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トコナツオの華麗なる転身


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:前田三佳(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
夫の名前は「トコナツオ」
常夏の男と書いて、トコナツオと読む。
もちろん本名ではない。
長女が中学生の頃、父親に付けたニックネームだ。
1年の大半を半袖ポロシャツかTシャツ、短パンで過ごす。
運動馬鹿と言えるほどスポーツ好きで、趣味が高じてトライアスロンにはまり
休みと言えば朝早くからロードバイクに乗り遠征かマラソン。
元々の肌の色が定かではない。1年中黒い。
そして運動の後のビールが何より好きで、無駄に明るい男だ。
「トコナツオか~。うまいこと言うよね。」彼を知る人は一様に感心し納得する。
そんなトコナツオも御年66歳となった。
 
寄る年波には勝てない。
そんなセリフはナツオとは無縁だと思っていたが、そうでもないようだ。
近頃、身体のあちこちに黄色信号が点滅し、薬の量がめっきり増えた。
トライアスロンだなんて嘘だよねというほど、突き出たお腹をさすり
「走れなくなったな……」などとため息をつく。
じゃあビールの量を減らすのかと思えば、断じて減らさない。
まったく意味がわからない。
 
そんなナツオがこの1年で大きく変わった。
ダイエットに成功してお腹が締まった訳ではない。
そのお腹にエプロンをするようになったのだ。
何と成長してくれたのか!私は感無量である。
かつて彼は、家事全般しない主義の男だった。
年末の大掃除の日さえ逃げてまわっていた。
「オレは忙しいんだ」
「だって今テレビ見てるじゃん」
「テレビ見るのに忙しいの!」
そんな不毛な言い争いが面倒で、すべてやっていた私もいけなかった。
このままいくと「濡れ落ち葉」?はたまた「ワシモ族」に夫はなりかねない。
こうしてはおれない。
私の夫リメイク大作戦が始まった。
 
約1年前に私たちは一軒家を手放し、小さなマンションに引っ越した。
夫の両親を見送り、娘たちが独立し、2人だけとなったのを機に思い切った。
決して広くはないが3階建ての家を登ったり下りたりが無くなっただけでも家事は
格段にラクになった。
家を小さくした効用はもう一つあった。
食事が済むとさっさと自分の部屋にこもる夫がいたが、今の狭い家ではその部屋がない。
リビングでくつろごうにも、お皿洗いをする私が嫌でも目に入る。
「オレ洗おうか」と初めて言ってくれた、その瞬間を私は逃さなかった。
どんなに床をびしょびしょにしても、構わない。
「嬉しいな~」「助かるわ~」「あなたが洗うとピッカピカだよね」
あらゆる言葉を駆使して夫をゲキほめした。
それから夫は私が皿を洗おうものなら「オレの仕事を取らないでくれ」とまで言うようになった。
 
そして洗濯。
干す、取り込む、たたむ。
夫はこれも自らするようになった。
私よりもキッチリと干し、たたむ。
昨日、洗濯機の使い方を私に聞いてきた。
私が旅行に出た時、トリセツを出しておき「その通りにやるだけだから」と出かけたが
なぜか途中でつまづいたらしい。山のような汚れ物が私を待っていた。
やはり繰り返し丁寧に教えなきゃいけないんだと、私は悟った。
 
掃除。
これは道具が大切だ。
転居をきっかけにD社のコードレスクリーナーを買った。
気が付いた時に気が付いた人がササっと掃除する。
男は道具に弱い。このクリーナーが自然と夫を掃除好きの男に変えてくれた。
〇イソン様様だ。
 
料理。
これはもっともハードルが高い。
いまのところ、夫のできる料理は「おにぎり」。以上だ。
「パパのおにぎり美味しいんだよね~!」
私の強力な味方の娘たちが絶賛して、作るようになった唯一の料理。
たまにお好み焼きも焼くが、材料を準備するのは私だ。まだ料理とは言えない。
そして、餃子を美しくひっくり返すこと。これもできるようになった。
ただし餃子を作るのは私だ。
まだまだ道は長い。
「今度はチャーハンに挑戦する」と夫。
「楽しみだな~」と私は笑顔で応える。
味は二の次だ。料理しようという心意気が大事だ。
少しずつレシピを増やし大きく育てたい。
 
私ももう60を超えた。まだまだ若いつもりでも、いつどうなるかはわからない。
夫に先立たれた妻ははじめ気落ちしても、そのあと元気で長生きする人が多いが
妻に先立たれた夫はそうではないらしい。
私の父は母に先立たれ、ある日涙声で私に電話をかけてきた。
それまでお湯ひとつ沸かしたことがない父が、魚を黒焦げにし「情けなくなった」と泣いていた。
そんなせつない想いを夫にはして欲しくない。
だから今、夫をリメイクするのだ。
余談だが、私はリメイク料理が得意だ。
お正月のおせち料理はちらし寿司に、肉じゃがはコロッケに、カボチャの煮物はポタージュに。
思えば夫を「家事ができる男」にするのは、料理のリメイクに似ている。
すでに出来上がってしまった料理を、手を変え品を変え別のものに仕上げる。
捨てるのが嫌いな性分なので、工夫してリメイクし美味しかった時、とても得をした気分になる。デキる主婦になった気分になる。
もちろん、夫を捨てるなんて私にはできない。
誰よりも一緒にいて楽しいトコナツオだ。できる限り長い間一緒にいたい。
だから私は少しずつ夫をリメイクする。
ひとりで家事と育児を引き受け、疲れ切った不機嫌な顔で夫に向き合っていた昔より、
家事を分担できている今の方がずっと仲がいい。
夫もやっとそれに気が付いたようで、私の機嫌がいいのならと、進んで家事を引き受けてくれるようになった。
休日の朝10時には、綺麗に片付いたリビングでゆっくりと珈琲を飲む余裕が生まれたのだ。
 
若い世代は家事分担ができている家庭も多いが、中高年の世の奥様方に私は声を大にして言いたい。
何もしない夫を嘆いてばかりでは暗い夜は明けません。夫をリメイクしましょう!
 
夫はやればできる子なんです。ほめてほめて育てましょう!
これからの貴女の楽しい人生のために。
 
 
 
 
***
 
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2021-02-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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