メディアグランプリ

物書きのプライドと文体のクローゼット


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記事:北川 瞳(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ここ10年くらい、物を書かないで過ごす年は無かった。小説であれ評論であれ、私は絶対に何か文章を書いている。文章を書くこと自体は疲れるけど大好きだし、すごく楽しい。自分の頭の中に思考を貯め続けるとパンクしてしまうから、そういう意味でも思考を文章として成形するのは大事だった。
ただ、いくら文章を書くのが楽しいといっても悩みは尽きない。だいたいの文章は文章にふさわしい表現とか、文章の構成とか、大体今書いてる文章に属してるもので、文章を書き上げてしまえば大して気にならなかった。
けれど、私には一つだけ何年も抱えていた悩みがあった。
自分の文体がとにかく気に入らないのだ。
 
本が好きな人か物書きの経験がある人は知っていると思うが、文体とは平たく言えば”文章のスタイル”のことで、ひらがなと漢字の割合や言葉選び、句読点をどこに打つか、どこで改行するか……といったところから、一文の長短にも作者のスタイルが現れる。
スタイルを使って文章を書けば「その人が書いた文章っぽく見える」ようになるのだ。文体は、文章にとってファッションスタイルみたいなもので、そのスタイルが着ている人、つまり作者の文章を特徴づけるものになる。それが「文体」と呼ばれるものだ。書く側にも読む側にも好きな文体、苦手な文体があって、苦手な文体の本にあたってしまうと中身が良くても読みすすめるのが難しくなったりするのはよくあることだろう。
 
今思えば単に自分の文体が嫌いというよりも「自分の文体はワンパターンだし読んでても面白くない」という自己批判的な考え方が強かった。様々な文体で書ける人に憧れていたし、自分の文章を読みかえしていると、どうしても似たような作風にしかなっていないように見えてうんざりしていた。
私はどうしても文体のクローゼットの中身を変えたかった。今までの中身をすべて捨てて、自分好みのファッションで埋めつくしたかった。まるで今のクローゼットの中に似たような服しかないように思えて、それが不満だったのだ。私がほしいのは美しいドレスのような華やかで上品な文体だ。でも私はかっちりして窮屈な制服のようなものしか書けない。でも具体的に、私はどんな文体になりたいんだろう?
 
そこで私は色んな作家の文章を読んだ。「これだ」と思える文体が見つかれば、それを目標にして自分の文体を変えられると思ったから。同じように趣味で物書きをしている友人にも読んでもらって感想を聞いてみた。
そうしているうちに、私の脳内に自分に対して一つの疑問が出てきた。
 
「もしかして文体を変える必要、ないんじゃない……?」
 
私は自分の文体が気に入らないのはそれがあまりにも堅苦しくみえるからだった。だけど、私の文体が好きだと言う知り合いに文章を見てもらったり、様々な本を読んでいるうちに、それは自分の思い込みに過ぎなくて、別に無理やり変える必要なんてないんじゃないか、という疑問が頭をもたげてきたのだ。
文章を書くことは自分の頭の中を整理する行為だけど、それをどんな形でアウトプットするかは結局その人次第で、文体も自分がそれまでにインプットしてきたものの結晶には変わりがないわけだ。文体を変えることは悪いことではない。だけど、無理やり自分の文体を変える必要もないような気がしてきた。
 
文体に特徴があるということは――言い方は悪いが――文章がある程度パターン化されているということだ。だけどそれは、自分の作風を決める一要素でもあって、そんなに軽々しく否定する必要もないし、自分の文体をより研ぎ澄ます方向にもっていくこともできるのでは?
クローゼットの中身はまるまる取り替える必要なんて無くて、自分の持っている服の種類を少しずつ増やせばいい。現実の服はかさばるけど、自分の文体のクローゼットはいくら中身を増やしたところでかさばらない。
それに、自分の文体を理想に近づけたとしても、いつか文体の好みが変わる日もくるだろう。そうすればまた理想の文体も変わってしまう。そうなるとずっと自分の文体に不満を持つ羽目になって、書くことが楽しくなくなってしまう可能性もある。
そうなったら、文体に何の意味があるんだろう?
 
そうして私は自分の文体に悩むことを止めた。自分の文体を好きになったとは言えないけど、嫌いになる必要もなかった。書くことと仲良く付き合っていくには、憧れに近づく努力も大事だけど、自分の持っているものを磨く努力も、それと同じくらいに大事なのだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-02-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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