令和もキラキラ光る「昭和の子」
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記事:サカ モト(ライティング・ゼミ平日コース)
場内が明るくなったとき、周りにいたのはおじさん、おばさんばかりでした。
突然ですが「ジグソーパズル、やったことありますか?」
「やったことがあるよ!」
と答えた人は、昭和生まれの方が多いのではないでしょうか。
異なった形状の小さなピースを組み合わせて、1枚の絵を完成させていくジグソーパズル。当然ですが、ピースの数が多いと難易度も上がります。そんな時間と、手間ばかりかかる地味な娯楽、ジグソーパズルを熱狂的にやっていたのはスマホもパソコンもない昭和の子。しかも普通のレベルでは飽き足らず、「牛乳」というほぼ真っ白のジグソーパズルまで登場し、それに果敢に挑戦した、そんな無駄を楽しむ時代でした。
「そうそう「牛乳」あった、あった」と同意してくれた人たちに、じつはおすすめしたい映画があるのです。 2019年7月19日に公開され、空前のヒットを飛ばした新海誠監督のアニメ『天気の子』。
「いやいや、それは若い世代にしかわからないでしょう。わたしら世代には理解できないよ」と全力否定された方。ぜひともこの先を読んでください。読み終わったあと、「ちょっと見に行ってみようかな?」と思うはずですから。
この映画、題名を聞くと「SF? もしかしてCG満載の近未来もの? ファンタジー?」とジャンルが不明。だからつい遠ざけがちですが、大丈夫、誰もが感動できる純愛映画ですから。ざっくりストーリーを説明すると、離島の少年が東京にきて、少女と出会い恋をする物語。「いまさら子供の恋愛を見てもね」と思うかもしれませんが、中高年にわざわざ勧めるには理由があります。
家出した主人公の少年は船で東京へ。その船内で出会う男が、売れない怪しげなカルト雑誌を作っている編集長。子供にご飯をたかる、どちらかというと大人としてはダメな人。男も「子供は苦手」と言うキャラを決めてはいますが、結局この少年の一番の味方となってくれます。昭和のドラマや映画にこんな主人公いましたよね。『探偵物語』の松田優作や、『傷だらけの天使』の萩原健一が近いところです。お金にならない仕事を請けては、危ない目にあう。一見、チャランポランだが、実は頼られると放ってはおけない。しかもとくに弱者は、損得ぬきで助けてしまうヒーロー。
ここで「ああ、わかるわかる」と頷いてくれた人に、おまけの情報を。この男、実は奥さんと死に別れ。いまも彼女に惚れているセンチメンタルな一面もちらっとみせます。しかも娘がいるのですが、奥さんの両親に「定職もない父親には渡せない」と、ただいま養育権を争っている真っ最中。なんか懐かしくないですか、この設定。クールに見えて、根底には義理人情の演歌が流れている。昭和ってこんな時代でしたよね。
ほかにもまだあります。少年が家出する動機が「あの光の中にいってみたかった」なんです。このセリフ、ピンとこないと思う人もいるかも知れませんが、子供の頃を思い出してみてください。アナログの情報しかなかった時代、海をみて「このむこうになにがあるんだろう?」と思いませんでした。昭和生まれなら、ほとんどの人が心当たりあるはずです。それをちょっと現代風にアレンジして「光の中にいってみたい」というセリフになっただけです。
しかもこの少年が島をでるときにもっていた本が村上春樹翻訳の『The Catcher in the Rye』。昭和とともに青春時代を過ごした人ならもうおわかりでしょう。若者のバイブルと言われたJ・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』。この本をもって島から出るなんて、親近感わきますよね。そうなのです、この映画をオススメする大きな理由のひとつは、主人公が若い頃の自分をみているようで、共感ができるからなのです。
昭和の要素がいっぱい散らばっている『天気の子』。それはまるで、ジグソーパズルのピースのよう。それを丁寧に一つずつ見つけながら、物語が進んでいく。だから若い人ではなく、昭和世代がみないといけない映画なのです。
「でも、もう終わっちゃったでしょう」と思っている人に朗報です。
いま、この映画の面白さに気づいたおじさん、おばさんが映画館に押し寄せているため、ロングラン上演になっています。昭和は遠くなったとおもいきや、じつは令和にもしっかり昭和イズムが残っていて、それを若者が「おもしろい」と感動している構図。まだまだ昭和のカルチャーは健在です。
ほら、見たくなったでしょう、若い自分がスクリーンで大暴れしている雄姿を。
映画を見終わったとき、館内に電気がつくと、そこにかつての少年、少女が笑っているはずです。ちょっと覗いてみてください。
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