日本最大の本屋にあるすべての本のタイトルだけを読破した話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:廣田夏(ライティング・ゼミ平日コース)
大学生の時、僕は阪急梅田駅の東にある茶屋町に建つMARUZEN & ジュンク堂書店 梅田店によく通っていた。専門書の在庫が豊富なため、大学の講義で困ったことがあったとき、この本屋にお世話になっていた。いつものように通っていたある日、僕はフトこんなことを思った。
「このバカでかい本屋には僕が一生読むことが無い本がたくさんあるんだろうな~」と。当たり前である。そして続けてなぜかこう思った。
「一生かけても全冊読破はできない。でも背表紙のタイトルを眺めるだけならできるんじゃないの?」と。今にして思えばアホな考えである。
簡単にこの本屋について説明するとMARUZEN & ジュンク堂書店 梅田店は国内最大の売場面積と蔵書数を誇る大型書店である。地下1階の漫画フロアから地上7階の学習参考書フロアまでの8階構成。入り口の前に立ち建物を見上げると巨大な一つの本棚のようにも見えてきそうな建物だ。
「とりあえずやってみるか」と地下1階の漫画コーナから始めた。初めてみると背表紙のタイトルだけを見るという作業だけでもかなり疲労していくことがわかった。最初に疲労を感じたのは首である。本棚の一番上の段から一番下の段まで眺めるため目線を上下させないといけない。その上下のためにまるで会津の郷土玩具「赤べこ」のように首を動かし続けなければならなかった。
次に疲労してくるのは「脚」である。本棚から本棚をサイドステップで移動していく過程で特に足の裏に疲労を感じやすい。このチャレンジを初めて2時間位して、「もっとソールにこだわった靴の選定をすべきであった」と後悔した。
最後に疲労がやってくるのが「目」である。このチャレンジ中、本棚から本を取り出して中身を読むことはほとんど無かった。それにも関わらず本の背表紙のタイトルを眺めているだけで、まるでパソコン仕事を長時間やっているかのような目の疲れが襲ってくるのである。
まあこれらの疲労も興味がある分野や「こんな本のジャンルがあるのか!」とかいった驚きや新たな発見があれば吹き飛ぶのだが、興味が無い分野だと特にキツかった。
特にキツかったのは国土地理院が発行している地図が置いてあるコーナーである。
このコーナーに来た時「俺はなんで貴重な休みの日にこんなことをやっているんだろう?」とも思ったが、すでに地下1階から地上2階までの計3階分は達成していたので続けることにした。
結局1階分のすべての本のタイトルを眺めるだけで3~5時間かかり、毎週土曜日通って1ヶ月で達成した。その達成感たるや個人的には大満足だったが別に誰からも褒められるわけでもなく完全なる自己満足な物であった。
ただし得られたのはこのチャレンジを始めたときに予測した達成感だけでなく、今まで自分が触れたことのない本が世の中にはたくさんあるということを知れたことだ。
例えば医療・看護の専門書が置いてある場所なんてこのチャレンジをしなければ訪れることもなかっただろう。料理本コーナーの端に虫食の本があるなんて絶対に知ることは出来なかった。
そしてこのチャレンジをして未だに強烈にタイトルが記憶に残っている2冊があるので紹介する。
1冊目は「焚き火大全」という本。焚き火の技術から焚き火の文化、歴史まで焚き火のあらゆる内容を網羅した1冊になっている。そして何よりも著者達が所属している学会が面白い。「日本焚火学会」や「国際火遊び学会」といったユニークなネーミングの学会がこの世にはあるのだと知れた。
もしあなたが焚き火について知り、その知識をひけらかしてキャンプで仲間から「すごい!」と思われたいのならオススメの一冊ではないだろうか。
2冊目は「世界ホームレス百科事典」である。うっすらホコリをかぶりつつもその分厚さとタイトルのインパクトからチャレンジ中にも関わらず思わず手に取り、何ページか立ち読みしてしまった。確かホームレスの歴史からホームレスに対する社会政策まで網羅されている本だった。僕がたまたま開いたページはロシアにおけるホームレスに解説してあるページだった。数ページめくったあと、「そういえば、この本は一体いくらするんだろうか?」と関西人なら誰しも持つであろう値段に対する興味が湧いてきた。その本の裏表紙を見てみると何と約4万円! 当時大学生だった僕が初めて出会った高額本だったのでドキドキしながらその本を本棚に戻した。
今思い出してみても何でこんなこと思いついたんだろうか? と思うのだがキッカケはサッパリ思い出せない。ただ思うのはこんな馬鹿げたことでもやってみて良かったなと思う。
達成感や知らない本を知れたことだけでなく、人間が抱える大抵の悩みは本屋に行けば何かしらヒントがあると思えるようになったからだ。僕はこの経験を通して本に対する信頼感が更に増した。多分、死ぬまで本を読み続けるだろうと思う。
***
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