絵はがきの効能
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:楠 綾 (ライティング・ゼミ日曜コース)
あ、やった。来てる!
ポストを開けて、心の中で小さく叫ぶ。思わず顔がほころぶ。
傷がつかないように、気を付けて取り出す。
その場では見ない。
どんな絵か、どんな内容か、見たい気持ちを抑え、カバンの中にそっとしまう。
気持ちは急いているけど、あえて、ゆっくりマンションの階段をのぼる。
夕食を作り終え食べて、すっかり落ち着いてから、そっと絵はがきを見る。
はじめに、書いてある文字。裏返して、絵。
インクの色、濃淡、文字の雰囲気。どんな気持ちで書いてくれたのか。このはがきを選んでくれたのか、しばらくそのまま思いを巡らす。
絵はがきでの往来をはじめて、3年は経つだろうか。
彼女は、同じ茶道教室に通う仲間で、旦那さんの転勤に伴って、東京に行った。
メールアドレスの交換をしていたのかもしれないが、なんとなく絵はがきの往来が始まった。
美術館で展示されている浮世絵や絵画、イラスト、掛け軸の写真の絵はがきなど、様々で楽しませてくれる。
いつだったか、博物館で「茶の湯」展があり、見に行きたいなぁと思っていた時、彼女が先日見に行ったから、と言って、茶碗の形をしたはがきを送ってくれたこともあった。彼女の温かさを感じた。
絵はがきに書かれている内容は、自分の世界を見つけ頑張っている旦那さんや子どもさんと比べて、自分はなんとなく毎日を過ごしているといった、ちょっとした弱音だったり、近くに安価で入ることのできる植物園を見つけたという日常の小さな発見がメインだけど、
この往来がなかったら、彼女が日常をどう感じて、どう表現するのか、知る由もなかっただろう。
彼女に絵はがきを出したいがために、旅行に行ったとき、美術館に行ったとき、いつも、絵はがきを探す。
特別展の絵、書。常設の意匠。触れたくなるような風景写真が写っている絵はがき。
どんなものを選んだら喜んでくれるのか。
たった一枚の絵はがき。
表の上半分は住所と名前で、内容は下半分だけだから、スペースは限られる。
それなのに、
絵はがきを、真剣に、時をかけて選ぶ。
絵はがきを選んだ後も、
ペンの色、書く内容、時には郵便局に行って切手を選ぶ、そして文字を置く。投函する。
なんと長い道のりだろう。
実質、アウトプットするのは、文字を置く という行為のみだけど、投函するまでの間、
相手の人柄、様子が自分の心の中にあって、ワクワクしていることに気づく。
電子メールだったら?
こんなに往来が続いていないはずだ。
パソコンで文字を打つスピードは、手書きよりもうんと早い。
間違って打っても、すぐ修正でき、だれが打っても、均一の美しさ。
複数の人に全く同じ内容を一斉に出すことも可能な便利なツール。
ただ、受け取った側は、送信されたものを読んでも
自分だけのために、時間を費やして、わざわざ書いてくれたという気持ちも、温度も伝わってこない。
何度も読み返したり、別フォルダに保存したりもしないだろう。
彼女と久しぶりに、面と向かって話をしたとき、
「ちょうど、絵はがき出したいな、と思ったころ、楠さんから来るのよ」と。
そしてこうとも言っていた。
「いつも、みやびな絵はがき送ってくれるよね」
私が彼女に抱いていた感情と、彼女が私に抱いていたものとは、よく似ていた。
お互いが、相手を思う心で絵はがきを選び、文字を置く。
絵はがきを通して、相手から新しい発見を得る。
出そうとしなかったら、知りえなかった画家、絵、風景が運んでくる匂いも堪能できる。
Kindness is its own reward.
親切はその行為そのものが、報酬 褒美である ということわざがある。
はがきは、出す側は“モノ”としては、何も受け取らないが、
出すまでの過程、行為で、自分の心が満たされ、相手を愛おしく思う。
書くことは気持ちを置くこと。文字の上手下手は関係ない。
文字に気持ちを置くと、相手が心に浮かぶ。
置いている間は、一滴一滴、水がしたたっていくさまが見え、時がゆっくりと流れているように感じる。
投函した後も、無事に届いたか、相手は幸せに感じてくれているか、温かくて少し気がかりな感情が、心に居座る。
絵はがき代100円前後、切手代63円、全部で200円あれば、相手も自分も大事にできる、時間が経つのを堪能できる、なんと長続きする効能だろう。
今日も、彼女のために買った絵はがきを取り出してみた。
さて、何を書こうかな。
日々のささいな不安や、1週間の疲れも、絵はがきを書こうとした気持ちが拭きとってくれたようだ。
あなたも、絵はがき、出してみませんか?
***
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