントで私たちの父さんへの感謝の気持ちが伝わればいいなと思って。父さんのこれからの人生にも、私たちのこれからの人生にも、きっかけになるようなプレゼントにしたいんだよね」
さらっと弟の好きなYouTuberの名前を出してみる。
「おー、なるほどね。面白そうやね。分かった、俺、それやるわ」
よしっ! 私は思わず電話越しにガッツポーズを決める。一世一代の大きな契約を取った営業マンの気持ちだった。
母にも同じ話をした。
そして、弟も協力してくれることになったよ、と伝えると
「えー、あの子もやるって言ってるの?意外だわ」
と驚いていた。それもそうだろう。どうせ断られるだろう、と思いながら提案した私もびっくりしたのだから。
というわけで、65才になる父へのサプライズプレゼントが決まり、私と母と弟とでそれぞれ父の『いいところ100』を作ることになった。
今回私がこの『いいところ100』をやろうと思ったのは、以前母から私の『いいところ100』をもらったことがあるからだった。20才の誕生日の時。今でも大事に取ってある。自分では気づかなかった私のいいところを母がたくさん見つけてくれた。これは就職活動のエントリーシートで長所を書くのに役立ったし、社会人になった今でも落ち込むことがあればそれを見るとそっと励ましてもらうことができた。私にとって何にも代えがたい宝物だし、これからの人生にもずっと寄り添うものだと思う。
正直、いいところを100個も見つけるのはかなり難しい。だから大まかなことではなく、なるべく具体的に細分化させて書くのがポイントだ。
男性なら「かっこいい」というのが嬉しい褒め言葉だと思うが、父の場合だと「背が高い」「スーツが似合う」「目がキリッとしている」「声がいい」など、「かっこいい」と思う部分をとにかく細かくたくさん書き出して作った。
また母がくれた私の『いいところ100』だと、私は趣味が手芸なのだが、「手芸が上手」「洋裁が上手」「編み物が上手」「切り絵が上手」「手先が器用」とその分野のことで細かく書かれてあった。
そして65才の父の誕生日の当日。
母が代表して、離れて暮らす私たちの分もまとめて3つ、父へ『いいところ100』を渡してくれた。真面目で冷静な父がそれぞれのを読みながら、涙ぐみ、喜んでくれたと報告してくれた。
弟が書いたものも見せてもらった。
最後の一文にこう書いてあった。
”私を育ててきてくれてありがとうございます。あなたの息子であることを誇りに思います。”
自由奔放な弟はいつの間にここまで成長していたのだろうか。
不覚にも私が泣いてしまった……。
お金では買えない、もっと価値のあるプレゼント。
あなたも大切な誰かに『いいところ100』を贈ってみませんか。
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