自分の価値は自分で決める~「市場価値」に振り回されていませんか?~
記事:中川翔太(ライティング・ゼミ平日コース)
「市場価値」という言葉を聞いたことはあるだろうか?
最近自己啓発やキャリアに関する領域においてよく使われる言葉である。
私は転職支援をする企業で働いており、職業柄転職の相談やもう少し抽象度の高いキャリアの相談を受けることが多いのだが、その中でも最近よく聞かれることがある。
それは「自分の市場価値はどれくらいなのか」という質問だ。
転職を支援する立場とはいえ、もちろん私には私自身のキャリアがあるため、私なりに「市場価値」というものを考えながら仕事をしていたわけだが、その中で一つ気づいたことがある。
「ツラい」
そう辛いのである。市場価値ばかり考えているのは私にとって精神衛生上非常に辛いものだった。
私はこれといってやりたいことがなかったため、なおさらこの市場価値を意識していた。
「やりたいことができるように、自分自身の市場価値を高めよう!」なんて意気揚々と考えては、「そんな先のことのためになぜ今我慢してまでやる必要があるのだろうか」なんてすぐやる気を失うようなメンヘラだった。
そしてある日気づいたのだ。
市場価値を高めるという努力と自分にとっての楽しい人生が矛盾しているということに。
市場価値を高めることは本来手段であるが、市場価値を高めること自体が目的となってしまっていたのだ。
今だからこそ言えるが、端的に言えば、「市場価値」そのものを考えることに意味はない。
市場価値を高めることでどうしたいのか、どうありたいのかという目的を先に定めないと痛い目を見る。
なぜなら、市場価値とキャリアの自由度は矛盾しているからである。
私のように市場価値病に侵されてはいないだろうか?自分の将来が不安になっていないだろうか?それによって今をないがしろにしていないだろうか?
もし、あなたも市場価値病の傾向が少しでもみえるのであれば、是非これを機に考え直して見てほしい。
そもそも「市場価値」とは何なのだろうか。
「市場価値」とは、言葉の通り市場における価値のことを指す。ここで言う市場とは、転職市場を指しており、価値は自分自身の価値だ。つまり、転職市場において自分のキャリアにどれほどの価値があるのかということである。ここでの価値とは年収と仮定する。シビアな話、要は「あなたにはいくらの価値があるの?」ということである。
経済的な価値は、希少性によって定められることが多い。希少性とはレア度のことで、大きなダイアモンドが高価なのも、世界に100本しかない腕時計が高価なのも、数が少ないからつまりレア度が高いから価値が高いということだ。
要するに自分の市場価値を高めようと思うと、自分のレア度を上げる必要がある。
レア度を高めるには、専門性を高める必要がある。
そして転職市場の構造上、専門性を高めれば高めるほど他の職種にキャリアチェンジしづらくなるのだ。
営業職の方は営業として、経理職の方は経理として、技術職の方は技術職として、市場価値を高めるべく専門性を磨く。
しかし、営業職の方は営業として評価をされるため、営業職の専門性をいくら高めようと、営業職は技術職や経理職になれる可能性は薄い。
ここが大きな落とし穴なのだ。
漠然と市場価値を高めれば将来安泰と思っていなかっただろうか?
漠然と市場価値を高めれば何でもやりたいことができるようになると思っていなかっただろうか。
私は思っていた。漠然と自分の市場価値を高めればやりたいことにチャレンジできると信じていた。しかし現実は違った。漠然と目的がない自分にとって市場価値を高めるという手段は向いていなかったのだ。
でも大丈夫。向き不向きの問題で、市場価値を高めることが全てではない。
明確な目的があるタイプ、つまりやりたいことが明確なタイプは市場価値のような発想がマッチする。
しかし、明確な目標がないタイプ、つまりやりたいことが明確ではないタイプは市場価値のような逆算思考は向いていない。
ではどうすればいいのだろうか。答えはシンプル。ベストな「今」を積み重ねることである。
やりたいことというゴールがないとどうしても将来が不安になってしまうが、未来は「今」の積み重ねである。であれば、ただベストな「今」を積み重ねるだけで良い。
ゴールを見据えて市場価値を突き詰めているやり方は、映画に近い。グッドエンディングに向けて逆算するようにストーリーを紡いでいく。
一方ベストな「今」を積み重ねるやり方は、写真展に近い。それぞれの写真に連続性はなくとも、一貫したテーマがあり、一枚一枚に価値がある。
どちらが正解という話ではなく、どちらも正解である。
大事なのは自分がどちらのタイプなのかを知り、それに適した発想で考えることだ。
あなたは映画タイプ写真タイプどちらに該当するだろうか?
あなたにとって「市場価値」は大事なものだっただろうか?
「市場価値」という言葉に振り回されず、自分にとって一番大事なものが何なのかを改めてみてほしい。