小学生の頃はチエちゃん、50代の今はお菊はんがわたしの憧れ『じゃリン子チエ』(ネタバレあり)
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記事:渡邊真澄(リーディング・ライティング講座)
「えー!なんでここにいてんの?」懐かしい友達にばったり再会したように、心と身体が跳ねた。「まさかこんなとこでまた会えるとは思わんかったわ!」その相手は人ではない。文庫本コミック『じゃリン子チエ』だった。横浜郊外の大型書店に平積みされていたその文庫本。表紙には懐かしいチエちゃんとヒラメちゃん。迷うことなく即レジへ。買い物の予定をやめて、すぐに家へ帰りあっという間に読み終えた。Amazonで検索すると、どうやら毎月1冊販売されるらしい。それからは、月刊コミック誌を買っていた頃のように、毎月の販売日を楽しみに買い揃えていった。
大阪生まれ大阪育ち、今は家族と横浜暮らし52歳の私。チエちゃんを初めて観たのは漫画ではなくアニメ。チエちゃんと同じ小学5年生だった。このチエちゃんに、私はめちゃめちゃ憧れた。周りの女子がそろそろ色気出してきて好きな男性アイドルの話をするなか、私はチエちゃん一点推しやった。どれくらい憧れたかというと、給食ナプキン入れる巾着袋をチエちゃんのキャラクターもんにして、ランドセルにぶら下げていたくらい憧れていた。家族で近所の定食屋さんへ行ったら、必ず『ホルモン定食』頼むくらい憧れていた。
博打とケンカに明け暮れ、働かん、なんなら店の金くすねる父テツと二人暮らしのチエちゃん。学校から帰ったら、ホルモン焼いて店を切り盛りしている。家出してたおかあはんが帰ってきてからは3人暮らし。あ、ネコの小鉄も家族やな。近くにはテツの両親お菊はん(おばあはん)とおじいが暮らしてる。家族構成を見ると憧れる要素は一切ないが、チエちゃんはめちゃめちゃツヨツヨメンタルで、ウルトラコミュ強な大阪の小学生なのだ。ヤクザも怖れるテツより強く、テツより強い最強のおばあはん(テツのおかん)も言いまかす。イヤミな同級生男子には一発かまし、酔っ払い客や会計ごまかす客とも渡り合う。おまけにネコの小鉄には店を手伝わせる。小学生やった私が憧れる要素だらけだ。でも、チエちゃんはお母はんには弱い。お母はんのことが大好きで、それを素直に出す。それだけは当時の私とは違った。チエちゃんのお母はんは、優しくて美人でええなぁと羨ましかった。
40年経って久しぶりに会ったチエちゃんは小学5年生のまま、私だけが歳をとり52歳となった。あの頃と変わらず、やっぱりチエちゃんは好きやなと思いながら毎月読んでいたが、今まで憧れたことのない人に憧れる私がいた。テツのおかん、チエちゃんのおばあはん、お菊はんだ。
お菊はんは、とんでもなくケンカが強い。ヤクザがビビる息子テツを今もしばき倒す。時にはテツと一緒にヤクザ相手の乱闘にも加わる。頼んないおじいはん(夫)と二人でホルモン焼き屋を切り盛りし、チエちゃんの店の面倒もみて、商売も教えているが、時々チエちゃんに痛いとこつかれ「すんまへん」と頭を下げる(ほぼテツへのクレームである)。
ここまでは、小学生の頃の私もよく知るお菊はんだ。だが、52歳でチエちゃんと再会した私は、知らなんだお菊はんの一面も何面も知っていく。チエちゃんと同い年の少年コケザルがタバコを吸い、口のきき方が悪いとなるや、ぱんぱんぱんぱん頭を叩き倒す。我が息子の子どもの頃にそっくりで、心配になるのだ。心配になるからと不安そうに見守るなんてことは、お菊はんはしない。「ウソつきなはんな!」「誰がオバハンや!」と言いながらぱんぱんぱんぱん叩きまくる。叩きこそしなかったが、息子が小さい頃、大阪のスーパーにはこういうおばちゃんがいた。トレイにのってラップのかかった魚を触ろうもんなら、「買わんのんやったら、触りな!」と他人の子でもしっかり叱ってくれた。横浜のスーパーで同じことしている子どもに同じセリフを小さい声で言うたら、完全にビビってしまった。あの子はお菊はんを見たら、夜泣きするかもしれない。
お菊はんはすぐ手が出る荒っぽいだけのおばあはんではない。義理人情に厚く、情深い人なのだ。ヤクザから足を洗い、マジメにカタギになったテツの仲間たちのことを応援し、彼らが別のヤクザから絡まれ、トラブルに巻き込まれた時は、頭と力を総動員して味方になってくれる。そしてちゃっかり、自分も儲けになるように仕掛けたりするのだ。そんなお菊はんだから、彼らも素直に自分の身の上を話し、情けないところを見せたり、泣いたり、他では見せない弱い面を見せてしまう。お菊はんは、「あんさんも大変でんなあ」「まあ親いうのはそういうもんでっせ」と親身になって話を聞くのだ。
憧れる。こんなに最高なおばあはんがいてるだろうか。若い頃私は、「おばあちゃんになったら、優しいかわいいみんなから愛されるおばあちゃんになりたい」と思っていたが、なりたいおばあちゃん像を書き換えた。頭も体も口も達者。元気でタフで明るくて、ちゃっかりしてて。口は悪いが人情に厚い、お菊はんみたいなおばあちゃんになる! そうだ、みんなに愛されなくてもコアなファンがいればええやないか。私のようなお菊はんファンにきっと愛されるはずだ。それまで頭も口も身体も、達者でいよう。可愛くはないかもしれんが、みんなではないかもしれんが、きっと愛されるおばあはんになっているはずだ。
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