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無趣味なおじさんはロードバイクに乗った方がいい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:荒巻瓶太(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「ご趣味は何ですか?」「休日は何をされていますか?」
 
会社員にとって、同僚や取引先からされて困る質問の第2位くらいにはランキングされているであろう、恐怖の詮索がこれだ。ついうっかりハロプロのBlu-layを見るのが趣味だとか、休日は朝から新宿のマルハンの抽選に並んでいるとか、本当のことを言ってしまおうものなら、知らぬ間に職場で格付けをされ、翌日からあらぬ噂を立てられてしまう。
真実を赤裸々に語ることだけが全てではない、そのことは「映え」という現象がよく示している。SNS全盛の現代社会では、たとえその辺を歩いている一般人であろうと、セルフプロデュースが必要なのだ。
 
実は、この質問には最適解がある。
 
「ご趣味は何ですか?」
「アウトドアを少々」
 
アウトドアを少々!
なんていい加減な言葉だ。でもこう答えるだけで、おお、といった世間の明るいリアクションが待っている。もしかしたら、私もアウトドア好きなんですよー、とかウェイウェイな返事が来て、弾みまくった会話が生まれるかもしれない。そのくらい「趣味はアウトドア」というマジックワードは防御力が高い。
 
そうか、では人から趣味を問われたときに困らないよう、アウトドアでも始めてみるか、と思ったそこのおじさん。
身もふたもないが、残念ながらアウトドア道はそんなに軽くない。むしろ沼は深い。ハマっていないアウトドア趣味は、家族4人でレンタル品で済ませるファミリーキャンプと何ら変わりはない(まあ楽しいことに変わりはないのだが)。
 
人に言える趣味らしい趣味を持っていない、そこまで何かに熱中したことがない、という人も実は多い。特に中年男性。仕事ばかりで趣味に費やす時間がなかったとか、広く浅くいろいろなことに手を出したが長続きしなかった、とか。そういう人にアウトドア趣味を勧めるかというと、残念ながらそれはやめておいた方がいいと言わざるを得ない。
 
なぜか。
 
アウトドアは、「ひとりでやるのは相当ハードルが高い」趣味だからだ。
 
芸人のヒロシがソロキャンプブームを生み出し、あれに憧れてソロキャンプを目指すおじさんが増殖したが、悪いことは言わない、やめた方がいい。あれは仙人の領域だ。不自由を楽しむという神々の遊びなのだ。普通のキャンパーは仲間とワイワイやってこそ楽しいのであって、一人で楽しめるようになるには相当の修業が必要となる。そもそもこの歳まで無趣味で生きてきたおじさんに、アウトドアでウェイウェイするコミュニケーション能力が備わっているかは疑わしい。
結論、おじさんが今からアウトドアを趣味にするには、険しい道しかないのだ。
 
では、果たして迷えるおじさんは何を趣味にすればよいのか?
実は、おじさんには「ロードバイクに乗ること」を勧める。
 
ええ!? ロードバイク!? あのドロップハンドルでギアがいっぱい付いている自転車!?
ぴちぴちの派手な服を着て、みんな昆虫みたいなサングラスをしている、ロードバイク!?
 
あまりに意外な提案に面食らっているかもしれない。でも、おじさんが新たに始める趣味として、ロードバイクが最適な理由を3つ説明してみる。
 
(その1)投資額に見合った分かりやすい格付けがある。
これはマシンやパーツの金額が、高価格=軽量になっているので分かりやすい。10万円台で入門レベルのマシンを手に入れることもできるが、総重量は重く、漕ぐのが大変になる。しかし100万円くらいコストをかければ、世界最高峰のツール・ド・フランスに出場する選手と同じ軽さのマシンを手に入れることだってできる。同じことを自動車で実現しようとすると何億円かかるかわからない。ロードバイクはお金がかかるイメージが強いが、実は車やバイクより全然コストがかからない。それでいて、投資に見合ったカタルシスを得られるのだ。
 
(その2)乗ると健康になる。
ロードバイクの運動負荷はあらゆる運動の中で最高レベルであり、消費カロリーが極悪だ。例えばカロリー接種を十分にしないで漕ぎ続けていると、ハンガーノックという低血糖状態に陥り、危険な状態になることすらある。100キロも走れば、成人男性が一日に摂取するカロリー量を大幅に上回って消費される。100キロ漕げるようにトレーニングを積み重ねていくうちに、あれよあれよという間に健康になってしまう。お酒も控え、タバコもやめて、水と甘味を求めるようになる。おじさんにとって健康とは、非常に重要なサバイバル要素なのだ。カメラやワイン、盆栽や自作パソコンを趣味にして、果たして健康になるだろうか?
 
(その3)ひとりでも楽しめる。
ソロキャンプはきつい。でもロードバイクのソロライドは全然きつくない。むしろ自分のペースで走ることができて快適なくらいだ。ひとりで黙々とペダルを漕いでいると、自分の体のコンディションが手に取るようにわかってくる。こんなにもストイックな体験をするのは生まれて初めてかもしれない、と脳内麻薬にぽわぽわ包まれながら、ただひたすらにペダルを回す快楽に溺れるのだ。
 
ピタピタのサイクリングウェアは、いずれ慣れる。むしろ非常に機能性が高いことに感心するようになる。だぼだぼの服では、空気抵抗が発生して漕ぐのが大変になるのだ。そうして出っ張ったお腹を恥じらいながらロードバイクに乗るうちに、ある時、おじさんなのにバッキバキに割れた腹筋が手に入る、尊いイベントが訪れる。
 
気づけば鏡に映る自分は、浅黒く日焼けをした顔をしており、無駄のない筋張った手足が伸び、ぎゅうぎゅうに引き締まった腹回りのシルエットとなっている。ここまで来たら、胸を張ってこう答えることになるだろう。
 
「あの、ご趣味は?」
「はい、ロードバイクを少々」
 
 
 
 
***
 
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2020-10-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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