メディアグランプリ

時代の針を進める


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記事:T・Y(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
あなたにとってコロナとは?
命を奪い訪れるはずだった出会いを奪いたくさんの幸せを奪い……。
悲しいニュースが蔓延したことは事実である。しかしこの、猛威を、私の友人はこう受け止めた。
「コロナによって時代の針は急速に進められた」
 
わかるともわからないとも言い難い曖昧な表現に、私はぴんと来なかった。私の感じてきた不自由さとはどこか裏腹なポジティブな響きだった。
 
話を聞くうちに、この言葉は実は友人の上司の受け売りだったと知る。友人はある薬局で勤務する一介の薬剤師である。そんな彼女の上司は、昼は患者のため、薬局が閉まれば今度は薬局とその従業員のため、昼夜奔走するベテラン薬剤師である。この上司の放った「コロナが時代の針を進めた」という話、友人の見た薬局の変化に秘密が隠されていた。
 
連休の後友人がシフト通り出勤したある朝のことだった。
「……あれ、こんなのありましたっけ?」
決して馴染みのないものではないが、窓口のカウンターの上に入り口を向いてタブレットが置かれていた。普段はなかったはず……。でも立てかける台まで用意されていることを窺うと忘れ物ではないような……。ばたばたと通り過ぎる上司から、片手間に説明された内容をつぎはぎすると、これはどうやら今日から導入された新しい「発券機」らしい。導入時こそ友人を驚かせたものの、このタブレットが今や薬局で超絶な人気を誇るという。よく飲食店で、案内される順番と待ち時間の目安を知らせてくれる機械、と聞けば多くの方が目にしたこともあるのではないかと思う。
私が意外に感じたのは、それが薬局に存在するイメージがなかったことである。病院にかかるにも、どれぐらい待つことやら行ってみるまでさっぱり想像もできない。無事に診察を受けられたとしてもまだ修業は続く、医師から直接もらえない薬をもらうため薬局に移動してさらに待ち時間を過ごすことになる。通いなれるほど通院もしていない分、待ち時間の長さを全く読めないのがかなりストレスだった。
 
友人にとっても、待たされた人の対応は心地よいものではなく、ストレスの一つだったという。それに加えてコロナの猛威である、蜜を避けたい人々の沸点も急激に下がる。薬剤師である友人から見ても、狭い空間で長時間待たせることで感染リスクが伴うのは明らかだった。
従業員が不安を抱えながら業務に取り組む日常を見かねた上司は策を講じたいと調べるうち、ある新しい製品に出合う。それが先の「発券機」である。
 
前置きが長くなったが、上司が製品情報を調べ導入の英断をした後は店内にはふたつの変化が起きた。まずは、スマホ一つで予約ができ時間に合わせて薬を取りに来てもらえるため薬局内の待ち人が一気にいなくなったことである。密を避けるべく雨の中待つ患者も今年は多かったが、待つストレスがこの一台で解消されてしまった。二つ目、それによって、笑顔が増えた。友人曰く、待つストレス、待たせるストレスが軽減され、薬剤師側も余裕をもって薬の準備から説明から、丁寧にできるようになった。薬剤師さんの優しい対応に患者側も安心して自分自身の健康を思える。そして自然と、感謝の言葉が溢れる。
 
この光景は、おそらくコロナによって人との接触を避ける強制力がなくとも、近い将来実現した未来だろうと、友人の上司は教えてくれたという。高齢化が進み、通院にも困難さを感じる患者が増える中、医療の主流はいま、「遠隔治療」「オンライン診療」の精度をいかに高くするか、に焦点があたっている。病院へ出向かなくとも患者が正しい治療が受けられる社会、日本の目指す未来だった。
コロナにより、法の整備や設備の充実を待たず、結果的には医療業界×デジタル化の波が後押しされることになったのだ。
 
今はまだ、完全な普及には程遠く友人の薬局も一例には過ぎないとのことだったが、良い兆しが起こり始めていることはきっと、読んでくださった方には伝わるはず。もっと普及することで、例えば好きな時に好きな食べ物を食べやすくなった現代に合わせて、好きな時に必要な治療を受けられる未来がぐっと近づくのではないか。今これだけ普及しているスマホも実は、13年前には所有率が10人に1人の割合を切っていた。良さを感じる人が多かったからこそ、たったの10年で、10人のうち9人がスマホを所持する時代へと変化を遂げた。
コロナによって失われたことに目が行きがちだった私は、その中で前を向く友人のエピソードにはっとした。
 
改めて、皆様にとってコロナとは?
 
 
 
 
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2020-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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