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「小説家です」と名乗るためには


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:星永俊太郎(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「……そんな昔の恋の話だ。 『終わり』」
 
スマホのメモ帳に、そう書き終わった。
 
やった! これが朝の通勤電車の中ではなく、一人だったら間違いなく「やったーー! 書き終わったぞー!」とガッツポーズをしていたと思う。
 
2019年10月開講の「谷津矢車先生の短編小説講座」に参加した。二か月掛けて短編小説、原稿用紙100枚を書き上げよう、という講座だ。
 
小説を書いてみたいな、と思っても実際に原稿用紙100枚を書き上げた人はそれほど多くはないはずだ。もちろん私も書いたことがなかった。せいぜい、原稿用紙10枚程度の短いお話を書いたことがある程度だった。
 
短編小説を書いてみたい。でも、どう書いたらいいのかわからない。何かきっかけが欲しい。そう思って講座に参加した。講座はとても素晴らしかった。なんといっても現役の小説家の先生に直接教えてもらえるのだ。こんな機会はなかなか、ない。
 
ただ、初回の講義の後、「では、プロットを考えて来てくださいね」と言われて困ってしまった。プロットとは、話の流れや登場人物をどうするかといった小説の設計図のようなものだ。
 
「私は、一体どんな話を書きたいんだろう……?」
 
なんとなく浮かんだ話はあっても、話が広がらない。どうやら自分が本当に書きたい話ではないっぽい。それとは別に、ちょいちょい頭の中をかすめる話はあった。自分の昔の思い出だ。もっと正直に言えば、昔女性に振られた話だ。今でも記憶に残っている。
 
「頭の中と気持ちを整理するために書いてみたらいいじゃん」
 
という自分と、
 
「そんなん書いても人に見せられないじゃん」
 
という自分が戦っていて、その話については考えないようにしていた。しかし、一日、また一日と時間は経っていく。焦る。
 
実は、もう一つ、困っていることがあった。
 
谷津先生は「毎日少しづつでも書いてくださいね」とおっしゃった。
 
しかし、会社員として朝から夜遅くまで働いている身としては、どうしたらいいのか、わからない。朝早く起きてやるのか? 夜帰ってきてから寝る時間を削ってやるのか? なかなかふんぎりがつかなかった。
 
そんなときに、以前TEDで見た「30日間チャレンジ」の動画を思い出した。TED(Technology Entertainment Design)は、世界中の著名人の様々な講演会を開催、配信している非営利団体だ。日本語字幕が付いたものや、日本人による講演もある。
 
「30日間チャレンジ」はGoogleエンジニアのマット・カッツさんの講演だ。
 
講演の中で、マットさんはこう言っている。
 
「何かを本気でやろうと思ったら30日でなんでもできる。単なるコンピュータオタクだった自分が、30日間自転車で職場に行くことを始めたら、だんだん自分に自信が付いてきて、ついにはキリマンジャロにも登りました」
 
そして、毎年11月にはアメリカで5万語の小説を書こう、というイベントがあり、1日1667語書けば、30日後には5万語になる。素晴らしい小説が書けたかって? まさか! ひどいものです。でも、自己紹介では『私は、小説家です』って言えるんですよ!」
 
そうか! ひどい小説でもいいんだ! 初めて書く小説なんだから素晴らしいわけがない。ってことは、別に人に見せる必要もないし、自分のためだけに書いたらいいんだ! そう思えた瞬間だった。
 
自分の過去の話を書いてみよう。そう決めた。すると逆に、これを書かないと先に進めないんじゃないかとさえ思えてきた。
 
この講演から学んだもう一つのことは、今書こうとしている短編小説は目標が原稿用紙100枚なんだから、400字×100枚は、4万字だ。ということは、一日2000文字書いたら20日で終わる。一日の中から、2000字を書く時間を捻出すれば、20日で終わるんだ。
 
そこで、小説を書くために朝の時間を使うことに決めた。といっても朝早起きするわけではない。毎日通勤時間が1時間ほどある。この時間を小説を書くために使うことに決めた。どうやって書くか? スマホのメモ帳に書くことにした。
 
やる気が出ようが出まいが、とにかく朝電車に乗ったらメモ帳を開いて文字を書き始めることにした。すると、意外なことに文章がすらすら出て来て、話が進んでいった。いつも「文章を書かなきゃ」とパソコンに向かう時には、自分自身の掛けるプレッシャーで書けなくなっていたのに。
 
それから、「今日は眠たい……」「あの本の続きが読みたい」と思っても、朝の通勤時間はひたすら文章を書いて過ごした。集中して書いていたら、いつの間にか会社の最寄り駅に到着していた、ということもしばしばあった。10日過ぎ、15日が過ぎ、18日目で書こうと思っていた内容をすべて書き切った。書き終わったのだ。
 
電車の中でなければ、「やったー! 書き終わったーー!」とガッツポーズをしていただろう。
 
実際の所、予定より二日早く書き終わったのと、2000字に達しない日もあったため、合計は23936文字だった。単純計算で原稿用紙60枚分だ。目標としていた原稿用紙100枚には届かなかったが、谷津先生は講義の中で「物語にはそれに適した長さがある」とおっしゃっていたのを聞いて、今回の物語には、きっとこの長さが適切だったのだろうと思うことにした。
 
TED動画のマッツさんは最後に言っていました。
 
「あなたは、何を待ってるの? 何もしなくても一日一日は過ぎていきます。それならば、ずっとやりたかったことをやってみましょう。次の30日で」
 
あなたもやりたかったことを、今日から30日間やってみませんか? 私にだって出来たんです。あなたにだってきっと出来るはずです。
 
もし、お会いする機会があったら、あなたの30日間チャレンジを聞かせて下さい。その時、私はあなたにこう自己紹介するでしょう。
 
「どうも。私は、小説を書いています」
 
一回でも小説を書ききれば、もう小説家なのですから。
 
 
 
 

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2019-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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