飴のように甘い生活はいつまでも続かないと心得よ
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記事: 岩根かな子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「お祖母ちゃんもうダメかもしれん」
中学1年生の頃、いきなり母に告げられた言葉に全く実感が湧かなかった。
つい先日祖母が入院したと聞いたばかりだったのに、いきなりもうダメとはどういうことだろう、と頭がついていかなかったのだ。
「え・・・・・・。 お見舞いとか行った方がいいの?」
そう問いかけた私に対して母は
「いや、期末試験も近いし、試験が終わってからお見舞いに行くことにしたら?」
と、何でもないことのように答えた。
私は
(なるほど、そこまで深刻に考えなくてもいいのか)
などと、能天気にこの時は考えていたのだ。
母の言葉通り、期末試験を優先させてしまった私は、結局お見舞いに行くことは出来なかった。
期末試験の最中に祖母は亡くなってしまったのだ。
病院から帰ってきた物言わぬ祖母を見た私は、それでも祖母が亡くなったことを実感できずにいた。
入院から亡くなるまでがあまりにも早すぎたのだ。
若かった私には、お通夜の席も火葬の時も、現実感がなく、ただ祖母が亡くなったらしいとぼんやりと考えることしかできなかった。
涙も出てこなかったのである。
そんな私が祖母が亡くなったと実感したのは、祖母が亡くなって2週間ほど経った時だった。
ふと父が
「そういえば、庭の雑草が伸びてきたなぁ」
と呟いたのだ。
その言葉を聞いた瞬間、私は祖母を思い出した。
いつも庭の草抜きをしていた祖母が居なくなったから、庭が荒れてきたのだ。
その瞬間
(あぁ、本当に祖母は居なくなってしまったんだ)
とやっと実感し、初めて涙が出てきたのだった。
私は祖母の死をきっかけに、家族や友人との時間をとても大切にするようになった。
身近な人もいつかは居なくなることに、改めて気づいたからだ。
大切な時間は一緒にいる時は、その大切さに気づくことが難しい。
さながらそれは飴のようなものだ。
舐めているときは甘く、幸せな気持ちに浸れるが、実は少しずつその時間は減っていっているのだ。
気がついた時にはとても小さくなっており、残り時間が少なくなってからやっと、なくなってしまうことに気づく。
なくなってしまってから初めて、舐めていた時の幸せな気持ちをもっと味わえばよかったと思ってしまうのだ。
祖母の死をきっかけに、家族や友人と過ごす時間を大切に考えるようになった私だったが、さらに一緒に過ごす時間を大切にしようと決意させる出来事があった。
それは私の出産だった。
途中まで順調だったはずの出産は、機械の警告音と共に一気に状況が悪くなってしまったのだ。
胎児の心拍数が著しく低下してしまったのである。
「さっきからずっと警告音がなってますが、大丈夫なのでしょうか?」
私が助産師さんに尋ねると、すぐに産婦人科の先生がやってきて、難しい顔をしながら次々と指示を飛ばし始めた。
「落ち着いて聞いてください。胎児の心拍数が下がり、酸素が胎児に十分に行きわたらなくなっている可能性があります。このままでは赤ちゃんが危険な状態になってしまいます。すぐに赤ちゃんを外に出しましょう」
そんな風に医師から言われた私は、酸素マスクをつけ、すぐさま分娩を行うことになったのだ。
初めての出産ということもあり、分娩は難航した。
一刻も早く赤ちゃんを出産しなければならなかったが、赤ちゃんの体勢が悪く、頭が出てこないという状況になっていたのだ。
「このままでは時間がかかってしまいます。吸引分娩で赤ちゃんを外に出します。吸引分娩は赤ちゃんの頭に吸引器を取り付けて、赤ちゃんを引っ張り出す方法です。お母さんも大変だと思いますが、一緒に頑張りましょう」
そこまで切迫した自体だったのかと愕然としながらも、無事に赤ちゃんが出てくることだけを祈って必死に出産に臨んだ。
その結果、なんとか無事に赤ちゃんを出産することが出来たのだった。
その時の感動を私は生涯忘れることはないだろう。
吸引分娩は場合によっては赤ちゃんや母体に生涯が残るリスクもあったが、後遺症もなく、元気な男の子を出産することができた。
私はこの時の経験から、人はいつ、どのようなタイミングで、命の危機になるか分からないと心底感じたのだった。
自分の命と赤ちゃんの命、そしてこれからの時間を更に大切に過ごしていこうと改めて感じたのだ。
人の命は砂時計のように徐々に少なくなっていく。自分の時間があとどのくらい残されているのかは誰にもわからない。
だからこそ、そのいつまであるかわからない時間を大切に過ごしていかなければならないと実感したのだ。
一緒に居るときには、その大切さをなかなか実感することはできない。でも確実に一緒に過ごせる時間は飴のように日々減っていっている。
だからこそ、毎日家族や友人との時間は大切にしなければならないのではないだろうか。
いつまでも一緒に居れるわけではないこの幸せな時間を、少しでも満喫したい。
そう思いながら今日も毎日、家族と笑顔で過ごすのだった。
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