メディアグランプリ

イマジナリー・ボーイフレンド

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:タカハシ アヤコ(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
「彼氏ができたらね、コンビニのエクレア、食べたいんだ」
 
昨年10月、銀杏臭い大学構内を歩きながら、私と女友達のMはいちゃつくカップルを眺めていた。そんなときMが呟いたのである。私は、「エクレア、買ったら食べれるじゃないのよ、一緒に食べようか?」とまるで情緒のない返答をしてしまった。
 
違くて、と。この間、Mは彼氏のいる友人から、コンビニで買ったエクレアを二人で食べた話をされたそうである。それを羨ましく思っていたら、彼氏がいない自分がコンビニでエクレアを買って一人で食べることに虚しさを感じるようになってしまい、以来、エクレアを買わなくなったそうだ。その気持ちは分かるような気もしたが、買わないというのは少し極端なような気もした。
 
私とMは、全く恋愛に興味がないわけでも、全くモテないというわけでもなかった。恋人はずっとほしかったし、二人とも何度か告白されたことはあった。しかし、なんとなく断ってしまい、その結果大学4年にもなって誰ともお付き合いをしたことがないというザマである。私もMも周りの友人はほとんど全員恋人がいるという中、私たち二人は似たような感覚を共有していたのだろうと思う。
 
4年ということもあって、それから先は日々の研究やバイト、生活に追われ、気づいたら卒業論文を提出して大学を卒業していた。Mは就職、私は大学院に進学した。
 
大学院生になったら、研究も就活も頑張るけど、私は、絶対に彼氏を作るんだ⋯⋯。胸に誓った決意は熱かった。しかし、そんな矢先の緊急事態宣言。
 
新しい生活様式の名のもと、外出自粛が求められた。いや、マジか。私、これから頑張ろうと思ってたんですが。
 
私は自分が思っていた以上に寂しがり屋だった。普段から、バタバタと過ごしていたので、ここまでとは気づいていなかった。自粛期間に生活に困らず、学業も自宅で進められる、引きこもっていられるというのは、とても有難いことだが、あまりの寂しさで何も手につかないことや涙があふれて止まらないこともあった。ああ、こんなときに彼氏がいたらなあ。SNSの中のカップルみたいに同棲して楽しい時間を過ごしたり、会えない時間もそれなりに電話やLINEで励まし合ったりするのかな。
 
いや、めそめそしているだけじゃダメじゃないか。こんなときでも前向きに頑張っている人はたくさんいるんだ。まず自分にできること⋯⋯。
 
そうだ、彼氏がいたらやってみたいと思っていたことをまずは自分でやってみようじゃないか。
 
例えば、玄関を開けたときに電気がついていてほしいと思って、電気をつけっぱなしにしてコンビニまでいって戻ってきた。玄関を開けてすぐの明るい部屋に少しほっとした。例えば、「たまには俺が作るよ」とかなんとかいって自分が普段作らないような料理を食べてみたいと思って、普段使わないような調味料を買ってきて普段作らないような料理を作って食べてみた。普通においしかった。他にも彼氏がいるなら、部屋の掃除くらいするか、髪や肌の手入れももう少し頑張るか⋯⋯。など思っていたら案外楽しく過ごすことができた。生活の質も上がったような気がする。イマジナリー・フレンドならぬ、イマジナリー・ボーイフレンドである。
 
ふと、あの日のことを思い出して、コンビニにいってエクレアを買ってみた。袋に数個入っているエクレア。楽しみに買ってきて、いざ袋を開けて食べてみると、多い⋯⋯。これは、私1人じゃ食べられない⋯⋯。いや、私は何をしているんだ?
 
私は今まで恋人がほしいと口では言ってきたが、主体的に人と関わろうとしてきたのか? 常に自分磨きに終始して、嫌われるかも、だったり、関係が悪くなったら? だったりとやってみる前から分からないようなことをずっとぐるぐる考えて、言い訳を探して、自分から人と関わることをしてこなかったのではないか?
 
「明日、研究室くる? 一緒にご飯食べない?」
私は無意識に同期の男子にLINEをしていた。既に大学の入講制限は解けていたし、彼は大学までバイクで来ているそうなのでそこまで気兼ねがないと思った。常日頃、用事があるときは連絡していたが、このようになんの用事もない連絡をするのははじめてだったかもしれない。大丈夫だったか? と少し不安になった。数分して、
 
「いく、食べよー」
 
とだけ。彼のことは、今まで全く意識したことがなかったが、嬉しかった。私がすべきことは最初からこれだったような気がする。随分回り道をしてしまった。
 
翌日、彼と大学で昼食を食べた。たわいもない話をした。クリアボードで隔てられて聞こえづらかったが、それもまた楽しかった。その日以来、どちらかともなく誘い合って、なんとなく一緒にご飯を食べる日が続いた。どうでもいいようなLINEをすることも増えた。
 
これは、恋愛に発展しない単なる友人関係なのかもしれない。だが、それはそれでいい。
 
イマジナリー・ボーイフレンドとエクレアを食べたあの夜、私は自分に必要だったものに気づくことができたのだから。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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