秘湯バンザイ!!
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:谷津智里(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
コロナ禍のお盆休み、ということで、近くの秘湯に行って来た。
近くに「秘湯」があるところが、地方暮らしの強みである。
その名も峩々温泉(ががおんせん)。
宮城県川崎町。蔵王へ登る途中にある一軒宿の温泉で、へんぴなところだが我が家から1時間足らず。
ずっと知ってはいたが、近すぎてなかなか宿泊する機会が無かった。
コロナ禍の今だから、泊まってみよう、地元応援にもなるし。
と、予約した。
……結果、素晴らしかった!
温泉の国に生まれた私たちは、温泉を満喫すべきだ。
この国には実に多彩な温泉が、全国いたるところに散らばっている。
単純温泉に炭酸水素塩泉、赤褐色の含鉄泉、独特の香りの硫黄泉。
お風呂のしつらえも、岩風呂に桧風呂、釜風呂、展望露天風呂……。
休みの度に頑張って訪れても、一生かかっても体験できないだけの温泉がある。
これは何気に、すごいことだ。
峩々温泉は100%かけ流しの「炭酸水素塩泉」と「硫酸塩泉」で、お肌はツルツルスベスベになるし、日本三大胃腸病の名湯ということで飲泉もできる。
……飲泉!
これができるところはそう多くはない。
飲んで内側から癒すなんて、ファンタスティック。ホンモノの香り。
日常の慌ただしさなど忘れて、隔世感にうっとりしてしまう。
当たり前の話だけれど、地中から湧き出ているのが温泉だ。
それを、工夫して配管を通し、温度調節などをして旅館で楽しめるようにしているわけだが、もとは自然の中でこんこんと湧いているものである。
だからやっぱり本当の醍醐味は「自然の中で入る」ことじゃないかと思う。
「露天風呂」は「屋根の無い風呂」というほどの意味だが、そんな卑小なニュアンスは大きく飛び越し、大自然の中で湯に浸かる開放感。これを味わうと、もっといろいろなお風呂を体験してみたい! と欲望が湧き上がる。でも飲泉同様、「この体験は宝」と思わせてくれるようなお風呂は限られている。そういう温泉に出会うには、それなりの「僻地」まで行かなければならない。
峩々温泉には「天空の湯」という貸切露天風呂がある。
その名の通り一番高いところに設置されたお風呂で、廊下から一度、屋根はあるが下は土の薄暗い半屋外空間に出る。すると仮設の階段が頭上へと伸びていて、浴衣の裾をたくし上げてその階段を登り、風呂へ行くのである。
貸切風呂になっているのは、「家族や恋人で入れるように」という気遣いというよりは、仮設階段を設置しなければたどり着けないようなワイルドな設計であるところが大きいと思う。とはいえ、貸切であることは心の開放感にやはり大きく貢献する。
夫と娘と、足もとを気にしながらカン、カン、と薄暗い階段を登って、明かりの漏れている入り口から外へ出る。こんな道程も「秘湯」の名にふさわしい。
それで思い出したのは、学生の頃、友人と一緒に行った奥日光の宿。
その頃はまだ東京に住んでいたから、雪を見ながら入る露天風呂が憧れで、山奥の温泉宿(名前は忘れてしまった)を選んだ。もちろん冬である。
日光駅周辺から山道をガタガタとバスで揺られること数十分。
テレビでしか見たことのないような分厚い雪に囲まれたその旅館のウェルカムドリンクは、なんとおしるこだった。
目的の雪見露天は、別棟と言う名の山小屋。浴衣のまま濡れた長靴を履いて悲鳴を上げながら小屋へたどり着き、半屋外のような場所でガタガタ震えながら裸になる。ちょっと考えられない環境だったが、そこで浸かった湯はそりゃあもう最高で、帰路は、同じ景色の中を心も身体もポカポカで歩いたっけ。奥地へ分け入ったからこその体験だ。
「天空の湯」へ向かう階段を登り終わり外へ出ると、視界がぱーっと開け、青空と川のせせらぎが目に飛び込んで来る。
「わーおー!」
思わず声の出る開放感。
洗い場も脱衣所もなく、板敷きの広いスペースに造り付けのベンチとタタミ4畳ほどのお風呂があるだけ。あとはぜーんぶ、景色。早速、階段の登り口から持って上がってきたカゴに浴衣を脱いで、チャプンと浸かる。
峩々温泉のお湯はちょっと熱めで最初は驚くが、慣れると癖になる適温。キューっと芯から温められる感じと、頬に当たる涼風のギャップがたまらない。一度温まってしまえば、ベンチに座ってマイナスイオンをたっぷり浴びながら涼むのも最高に気持ちよかった。
開放感で忘れられない宿といえば、群馬の宝川温泉・汪泉閣(おうせんかく)がある。
汪泉閣の露天風呂は、風呂というより川、川に見えて風呂。「宝川」の渓流沿いに4つの露天風呂があって、最小で50畳、最大で200畳! もはやどこまで川でどこから風呂か分からない。3つは混浴で、他の客が風呂に入っているのを横目に見ながら目的地に向かって川沿いを歩く。こうなってしまうともう恥ずかしがっている場合ではないのだが、少年が全身を隠すこともなく駆けているのはともかくとして、外国人のグループが男女混じった数名で風呂の真ん中で立ち話をする姿には、「さすが」と思いながらも目を丸くした。
ここも一軒宿で、草津や伊香保、水上といった温泉街からは離れてポツリとある。
他にも、半島のてっぺんから広大な海を眺めながら入れるお風呂や、寝転がったまま富士山を眺められる温泉に行ったことがある。夫にそんな思い出話をしながら、温泉談義に花が咲く。「俺はあんまり行ったことが無いからここがこれまでのベスト1かも」と言いながら、夫は湯船の脇に寝転がって娘にお湯をかけてもらっていた。この寝転びながらの「かけ湯」も峩々温泉の温泉文化としてパンフレットに説明されていて、昔から行われている湯治の方法らしい。実に効きそうである。ここが古くから人びとの平癒の地であったことに合点がいった。
豊かな自然が生んだ温泉は、そのまま豊かな自然の中で。
川のせせらぎや鳥の鳴き声の中で湯に浸かると、人間の世界で身にまとったものが一枚ずつはがれてゆき、とある生き物の一つとして自分を感じる。膨大な時間の積み重ねを経て地中から染み出した湯が身体の芯に溶けこんで、溜め込んだものを深奥から流していく。
そんな経験をさせてくれる場所をいくつか持っていたら、人生はきっと豊かになる。
うっかり近場にいい秘湯を見つけてしまった。
疲れたらまたふらりと浸かりにいきたいと思うし、いつか1週間ぐらいがっつりと湯治に訪れてみたい。
それからたまには、遠くの名湯にも出かけよう。東北の隠れた名湯も、もっともっと見つけよう。なにせ日本は温泉天国だ。探そうと思えばきっと、私を自然に還してくれる場所が他にも見つかる。秘湯バンザイ! だ。奥地へ、ワクワクしながら出かけたい。
そうだ、私たち日本人にはこんな楽しみがあったのじゃないかと、図らずもコロナ禍が思い出させてくれた。
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