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家族で乗船した宇宙船の行方はいかに……!?


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記事:鈴木ゆうみ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「世界一に俺はなる!」
 
そう、あれは5年前苦労して勤めていた仕事を辞めてまで手に入れた、幸せな新婚生活をスタートしたばかりの頃だった。ちょうどサッカーワールドカップの生放送をやっていて、俗にいうサッカー馬鹿の夫はリアルタイムで早朝のT V放送を観戦していた。大してサッカーに興味の無かったわたしだが、新婚マジックなのか、わざわざ起きて一緒に観戦していた。
 
「新スポーツ日本に到来! サッカー×ゴルフ=フットゴルフ あなたも日本代表になれるかも!?」
 
ハーフタイム中のニュースで流れてきたこの映像が私たち一家の運命を大きく変える……
 
知り合った時はすでに営業マンだった夫であるが、将来の夢は「サッカー選手」だったらしい。
うんうん、それで?
でもその夢は叶わず、営業マンとなりゴルフを始めてハマったらしい。
うんうん、それで?
フットゴルフという新興スポーツは、サッカーとゴルフの融合スポーツらしい。
うんうん、それで?
 
「俺の為のスポーツじゃん?」
 
何がどう変換されたらそうなるのか、当時のわたしには全く理解ができなかったので、
「ふ〜ん」
くらいで聞き流していた。が、この後聞き流せない事態が起きる。
 
「大会申し込みしちゃった! 日本代表選考会なんだって!」
 
そういって夫は、翌々週にはこの振興スポーツ(フットゴルフ)の大会に初参加し、初戦で上位成績を獲得した。その後も何度か大会に参加したかと思えば、フットゴルフ初代日本代表というポジションを獲得して帰ってきた。そして、年明けにオランダに遠征するという。
 
ここまで、およそ入籍から3ヶ月の出来事。わたしは一体何に巻き込まれているのだろうか……
 
全く理解できないまま、わたしは新興スポーツ日本代表の妻となり、月日は流れて二児の母となった。
 
あのT V放送でフットゴルフを知った日から5年……
「もういい加減にして! わたし(家族)とフットゴルフどっちが大事なのよ?」
何度この言葉を夫に突きつけて、荒れ狂って喧嘩をしただろうか。
時には子供の前でもなり振り構わず荒れ狂うわたし。正直それくらいキツかった。
 
「パパが日本代表なんてかっこいいじゃん!」
と言われることもあったが、当時のわたしにとっては全然かっこよく無かった。
「父親になってまで何やってるの? 夢とか追っかけてないでいい父親になりなさいよ」
と、この思いが強すぎて、日本代表なんてただの夫の趣味でしか無かったのだ。
事実、大会エントリー費を含む遠征費用は全て実費な為、家計にとってはマイナスでしかない。まさに「フットゴルフバカヤロウ」である。
 
こんな凝り固まったわたしの思考が少しずつ変わってきたのは、3歳になった息子の言葉だった。
 
「アッパーね、フットゴルフで1番なんだよ! ニッポンなんだよ!」
*アッパー:パパ
まだ幼稚な言葉で嬉しそうに、楽しそうにそう言うのだ。
 
基本的にパパっ子で、仕事で帰宅が遅いことには大激怒な息子なのに、なぜかフットゴルフで不在に関しては寛容で応援している。そして、1位の報告を受けるともなると、
「やったー! アッパーすごい! いえーーーーーい! ぼくのアッパーいっちば〜ん!」
と言って、まるで自分のことかのように喜ぶ。ついには、
「大きくなったら何になりたいですか?」
の問いに、
「フットゴルフです!」
と答えるまでになってしまった。
ちょっと前までは、「サッカー選手です!」って可愛く言っていたじゃないの……
 
何がどうなっているのか……
 
未だによく分からないけれど、夫の姿が息子にとって、とても偉大に大きく映っていることは理解できる。ここまで来た時、
 
「いい父親って何?」
 
こんな問いが自分にできるようになった。
 
毎日勤勉に働いてきてくれ、土日に子守をしてくれるのがいい父親なのか?
父親になったら、趣味より家族を優先しないといけないのか?
それが家族を大事にしているということなのか?
 
次々と新しい問いが自分の中にこみ上げてくる。そしてこの問いがわたしを「フットゴルフバカヤロウ」の呪縛から解き放してくれる。
 
ついにフットゴルフ歴5年目の今年、夫は子供の運動会(娘にとっては初めての運動会)よりも、自分の大会を優先した。わたしはと言うと、もちろん「フットゴルフバカヤロウ」の呪縛は時々こみ上げてくるものの、一人でキャラ弁まで作り、子供二人の活躍を義両親と見届けるまでになった。こんな家族も、悪くない。
 
パパの趣味についイライラしちゃうママ、ついイライラされちゃうパパ少なくないのではないだろうか? わたしがそうであったように……
我が家は結果として日本代表という立派に見える肩書がついてきたが、それでも現状夫はサラリーマンである。あくまでも日本代表は趣味の延長でしかない。
 
ただ、わたしにとって世界一を夢見る夫を持つことはまるで宇宙船に乗り込んだようなものなのかもしれない。世界一という惑星を手に入れられるのか。難易度は高いが夢はある。
本当の宇宙船に家族揃って乗ることは、おそらく現世では限りなく不可能に近いが、夫の趣味の捉え方を変えるだけで、わたし達家族は宇宙船に乗船することが出来た。この宇宙船からでも子供たちに最高の景色を見せられているかもしれない。
 
さあ、私たち家族の宇宙船はどの惑星に着陸するのだろうか……
 
 
 
 
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2019-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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