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母私娘の三世代を結んでくれたモリー先生


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:浅丘由美子 (ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
ある日、小さな包みと共に、一通の手紙を受け取った。
 
「「モリー先生との火曜日」を読んでみました。
貴方に進められて「アルケミスト」を読んだとき、私が感じたことと、貴方が感じたこととではそれほど違っては居なかっただろうと思っています。
でも、この本を読んだときに感じたことは随分違うのだろうと思いました。
 
モリー先生は医者から余命を告げられ、死の床についていますが、私も肺や心臓に病気を抱え、80才といういつ死んでもおかしくない年齢です。
違いは、医者から余命という形で宣告されていないだけです。
私も当然、日常的に死を考えます。そして、残りの日々をどう行きていこうかと考えます。そして考えた結論は、とてもモリー先生と似ています。」
 
これは、私の母が、14才の孫、私の娘に宛てて書いた手紙の出だしだ。
 
ちょっと前から娘が読んで気に入った本を、「ばあば」に勧めるということを始めた。「ばあば」が読んで、「またオススメを教えてね」と言われると、娘も張り切って、また読書に励むという好循環が起きていた。
 
今回は、コロナ禍で中々会いにも行けない中、丁度娘が「よかったから、ばあばにオススメする。でも難しかった!」と言っていた本。アマゾンで買って実家に送ると、「共感した所」に付箋を沢山つけて、感想文と一緒に送ってきてくれた。
 
しかし、この手紙を読んだ娘は、泣いてしまった。
無理もない。
まだ、身近な人の死に直面したことがない、14才だ。
そして、私も娘に
「ばあばからの手紙にどんなことが書いてあったの?」
と聞いて、冒頭部分を聞いただけで、泣いてしまった。
 
情けない話だが、50を過ぎても、自分の親に少しずつ死が近づいている事実を認める事を、無意識に避けていたのだ。
一方、母は、病気もあるし、少しずつ衰えつつある身体を騙し騙し、終活のような事も実行している。昔から芯が強い。
 
モリー先生は、実在した人物だ。日本でも少し前にSNSで流行った、氷バケツチャレンジで有名になったALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病に罹り、余命が告げられていた。この本は、モリー先生に16年振りに会いに行ったジャーナリスト「ミッチ」が、恩師の死までの半年間、毎週火曜日に行われた、最後の対話についてまとめた感動的な「最終論文」だ。
「授業」のテーマ「人生の意味」を、「死」「愛」「結婚」「家族」「欲望」「お金」「許し」……、いろいろな角度から解き明かす。
 
私は、タイトルは知っていたが、今回初めて読んだ。
 
母の付箋が貼ってあるところは、特に念を入れて読んだ。
読み終ったら、更に付箋が増えた。母が貼った付箋は、薄い黄色だったので、私は、薄いピンクの付箋を貼った。
 
「ミッチ」は、傍目には大成功して幸せな37才のジャーナリストだった。しかし、モリー先生が可愛がってくれていた、学生時代とは考え方も大分変わってしまっていた。モリー先生に、不義理を責められるでもなく、
 
「誰か心を打ち明けられる人、見つけたかな?」
「君のコミュニティーに何か貢献してるかい?」
「自分に満足しているかい?」
「精一杯人間らしくしているか?」
 
と、聞かれたが、そのどれにも先生の目を真っすぐ見ながら答えられなかった。
仕事以外の事を全てないがしろにしていたからだ。
 
モリー先生は、名声よりも、お金よりも、仕事の成功よりも、愛する人を幸せにする事、自分が幸せと思える事に、限られた時間を使う事が、大切である事を、改めて教えてくれる。
 
人間は必ず死ぬ。死ぬ年齢は違うが、「死ぬ」事に関しては、みんなに平等に与えられる。
私も、改めて、人生に本当に大切な事に、もっと時間をかけるためにどうしたら良いかという事を深く考えさせられた。
若くても、余命を宣告されていなくても、死を意識して生きれば、よけいなものをはぎとって、本当に大切な事に集中出来るようになるはずだ。
 
母は、私と違って、物質的欲望というものがおよそない人だ。
洋服は二人の姉からのお下がり。母の年代では珍しく理系の国立大学卒で、最初の仕事は研究職だった。
学歴を鼻にかける事など勿論なく、名声や、高い給料を求めたり、見栄を張るという事も一切ない。
バブルの前に父の希望で建てた家を、バブルのピーク時に、南側にビルが建って「日当りは大事だから」という理由で売却したら、高く売れて、郊外に引越した。お金に余裕が出来ても、贅沢をする訳でもない。
いつの頃からか、途上国の女の子の教育を支援する寄附を長い事やっていた。
地球環境を考え、資源の無駄使いをせず、無駄な買い物もしない。引越で仕事を一度辞めたが、別な仕事を始めた。
自然を愛し、山登りが好き。自分でも言っているが、「草食系」なのだ。
モリー先生も、人を搾取するような仕事には絶対に就くまいと思った「草食系」だ。生まれ変わったら、「ガゼル」に成りたい程なのだ。
 
モリー先生は、多くの事をこの本で教えてくれたが、私にとって一番印象的だったのは、人に頼る事を、楽しむことにした。という所だ。
 
モリー先生も最初は、段々、身体が不自由になり、「もうじき誰かに尻をふいてもらわなければならなくなる」というのが、恐怖だった時期があった。その後、「つまり、また赤ん坊にもどるようなものだろう」と考え、人に頼る事を楽しむ事にしたのだ。モリー先生に愛され、感謝されて、頼られている周りの人も幸せを感じている。
 
私は昨日美容院に行ったのだが、美容師さんに頭を預けて、洗って貰うのは、至福の時だ。娘が赤ちゃんの時に、娘の世話をしながら、私も赤ちゃんになりたいと、何度か思った事も思い出した。そして娘の世話をする事で私も幸せを感じていたのを思い出した。
人に頼る事は悪い事ではないのだ。私だって人に頼られて感謝されたら嬉しい。
現代人は、もっと人に頼って、頼られて生きたっていいのだと気づかされた。
 
また、母とモリー先生は、死は当たり前の事で、恐れる事では無い事も教えてくれた。
 
母の手紙には
「モリー先生の言うように、人は死んでもその人のことを思い出してくれる人が居る間は、死んではいないのだと思うのです。私の中にも亡くなった両親や親戚、友人が生きている気持ちになります。」
とも書かれていた。
 
「ミッチ」はもうモリー先生を抱きしめる事は出来ない。
私は、まだ幸いな事に、電話で母と会話をする事が出来る。愛を伝える事も、今までの感謝を伝える事も、何度だって繰り返す事が出来る。
この幸運を忘れずに、最善を尽くしたい。
 
ばあばの手紙に泣いてしまった娘も、手紙の返事を頑張って書いた。
 
娘には、またいつか、今度は、ピンクと黄色の付箋で一杯になった本を読んで欲しい。
そして、ばあばに感想文を送って欲しい。
 
「ミッチ」がその後、どのような人生を過ごしているのかが気になって、この本を読み終わった後調べてみた。
 
その後、「ミッチ」は長年の、パートナーと結婚をした。子どもはいなかったが、病気を抱えるアフリカの孤児を引き取った。彼のその後の人生は、やはり、モリー先生との最後の授業の影響を受けているようだ。
今も、きっと、モリー先生は、ミッチの中で生きていて、先生との対話は続いているのだろうと思う。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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